娘達の挑戦
「父上、恥ずかしい真似はお止めください!」
「お父様もぉ、同罪だよぉ〜」
この声、この口調、聞き覚えがある。
ヴォルガング大尉とリンテール少尉だ。
しかし、外見が違う。
着飾っているから見間違えたとかってレベルではなく、明らかに違う。
先ずはヴォルガング大尉だが、黒髪の長髪ストレートだったはずなのに、亜麻色のショートボブになっている。
おまけに身長は頭一つ分は低く、目つきが大尉より鋭い。
リンテール少尉も金髪は同じだが、ポニーテールではなくツインテールで髪の毛がかなり長い。
顔はよく似ているが……あの立派な双丘がなくなっている。
うん、間違いない。
別人だ。
「イリアか。これはお前が口を出す話ではない」
「おおおっ、我が愛しのクリスティーヌちゃん! しかし、これは男として譲れぬ事なのだ。許しておくれ」
両子爵の発言に二人の娘は怪訝な顔になる。
「父上は名誉あるヴォルガング子爵家の当主なのですよ? 軽率な行動はお控えください」
「お父様もだよぉ、この前もお母様に怒られたばかりじゃないのぉ」
イリア、クリスティーヌ、父上、お父様……。
どうやら親子で間違いないらしい。
「少尉。話の途中ですまぬな。これは私の娘でアリシアの妹でもあるイリアだ。娘の無作法を詫びよう」
「父上! たかが少尉程度の男に頭を下げるなど、子爵家の誇りを何とお考えですかっ!」
結構な剣幕で怒るイリアという女性。
大尉とは随分違……いや、最初はこんな感じだったかな?
「相変わらずだな、イリアは。少尉、我が愛しのクリスティーヌちゃんだ。ファンティーヌちゃんの姉に当たる」
「……少尉さん、初めましてぇ。クリスティーヌ・フォン・リンテールですぅ」
クリスティーヌという女性は一応、礼をしてくれるが表情は好意的ではないな。
なんというか無表情で、仮面を被っているようだ。
それにしても二人ともかなり焦っているように感じるけど、何かあったのだろうか?
「父上。父上は今、このような警備の者に構っている場合ではない筈です。一刻も早くシュナイデン卿を探し出し、姉上の仇を討つべきです」
「そうですよぉ。お父様もファンティーヌちゃんの汚辱を晴らさないといけないんですよぉ。こんな人に構ってる暇はないんですぅ」
……はいっ?
この二人は何を言ってるんだ?
シュナイデン卿って……あっ! この二人は俺がシュナイデンだって知らないのか!
それにしても仇討ちとな汚辱を晴らすとか……物騒な事を言うなぁ。
「はぁ……少尉、すまんな。娘の重ね重ねの無礼を許してやってくれ」
「うむ、私からも謝罪しよう。さすがに無礼が過ぎるな」
「ま、まぁ、大丈夫ですよ」
父親の謝罪に二人の娘は更に怪訝な顔をし、俺を睨む。
そして、二人揃って俺の前に仁王立ちした。
「貴方! 何ですか今の物言いは! 子爵家の当主に頭を下げさせておきながら……無礼な! そこに直りなさい! 私が成敗してあげましょう!」
「イリアちゃん、私もやるよぉ! 頭冷やしてあげるからねぇ」
そう言うと二人はドレスを着たままにも関わらず、臨戦態勢に入る。
イリア嬢は近くにあった取り分け用のナイフを持ち、クリスティーヌ嬢は魔力を集中させている。
頭を下げさせてって……それは俺のせいじゃないでしょうに……。
それにしてもマズいぞ、いくら何でもこんな所で戦うわけには……。
「少尉! 良い余興だ。二人を制してみよ!」
「責任は我々が取る! 気にせずやれ!」
えええええええええええっ!
両子爵様も無茶苦茶言うなぁ……。
でも、放置するわけにもいかないし、どうしよう。
「ふん! 父上もお目が曇ったようね。なら、先手は譲るわ! どこからでもかかってきなさい!」
「あははっ! いつでもおいでぇ」
二人のお嬢様もノリノリだし……仕方ない、やるか。
大事にならないようにサッと済ませよう。
「では、参ります」
俺はそう言って二人を見つめる。
二人とも余裕の笑みを浮かべており、いつでも来いと言わんばかりの表情だ。
なら、行かせてもらいましょう。
「どうしたっ! さっさと来るが……何っ!」
「えっ? えっ? き、消えた?」
二人は俺の姿を見失ってしまったようだ。
やれやれ、いくら一足飛びに来たとはいえ、この程度のスピードについてこれないとは……。
「お二人とも、戯れは程々に願います」
俺はそう言いながら並んで立っていた二人の真ん中に立ち、後ろから肩越しに手を回して首筋に手刀を突きつける。
二人はその状態になって初めて俺が後ろにいる事に気づいた。
鈍くない?
「い、いつの間に……ま、魔法使いか?」
「ち、違うよぉ、魔力なんか感じなかったもん……な、何者なのぉ……」
二人は信じられないモノを見たかのような表情で声を震わせる。
そんなに早く動いたつもりはないんだけどなぁ。
「これは……想像以上だったな」
「……あぁ、アリシアちゃんやファンティーヌちゃんが負けたというのも、あながち嘘ではないようだな」
両子爵様は両子爵様で何か言っているし、一体、俺に何の用だったんだ?
それにしても帝都には血の気の多い人が沢山いるなぁ。
のどかなダウスターが懐かしいよ。
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