軍人保留
「シュナイデン卿には冒険者になってもらう」
「……へ?」
突然の陛下の命令に理解が追いつかず、間抜けな声を上げてしまった。
でも、仕方ないだろう。
冒険者? えっ? 軍人はクビってこと?
俺、何かしたっけ?
あっ! もしかして昨日のヴォルガング子爵とリンテール子爵の令嬢との騒ぎの件か?
やっぱりマズかったのかなぁ。
あの騒ぎの後は大尉や少尉を連れて屋敷の一室で話し合いをしていたみたいだけど……俺への懲罰でも考えていたんだろうか?
結局、あの後は誰とも合わず、宴も終わる頃になってダウスター子爵様に呼び出されて、明朝、再度登城するように言われた。
朝になって屋敷のメイドに起こされ、支度を整えているとすでに迎えの馬車が来ていた。
そのまま有無を言わさず馬車に乗せられ、帝城内に入ると、ホールにいたテラーズさんに皇帝陛下の執務室に案内された。
そして、陛下と机を挟んで対面に座らされたかと思ったら、いきなりクビ宣告だよ。
つまり、両子爵家からダウスター子爵様に苦情が言って、皇帝陛下からお咎めって事か……。
まいったなぁ。
折角、少尉になったのに一つも仕事をしないまま終わるとは……。
「どうした? シュナイデン卿? 何か言いたい事でもあるのか?」
俺の浮かない顔を見て、陛下が心配してくださる。
「いや、せめて少尉として少しでも仕事をしてからが良かったと思いまして……」
「こちらにも都合があってな。性急で悪いが冒険者の方を優先してくれ。軍令部には帝室から連絡をしておくので、終わってから任務につけばいい」
「…………えっ?」
「『えっ?』とは何だ? 何か不都合があるのか?」
「あの、クビなのでは?」
「クビ? 何故、卿をわざわざクビにせねばならんのだ? 他にクビにしたい者がゴロゴロいるというのに」
あれ? 俺はクビじゃないのか?
じゃあ、何で冒険者ってのは何の事?
「陛下……説明不足でシュナイデン卿が混乱しています。ここはちゃんと説明をしていただかないと」
宰相ドレッド・フォン・フリード公爵が陛下に苦言を呈した。
やっぱり途中の説明をすっぽかしたんだな。
道理で意味がわからないと思った。
「なら、お前が説明しろ。私は冒険者の事に疎いところもあるからな」
そう言って腕を組んで顔を背け、拗ねる仕草を見せる。
「はぁ……わかりました。シュナイデン卿、卿には軍を辞めずに冒険者としての功績を立ててほしいのだ」
「冒険者としての功績……でありますか?」
宰相殿の話によると、俺は現在帝国軍の少尉であり、帝国貴族の騎士爵でもある。
しかし、これはあくまで帝国内における地位だ。
階級にしても階位にしても帝国の評価なので、諸外国においては通用しない事も多いそうだ。
そこで活用されるのが『冒険者ランク』というものらしい。
冒険者ランクは国に属さない世界的な組織である『冒険者組合』が認定しているもので、いかなる権力にも屈さず、不正が働けないものらしい。
その理由はランク保持者は必ずランクに合った任務を定期的にこなす必要があり、できなければ即降格となるからだそうだ。
それにより冒険者ランクは世界的な地位として認められており、上位者には囲い込み、勧誘も含めてかなり高待遇がなされるとの事だ。
「――つまり、今後の国外での活動を視野に入れて世界的な地位である冒険者ランクを取得しておくことが望ましいのだ。そのために冒険者登録をしてきてくれ」
「そういう事でしたか。あの、他の方も冒険者ランクを持っておられるのですか?」
「軍務の関係もあるので、全てではないが自薦他薦を問わず希望者にはなるべく取らせている」
そうか。
なら、断る理由はないな。
田舎のダウスターにも冒険者組合はあったけど、依頼はほとんどが農作業の手伝いとかばかりで、冒険者組合というよりは農作業組合みたいな感じだった。
でも、帝都なら依頼には事欠かないだろうし、食いっぱぐれることはないだろう。
「冒険者ランクは古代文字によってランク分けされている。初級ランクのG、F、中級ランクのE、D、C、上級ランクのB、Aだ。そして、最高ランクのSとなっている。上級ランク以上ともなればかなりな実力者である事を証明できるぞ。先ずは中級ランクを目指せ」
「はっ! では、早速冒険者登録を行い、依頼をこなして……」
俺は御二方に礼を述べた後、退室しようとした。
冒険者には俺も昔は憧れたからねぇ。
階級、階位を得て、冒険者ランクまで手に入れられるとはな。
これは面白くなってきたぞ。
「待て。普通に依頼をこなしていてはランク昇格に時間がかかり過ぎるのだ」
膨らむ欲望を立てながら退室しようとする俺を宰相殿が止める。
それにして依頼をこなすだけじゃダメなのか?
なら、どうすればいいんだろう。
「えっ? では、どうやって……」
「それはな……」
「ダンジョン攻略だ」
皇帝配下と宰相の悪い笑みが俺の眼前に広がっていた。
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