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追加の褒美

少尉編が始まって結構経ちますが……未だに少尉になってません。

詐称ではありませんので、もう暫くお待ち下さい。

 陛下が手ずから酒を注ごうとするので、慌てて代わる。

 陛下に酌をさせたなんて知れたら、さすがにテラーズさんに怒られそうだしな。


「無色透明の酒はあまり見た事がないが、果物を思わせる芳醇な香りは味を期待させる。さすがは大虎のアーベルが寄越しただけはあるな」


 大虎って確か酒好きって意味だっけ?

 確かに子爵様は好きだよなぁ。

 林檎のブランデーもかなり飲むし、私室には壁一面の酒棚があるくらいだ。


「――――ほぅ、これは素晴らしいな。フルーティーな香りに透明感のある喉越しと深い味わい。雑味がなく、まろやかでつい飲み過ぎてしまいそうだ。これ程の衝撃は《林檎の妖精(アップルフィー)》以来だ。実に美味い」


 一口、飲んだだけでかなりの高評価をくれる陛下。

 造るのに苦労した分、こんなに褒められると嬉しくなってしまうな。

 どれ、俺も呑ませてもらおう―――うん、美味い!


「これは何の酒だ? 果物ではなさそうだが……」


「これは(ライス)ですよ。じっくり低温で発酵させて造るので時間がかかりますけどね」


 そう、この酒は造るのにとにかく時間がかかる。

 米を削ったり、発酵させたり、酵母を作ったりと手間がかかるので仕事の合間にやっていると二ヶ月から三ヶ月はかかる。


「……そうか。では、こいつは更に特別とか聞いたが、それは何だ?」


「あぁ、それは『生酒』ですからね。本来なら保存が効くように『火入れ』という過程をするんですけど、すぐ飲むならこっちの方が清涼感が増して……」


「何故、知っている?」


 っ! し、しまった!

 褒められたのが嬉しくて、つい喋ってしまった……。

 ま、まずい……どうしよう……。


「どうやらお前はこの酒に詳しいみたいだな? 知っている事は全て話した方が身のためだぞ?」


 ひぃぃぃぃ! 獲物を見る野獣の眼だ!

 絶対に逃さんという強い意志が感じられます!

 子爵様といい、中将といい、陛下といい何でこんなに酒に拘りが強いんだよ!

 お酒は楽しく呑みましょうよ!


「……ほれ、吐いてしまえば楽になるぞ?」


「わ、わかりました……」


 結局、俺は威圧に負けて自身が趣味で酒を造っている事、この酒と《林檎の妖精(アップルフィー)》は自分が造った物である事を話した。

 子爵様に注意されてたのに……一生、酒造りとかさせられたらどうしよう……。


「なるほどな。道理でアーベルは《林檎の妖精(アップルフィー)》を定期的に手に入れられるわけだ。まぁ、私としては美味い酒が飲めればそれでいいんだが」


「あ、あの……俺はどうなるんでしょう?」


 おずおずと聞く俺とは対照的に、陛下はキョトンとした顔をしていた。


「別に何の咎めもないぞ? 帝国では個人の酒造を禁止しているわけでもないからな。違法薬物でも使用していれば別だが、こいつは既に《鑑定》で問題ない事が証明されているからな」


 それは問題ないはずだ。

 だいたい食べ物を粗末にする事自体が許される事ではない。

 まして、違法薬物なんか使うものか!


「まぁ、咎めはないが、出来れば定期的に私に納めて欲しいな。あと、店を構えて大々的に造る際には一報入れろ。これだけの酒だ。出回り過ぎれば帝国中が酔っ払いだらけになりかねん。なるべく、今のまま個人的に造るだけにしておけ」


「ありがとうございます! 元々、営利目的ではないので趣味の範疇にしておきます。ホッとしました。一生、酒造りをさせられるかと思いました」


「まぁ、馬鹿な貴族に知られたらそれもあり得るから気をつけておけ。もし、この酒で困った事があれば私に言うがいい」


 良かったぁ。

 何とか今まで通り生活できそうだ。

 口は災いの元とはよく言ったもんだ、今後は気をつけよう。


「ところで、この酒と《林檎の妖精(アップルフィー)》以外にアーベルにも渡してない物とかないのか?」


「えぇと……ありますよ。今まで造った中で子爵様に渡したのはその2つだけです。他の3つは渡してないですね」


「何故渡してないのだ? 失敗作か?」


「というより、聞かれてないからです」


 子爵様は林檎のブランデーの事をかなり気に入っていたが、他の酒については聞いてこなかった。

 それで、わざわざこっちから言うこともないと黙っていたのだ。

 だって、こっちから言うと何か売り込んでいるみたいで嫌だったしね。


「なら、他の3つを私に献上する気はないか?」


「構いませんけど、味は好みが分かれますからお口に合いますかどうか……」


 そう前置きしてから3つのボトルを陛下の前に出す。


「これがその3つか……これはワインのようだが、こっちの2つは何だ?」 


「それはワインを発泡させてシュワシュワっとした口当たりを加えた物です。もう一つは厳選した素材と製法で造ったブランデーです」


 俺が酒は造りを始めた時に最初に造ったのはワインだった。

 それを造っている際に偶然できたのがこの発泡ワイン、更に普通のより凝ってみようと時間をかけて造ったのがこのブランデーだ。


「くははっ、ここ最近、つまらない事ばかりで憂鬱だったが、今日は最高の日だな……よかろう! これだけの物を献上したのだ。それ相応の褒美で応えてやる」


 あっ、そういえば褒美を何にするか話し合うって事だったのに、いつの間にか酒の話になってしまっていたな。


「……よしっ、お前を騎士爵に授爵してやる。それと宝物庫にある武具の一つを授けよう。今後も励むがよい」


「はっ! ありがとうございます」


 俺は平伏して礼を述べる。

 ダウスターを出る際に授爵の話は聞いていたし、それより武器を貰える方が有り難いな。

 出来たら片刃のがいいんだけど、贅沢は言うまい。

 こうして、俺への追加の褒美は騎士への授爵と武器一つとなった。

 まぁ、こんなもんでしょう。

 大事にならなくて良かった。


いつも拝読ありがとうございます。

ブックマークしてくださった方々、重ねてありがとうございます。

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