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油断大敵

 ダンジョンは場所によって造りが異なっており、似たような物はあっても一つとして同じ物はないという。

 ここフェンドラのダンジョンは洞窟というよりは遺跡を思わせる造りをしている。

 古びた石造りで壁の所々に植物が枝を伸ばしていたり、苔が生えていて長い年月をかけて形成されたような雰囲気がある。

 なかなか趣があっていい雰囲気だ。


「今日のところは慣れる程度にしておくか。そうだなぁ、確かこのダンジョンは下に降りていくタイプって聞いたから降りる方法くらい見て帰るか」


 ダンジョンには様々な種類があり、大体は下に降りるそうだが、たまに上に昇るものもあるらしい。

 とりあえず俺は道なりに進んでいく事にした。

 すると奥の角から魔物が姿を現す。

 鼻と耳が尖った特徴的な顔、緑色の身体に粗末な衣服を着ており、手にはこれまた粗末な武器を持っている。

 ゴブリンだ。数は三匹。

 これもダンジョンは魔物の産み出した魔物なのだろう。

 三匹は俺が一人だと思って甘く見たのか何の策もなく突っ込んでくる。

 俺はそれを通り過ぎ様に斬り捨てた。

 なんせゴブリンには採れる素材がない。

 だから放置して行こうと思ったが、ふと疑問が湧いた。

 そういえば、このゴブリン達って放置してたらどうなるんだろう?

 そう思って俺がしばらく死体となったゴブリン三匹を見ていると、ダンジョンが死体をスッと吸収していった。

 なるほど、こうやって吸収して糧としているんだな。

 魔物であれ冒険者であれ成れの果てはこうなるわけだ。

 それにしても自分が産み出した魔物を吸収して意味があるのか?

 などと疑問を持ちつつも俺は先を進んでいく。

 その後も素材にならないような低級な魔物しか出なかったので、俺は下の階層に足を延ばすことにした。

 下へ通じる道は少し大きめの広間にある古めかしい階段だった。

 そこで幾つかの冒険者パーティーに遭ったが、あまり不用意に近づくのはマナー違反らしいので関わりをもたないように先に進んだ。

 それにしても、ここまではゴブリンやコボルトばっかりでお金にならないから困る。

 なんせ今回は陛下からの勅命だから経費の請求先がないのだ。

 陛下に『経費をくれ』とは言えないし……。

 つまり、これまでに買ったポーションや食料品、生活用品と今日からの宿泊費、生活費は全て俺の自己負担だ。

 すでに金貨20枚以上使ってるんだから、少しでも素材を持ち帰ってお金にしないと路頭に迷うことになる。

 こうなったらお金になる魔物が出る階層まで行ってみるしかない。

 俺は更に下の階層に向かって行った。


「さてさて、ここは何が出るんだろう……ん? なんだ? 白い……綿?」


 俺は通路の先にフワフワとした綿のような雲のような物が浮いているのを見つけた。

 大きさは30センチくらいで数は6個。

 特に毒のような匂いもしないし、近づいてみると何故か俺が進んだ分だけ離れていく。

 なんだこりゃ?

 無視しようかとも思ったが、いい加減前方にずっとフワフワ浮いているのが鬱陶しくなったので、俺は刀を抜いて一足飛びにフワフワの近くまで飛び、全て斬り伏せた。

 地面に落ちる6個のフワフワだったが、正体がわかった。

 兎だ。多分、綿毛兎だろう。

 確か情報屋のルイードが高値で売れると言っていたからこれはラッキーだった。

 それにしても……兎という割には愛らしさがないなぁ。

 少し垂れた目と口角の上がった口が、逆に憎たらしさを感じさせる。

 俺はそんな事を思いつつ、六匹の綿毛兎を魔法鞄に突っ込んでから先に進む。

 すると、この階層は当たりなのか綿毛兎以外にも立派な角を4本も持った牛とか、下顎から突き出た牙が特徴的な大きな猪とか出てきた。

 こういう魔物は普通の山にもいるけど皮や牙、角、肉など買い取ってもらえる部位が多いからありがたい。

 なるべく多く狩って行こう。

 そう思った俺は片っ端から目に映る魔物を斬り伏せて行った。

 斬り伏せては魔法鞄に詰め込み、詰め込んでは斬り伏せるを繰り返した。

 そして最終的には綿毛兎が14匹、牛が6匹、猪を8匹斬り伏せた。


「ふふふ、これだけ狩れば今回の出費の元が取れるはずだ。今日はこの辺で帰るとするか」


 そう思って、一度地上に帰ろうと思った時だ。

 完全に油断していた。

 降りてきた階段を逆に昇ろうとした瞬間、俺の足元から床が消え去った。

 急とは言え、普段の俺だったら落ちるまではいかなかったろう。

 しかし、素材を売った金の事を考え、気を抜いていた俺は反応出来ず、落ちてしまった。

 落ちた先は表面がツルッとした傾斜のある床。

 俺はそこを滑り落ち、下へ下へと降りていく。

 迂闊だった……ダンジョンは魔物だけでなく罠でも侵入者を殺して糧としようとするんだった。

 こんな古典的な罠に引っかかるとは……はぁ、情けなくて声も出ない……。

 5分ほど滑り落ちただろうか。

 俺は石造りの広い部屋に投げ出された。

 しかも、勢いが殺しきれずに、これまた情けない事に尻もちをついてしまう。


「いてて……本当に情けないわ。最近ちょっと浮かれすぎだなぁ……」


 打ち付けた尻を撫でながら立ち上がる。

 それにしてもここは何処だろう?

 そう思って、周囲を見渡すと。


「あ、あの……あ、貴方様はどなた様ですか?」


 殺伐としたダンジョンには似つかわしくない、おっとりとした声で呼ばれた。

 声のする方を見ると、珍しい桃色の髪をし、眼鏡をかけた一人の女性が不思議そうな顔をして立っていた。


いつも拝読ありがとうございます。


さて、ダンジョンに突入したわけですが、ダンジョンって作家さんによって色んな見解がありますよね。

なろう作家さんの中でも様々なダンジョンが登場しているわけですが、私の考えるダンジョンは『生きている』です。

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