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メアリー

1日のアクセス数が2000を越えました!

上位作家さんからしたら大した事ないと思いますが、私には凄く光栄な事です。

読んで下さっている皆様、本当にありがとうございます!

これからもよろしくお願いします。

「あの……どちら様でしょうか?」


 落とし穴に落ちて間抜けにも結構な下層まで落ちてきた俺が最初に見たものは、珍しい桃色の髪で眼鏡をかけたおっとり口調の若い女性だった。

 繊細な刺繍をあしらった絹のような素材の服を着ており、手には分厚い本を持っている。

 ダンジョンには似合わない雰囲気の人で、どっちかと言えば図書館とかにいそうな人だ。


「あ、あの……こ、言葉はわかりますか? 異国の方かしら……えっと……£#$%€&¥£$?」


 俺が反応しないので、言葉が通じないと思ったのか、俺の知らない言葉で話しかけてきた。

 帝国や王国、共和国、連邦、海洋国のいずれにしても言語は共通なので伝わらない方が珍しい。


「あ、あら? これも違うの? もぅ、どうしよう……えっと、えっと……」


「あっ、すいません。最初から通じてます」


 変に慌て始めたのでとりあえず挨拶を返しておく。

 疑問は残るし、不審ではあるが、相手から見れば俺も同じだろう。

 このままでは埒が明かないしな。


「も、もぅ! 通じているなら通じていると早く言ってよ! わ、私が馬鹿みたいじゃないの! もぅ!」


「失礼しました。いきなり落とされたと思ったら、目の前に美女が現れたので驚いてしまいまして……」


 これは本音だ。

 ジェニングス中将のような華やかさはないが、おっとりとしたお淑やかな美人で、一緒にいるとなんとなく落ち着く感じがする。


「び、美女っ! もぅ! そ、そんなわかりやすいお世辞には引っかかりませんよ! もぅ! 年上を揶揄(からか)うんじゃありません!」


 顔を真っ赤にして、『ぷんぷん』と擬音が聞こえてきそうな可愛い怒り方をする年上女性。

 年上という割にはずいぶん幼い口調だけど、これはこれでリンテール少尉と同じく一部の人に凄い人気が出そうだな。

 帝都にいたらすぐに求婚者が跡を立たなくなるかもね。

「しょうか……俺はリクト。駆け出しのGランク冒険者で、落とし穴に落ちてここまで来ました」


 『小官』と言いかけて慌てて訂正した。

 ダンジョンには色んな国の人がいるので軍人とバレると余計なトラブルになりかねないからね。


「わ、私は……その……『自称ダンジョン研究家』のメアリーよ。ここにはダンジョン研究のために来たのよ」


 自分で自称と名乗るとは珍しい人だな。

 それにしてもダンジョン研究家? 聞いたことがない職業だ。


「そのダンジョン研究家って……っ!」


 メアリーさんにダンジョン研究家について聞こうと思った時、広間に繋がっていた通路からバカでかい虎が姿を現した。

 眼を真っ赤に血走らせ、口からはドロッとした涎を垂れ流しながらジリジリと近づいてくる。

 今まで遭遇した魔物とは格が違う。

 こいつは簡単にはいかなそうだ。


「メアリーさん、少し下がって……」


「もぅ! また来たの? もぅ! しつこいわね!」


 かっこよく後ろに下がらせようとした俺の手をスッと避けて、前に出てくるメアリーさん。

 これは恥ずかしい! 恥ずかしいよ、俺っ!

 ん? 今さっき『()()()()()()』って言ったよな?

 もしかして……知り合い?

 そう思って、チラッと虎の方を見てみたが、喉を鳴らし、垂らす涎はすでに湧水の如く止めどなく溢れていた。

 うん、違うわ。

 完全に喰おうとしてるもんな。

 あれ? じゃあ、前に来た時は喰わなかったのか?

 もしかして、ものすごく強いとか?

 その時だった。

 バカでかい虎はその巨体に似合わない速度でメアリーさんに飛びかかった。

 そして、前足でメアリーさんの脚を押さえ、頭から腰辺りまで一気に被りついた。

 そこからはバキッゴキッと何かを噛み砕くような嫌な音がしていた。


「しまったぁああああああ!」


 俺は自分が変な考えをしていたせいで対処が遅れた事を悔み、怒りに任せて虎に斬りかかる。

 すでにメアリーさんは絶命しているであろうが、せめて仇を打ってあげたかった。


「うおおおおおおおおおおおおっ!」


 目の前まで近づくと虎の巨大さがよくわかる。

 おそらく全長10メートルはあるだろう。

 しかし、怯むわけにはいかない!

 人を目の前で死なせてしまったのだ。

 しかも、俺自身が気を抜いていたせいで……。

 かくなる上は、俺の全力を持ってこいつを斬り捨てるしかない!

 俺もただで済まないが、最大最強の技を放つのみ!


「滅剣……」


 俺は自身の力の全てを刀に込め、技を放とうとしたその時だった。


「もぅいいでしょ! こんなにべちゃべちゃにして! もぅ、馬鹿っ!」


 相変わらずの幼い口調でメアリーさんが怒った。

 そ、そんな……ば、馬鹿な……。

 だって、今も腰辺りまで齧りつかれたままだし、何より骨が砕ける音もしたのだ。

 一体、どういう事だ?

 俺はあまりの衝撃に刀に込めていた力を抜いてしまった。

 それに血が昇っていた頭もすっかり落ち着いた。

 そして改めて虎を見てみると、確かに齧りついてはいるが眼は真っ赤に血走っていた眼は涙目になっているし、それでも必死に頑張っている姿が妙に愛らしかった。


「あのぅ! もぅ、いい加減にして! お姉さん、怒っちゃうよ!」


 メアリーさんは相変わらずの口調で怒っているし、虎は一緒懸命だし……俺はどうすればいいんだ?


「もぅ! しつこい子はお仕置きだよ! えいっ!」


 メアリーさんの可愛い気合いが聞こえたと思ったら、虎が声ならざる声を上げて、飛び上がり、元来た通路を鳴きながら走り去っていった。

 残されたのは事態を飲み込まない俺と虎の涎(まみ)れのメアリーさんだけだった。


「もぅ! こんなに汚しちゃって! 悪い子!」


 メアリーさんは相変わらず可愛く怒っているだけだった。

 普通、それじゃ済まないんですけど……。


いつも拝読ありがとうございます。


たまに漫画とか小説でありえない口調のキャラクターがいて、『なんでこんな口調なんだろう?』と思ってましたが、自分で小説書いてて何となくわかりました。

キャラの書き分けって思ったより難しいですね……

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