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斬捨御免

「全く面倒な事だ! 何故この男爵家の当主であるこの私がこのような軍服を着なければならないのだ!」


 誰に言うわけでもなく、そう捲し立てると男は酒の入ったグラスを煽って、中身を一気に飲み干して空になったグラスを叩きつけるように机に置く。

 隣にいた女達はビクッと身体を震わせるも、笑顔が強張った表情で酒を注ぐ。

 足元には空になった酒瓶が転がっており、すでに男の顔は紅潮していた。

 彼こそがダニート・フォン・ライエル男爵その人であった。


「貴族としてはもっと華やかな衣装に身を包まねば、男爵家の名折れというものだ! そうは思わないか? コルベッツよ」


 男爵の座る椅子の後ろで揉み手をしていた男が前に出て、ニタニタした笑いを浮かべて男爵に近づく。


「その通りでございます、男爵様。軍服のような無骨な衣装は男爵家の当主様には些か……いかがでしょう? 私が帝都で流行の衣装を仕入れて参りましたので、後ほどお召し替えされては?」


「おおおっ! 相変わらず気がきくではないか! しかし、帝都の流行ともなれば、それなりの額はするのであろうな?」


「いえいえ、ほんの金貨50枚でございます」


「なるほど。しかし、社交界に出るのであればそれぐらいは必要だな。よかろう。買ってやる故、今後も良い品を持ってくるのだぞ」


「ははぁ! ありがとうございます。このコルベッツは男爵様の忠実な(しもべ)にございます。今後ともよろしくお願い申し上げます」


 コルベッツは使えるな。

 此奴の商会を後ろ盾にして社交界に出て、他貴族との関係を強くする事が出来れば、我がライエル家は更なる栄達をするであろう。

 さすれば皇帝陛下にもお目が止まり、陞爵も夢ではない。


「父上がなかなか私に爵位を譲らなかったために、遅咲きではあったが、私こそがライエル男爵家を未来永劫残すことができる唯一の……」


「御免」


 なんだ? 誰だ貴様は無礼な! 私を誰だと思っている!

 私はダニート・フォン・ライエル男爵であるぞ。

 そのような濡れた身体で剣を突き出すなど、一体何を考えて……剣を突き出す?

 お、おい……何故、貴様は私の首を()()()()()()()()()()

 貴様は何者……な……のだ……。

 ダニート・ライエル男爵の意識はそこで途切れ、二度と繋がる事はなかった。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 何か話していたようで申し訳ないが、これも戦場の理と思ってください、男爵殿。

 いや、一応軍服着ているし少佐殿の方がいいかな?


「きゃああああああああああ!」


「ひ、ひぃ! お、お許しを!」


 ずぶ濡れの身体で湖から上がり、刀に付いた少佐殿の血を振るって落としていると周りの女達が騒ぎ出す。

 何か一人男が混じってるけど。

 あぁ、さっきの商人か。

 おっと、それより護衛の5人だ。

 状況がわかってないのか棒立ちだけど、すぐ気づくだろう。

 ここはお先に行かせてもらうよ!


「て、てきしゅ、ぎゃあああああ!」


 俺は大声を出そうとしていた手前の一人を一刀の元に斬り捨て、他の4人の動きを観察する。

 良かった! 4人共、俺に向かって来てくれた。

 しかも、全員が長柄槍(ロングスピア)を構えている。

 このまま突撃だ!


「うぎゃあああ! お、俺の腕がぁあああああ!」


「怯むな! 相手は一人だ! 囲んで槍で……」


 こんなに接近してる相手に長柄槍(ロングスピア)は扱いにくいでしょ?

 おまけに胸部鎧(プレートメイル)じゃ、首は守れないんだよ。

 俺は向かって来た一人目の兵の両腕を斬り落とし、指示を出そうとしていた二人目の兵の槍を躱しつつ、首を撥ねる。

 三人目の兵が槍を捨てて、長剣(ロングソード)で斬りかかってくるが、動きが鈍い。

 上段に振りかぶった男の剣の柄頭(つかがしら)を押さえて、無防備な首を一閃で飛ばす。


「う、うわぁあああああ! ま、待ってくれ! 降参……いや、と、投降するっ! するから命だけは助けてくれ!」


 四人目の兵に刃を向けたところ、武器を捨てて降伏した。

 そういえば、一人目も両腕を斬り落としただけで生きてるんだっけ?

 さて、これからどうしよう。

 周りには男爵と兵士の死体が転がっているし、女達は逃げずに頭を抱えてしゃがみ込み、ガタガタと震えている。

 あの商人は逃げ出したのか姿がないな。

 それにしても男爵を討てたのはいいけど、これって証拠として死体を持って帰らないといけないのか?

 そこまで聞いてなかった。

 仕方ない、軍曹殿に聞いてみよう。

 とりあえず女達は無視して、投降した兵と両腕を失った兵を木にでも縛りつけてから軍曹殿のいる方に向かうとするか。

 それで任務(ミッション)完了(コンプリート)だな。

拝読ありがとうございます。

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