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帝国の首輪

アクセス数がかなり増えており、累計ではありますが、遂に20000アクセスを超えました。

応援してくださった皆様のお陰です。

これからも毎日更新頑張っていきたいと思いますので、よろしくお願いします。

 

「ち、長官……」


「久しぶりだな、ヨーゼフ。息災であるのは良いが、警戒を怠るのは良くないな」


 戸惑うヨーゼフの言葉に白髪の男は表情を強張らせたまま答えた。

 この顔は見覚えがある。


「帝城の執事殿か?」


「ご挨拶が遅れて申し訳ありません、ダウスター卿。改めまして、私は皇帝陛下の執事を務めさせていただいております、テラーズ・フォン・フリードと申します」


 俺の問いかけに慌てる様子もなく、礼をして執事は答えた。

 やはりあの時の男か。

 しかし、さっきヨーゼフの言った長官とは……待てよ、どこかで聞いた事がある名だ……そうだっ! 元帝国諜報部長官っ! 《達観(たっかん)のテラーズ》だっ!

 引退したとはいえ、元長官が何故(なにゆえ)執事などをしているのか気になるが、それより此度の来訪の方を優先すべきだろう。

 とりあえず、今は話を聞くしかない。


「その……陛下の執事殿が如何なる用件で参られたのか?」


「シュナイデン卿の《佩剣御免》について御説明が必要かと思いまして、僭越ながらお邪魔させていただきました」


 礼をしてはいるが、一分の隙もない。

 淡々とした口調で感情の起伏が感じられぬ。

 からくり仕掛けの人形のようだ。


「そうか……では、聞かせてもらえるかな?」


「はい。《佩剣御免》はご存知とは思いますが、陛下の御意思だけでは認められません。万が一に備え、身元の確かな上級貴族の同意が必要となります」


「それは知っている。しかし……」


「ええ、ダウスター卿は同意されておりません。それどころか、この話すら事前には知らなかった筈です」


 当然だ。

 シュナイデン卿が呼ばれて部屋を出た後に、陛下が来られて先に帰るように言われたのだからな。

 《佩剣御免》の事は帰ってきたシュナイデン卿に聞くまで知らなかった。


「同意された貴族の方はどなた様ですかな? ヴォルガング子爵、もしくはリンテール子爵ですかな?」


「違います。同意したのは私と兄です。2人で陛下に進言させていただきました。陛下もすぐに御認めになられましたよ」


「兄? 失礼だが兄御(あにご)殿とは?」


「我が兄はこの国で宰相を務めさせていただいております」


「さ、宰相っ!」


 さ、宰相と言えば、あの六剣士の末裔であるフリード公ドレッド殿だ!

 こ、公爵家がシュナイデン卿の後見に付いたというのか!


「信じられぬ……何故、そこまでできるのだ? 何か裏があるのではないか?」


「旦那様。長官……いえ、テラーズ様は《魔眼》の持ち主なのです。おそらくは……」


 俺の疑問に答えたのはヨーゼフだった。

 《魔眼》持ちか。

 一体、どのような《魔眼》だ?


「私の持つ《魔眼》は《看破の視線(ペネトレイトゲイズ)》。相手の本質を的確に見抜く《魔眼》でございます」


「では、その力でシュナイデン卿の本質を見抜いたという事か?」


「それもありますが、私も諜報部の長を務めた男。人を見る目には自信がございます。その私が彼は信用できると断言致します」


 そこまで言わせるとは……。

 しかし、気になるのは目的だ。

 宰相と、それに連なる者が何の見返りもなく行動するとは思えない。

 やはり、裏がある筈だ。


「進言した理由は?」


「気に入ったから……というだけでは納得しないでしょうな。胸襟を開いて申し上げますと、彼の力が帝国に必要だからです」


「それはどういう意味だ?」


「ご存知の通り、我が帝国は三方を他国に囲まれております。西の王国、北の共和国、南の連邦。現在は共和国以外とは戦争にはなっておりませんが、今後の事はわかりません。それに最近になって出張ってきた東の海洋国家の存在も無視はできません。そのような情勢の中、彼のような優秀な人材が野に下る事があれば帝国の損失、敵国に寝返れば脅威となります」


 確かに帝国は軍事国家だ。

 現在も北の共和国と境界線を巡っての諍いから戦争へ発展し、現在も侵攻作戦を展開中だ。

 王国や連邦は現状静観しているが、今後どのような行動にでるかはわからない。

 加えて、唯一海に面しており他国と繋がりがなかった東側より、海を越えて海洋国家が出張ってきおった。

 今は相互貿易という形で良好な関係を築けているが、他国との共謀もないとは言い切れない。

 まさに帝国は今、四面楚歌の状況にある。


「つまり、シュナイデン卿に首輪を付けるというわけか?」


「否定はしません。しかし、陛下も我々兄弟も彼を高く評価しているのは事実です。ただ優秀というだけの者なら、せいぜい小さな勲章を与えるだけでしょうからな。彼に与えた《帝国緑風勲章》と《佩剣御免》がどれだけの価値があるか、聡明なダウスター卿にはお分かりでしょう?」


「その二つの栄誉となれば上級貴族の婿養子にもなれるだろう。それどころか門閥貴族に名を連なる事も可能だろうな。おまけに臣下とすれば寄親というだけで自慢できる。すでに幾人かが直参として登用しようと画策していると聞くほどの騒ぎだ」


「それについてはある程度はこちらから抑えておきます。しかし、本人の自由意志を奪う事のないようにだけご留意いただけますかな?」


「見くびられたものだ。私はそこまで吝嗇家(りんしょくか)ではない」


「お酒以外は……ですね?」


 チッ! 嫌味を言ってきおって。

 まぁ、間違っておらんから言い返すこともないがな。


「軍の階級については陛下は関与されません。妙な軋轢(あつれき)を生む事になりますからな。しかし、今後は働きによっては階位は上がるでしょう。寄親である子爵を越える事になるやもしれませんが、よろしいですかな?」


「構わぬ。正当な栄達を邪魔する気はない」


「不当は許さぬ……という事ですかな?」


「当然だ。それは彼奴のためにならぬからな。一足飛びの陞爵は他の貴族共の反感を買うだけだ。俺はいつまでも味方のつもりだが、守り切れないほどの敵を作られては困る」


「意外と過保護なようで驚きました。ですが、最もなご意見です。必ず陛下にお伝えいたします」


 ほんの少し、笑みを浮かべよったな。

 どうやら、人形ではなかったようだ。


「では、私はこれで失礼致します。最後に一つ、明日もう一度シュナイデン卿を登城させてください。陛下からの勅命がございますので」


「な、なにっ! ま、待て! それはどういう事だ!」


 俺の質問に答える事なく、執事は礼をしたままの姿勢で影へと沈んでいった。

 ええい! 最後の最後にまた厄介な事を言いよってからに!


「……旦那様」


「やむを得んだろう。とにかく、先ずは陞爵と授爵祝いだ。その後にシュナイデン卿を呼び出してくれ。祝いの席で沈んだ顔をされたら敵わんからな」


「かしこまりました」


 ヨーゼフが部屋を出て行き、1人残った部屋で俺は陽の暮れた空を見上げた。

 

「この平穏がいつまでも続けば良いのだが……」


 その儚い願いは誰に届くこともなく、虚しく空に消えていった。


いつも拝読ありがとうございます。

評価、ブックマークしてくださる方々もの増えており嬉しい限りです。

感想、レビューもお待ちしております。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 最後の方にある「言い寄って」は言いに来るという意味だと思うので「言いよって」が合ってると思います
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