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来訪者

話が長くなったので途中で切りました。

文章の繋がりがおかしかったら、お伝えいただけたら幸いです。

 陽が傾き始めた室内は暗闇に包まれかけていた。

 部屋には灯りも点けずに椅子に座る1人の男の姿があった。

 スキンヘッドに大柄な身体は椅子に相当な負荷をかけており、更に時折小刻みに揺れる足のせいで椅子は不必要なキィキィという音を奏でていた。

 アーベル・フォン・ダウスター子爵は悩んでいた。

 悩みの原因はさっきまで対面に座っていた自慢の部下、リクト・フォン・シュナイデンの事だ。


「全く……彼奴ときたら事の重大さに何一つ気づいておらん」


 彼の独白は静まり返った部屋に虚しく響いた。

 それを打ち消すかのように今度は扉をノックする音が響いた。

 返事をすると帝都屋敷の家令を務めるヨーゼフが部屋に入ってきた。


「旦那様、御呼びでしょうか?」


「いや……すまん。独り言だ」


「左様でございますか……酷くお疲れの様子、何かお飲み物でも御用意いたしましょうか?」


 そんな酷い顔をしていたのだろうか?

 確かに、彼奴からの報告を聞いてからというもの、頭を悩ませてばかりだったからな。

 1人で悩んでいても進展はしないし、ここは知恵を借りるとするか。


「いや、それはいい。代わりと言っては何だが、少し相談に乗ってくれないか?」


「この老いぼれが役に立つのであれば、なんなりと」


 そう言いながら室内に灯りを灯していくヨーゼフ。

 老いぼれ……か。

 齢60を越え、確かに身体も昔より小さくなった。

 しかし、今でも隙のない身のこなしや頭の回転の速さは衰えていない。

 私の不在時の帝都屋敷を任せられるのはこの男、ヨーゼフしかいないのだ。

 ヨーゼフは元帝国諜報部官であり、当時の情報ルートも未だに生きているため、貴族や帝都の事情にも詳しい。

 その情報のおかげで幾度も貴族間の争いにおいて難を逃れてきた。

 私の懐刀でもあるヨーゼフであれば、私の悩みを解決できるかもしれん。


「シュナイデン卿の事だがな」


「聞けば《帝国緑風勲章》を授与されたそうですね。門閥貴族や上級軍人、高級官僚の数名が悪評を流しているようです。しかし、それは牽制……悪評を流して評判を下げ、競争相手が減った所で自身の配下にしようと画策しているものと思われます」


 やはり耳が早い。

 今日の午前中の謁見での出来事を正確に掴んでおり、おまけにその後の他者の動向までも把握しているとはな。

 だが、さすがにその後の事までは知らんだろう。


「それもあるが、実はその後の方が更に問題でな」


「騎士爵への叙爵……だけでは旦那様がここまで御心を乱す事はないでしょう……何か下賜されましたか?」


「っ! さ、さすがはヨーゼフ。その通りだ。武器……刀を下賜されたそうだ」


 推測ではあるだろうが、あまりにも的確に言われたので驚きを隠せなかった。

 帝国諜報部恐るべし、だな。


「それはそれは。まさかの《佩剣御免(はいけんごめん)》とは……少々、疑問が残りますな」


「そうだ。本来なら《佩剣御免》は陛下の独断で決められる事ではない。他に幾人かの貴族、それも上級貴族の同意がなければならないのだ。しかし、私はそのような話は聞いておらんし、シュナイデン卿に他の上級貴族との繋がりがあるとは思えん」


「つまりは第三者の介入があったのではないか……という事ですね。しかし、他の有力貴族が自身の配下にするためしても行動が早過ぎます。勲章授与があってから間がありません。最初から仕組まれたにしても、やはり時間が足りません」


 第三者の介入があったとすれば、それは一体誰なのか、目的は何なのかという疑問が生まれる。

 しかし、ヨーゼフが言う通り何を置いても行動が早過ぎるため、第三者の心当たりすら思いつかない。

 それに更なる問題行動がある。


「おまけにあのシュナイデン卿(世間知らず)は陛下とサシで酒まで呑み交わしたそうだ」


「なんとっ! ……しかし、妙ですね。そこまで陛下の信頼が厚くなる程の事をしたとは思えませんが……」


 ヨーゼフの言う通りだ。

 陛下と単独で酒を交わす、食事の席を共にするというのは門閥貴族共ですら簡単に行う事はできない。

 まして、叙爵されたばかりの騎士爵程度が出会ったその日に出来る事ではないのだ。

 陛下は何故、彼奴にそこまで心を許したのか?

 謎は深まるばかりだ。


「一体、何が……」


「私からご説明いたしましょう」


 自分の独白に不意に声をかけられ、思わず手元に置いてあった武器の柄に手をかける。

 ヨーゼフも警戒しながら私の側まで駆け寄ってきた。

 馬鹿なっ! この部屋には間違いなく私とヨーゼフしかいない。

 窓は閉まっているし、扉は一つしかない。

 しかも、その扉の側には元帝国諜報部官のヨーゼフがいたのだ。

 気づかれずに侵入する事など不可能だ!

 おまけに声がした方を見ても姿は見えない。

 ヨーゼフも普段通り落ち着いた表情をしているが、冷汗が頬を伝っているのが見える。

 どうやら、ヨーゼフでさえも相手の出所がわからないらしい。


「失礼。火急の用件につき、連絡もなく参りました事を深くお詫び致します」


 そう言いながら、白髪の男がボウアンドスクレイプの姿勢のまま()()()()()()()()()()

 暗闇から出てくる黒い衣服を纏った無表情の男は、まるで悪魔の様にも見えた。


いつも拝読ありがとうございます。

新たにブックマークしていただいた方々、重ねてありがとうございます。

これからもよろしくお願いします。

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