褒美授与
盛大に笑う皇帝陛下に謁見の間に集まった貴族や軍人達は困惑顔だ。
そりゃそうだろうな。
いくら田舎者である俺と対面したからって、ここまで笑う事はないだろう。
何人かが近くの者達とヒソヒソと話し始め、広間がにわかにざわめき始める。
「静粛にっ! これより陛下から両名の武勲に対する褒美が与えられるっ! しかと傾聴せよっ!」
陛下の前に立っていた宰相と思われる細身の男が、容姿に似合わない野太い声で一喝した。
周囲の騒めきは直ぐに消えさり、陛下も笑いを止め、威厳を取り戻すかのようにわざとらしい咳払いをしている。
「え〜、ダウスター男爵よ。此度のオーマン伯爵の反逆行為に際し、迅速に行動した其方の働きは見事であった。また数日で反逆軍を鎮圧した手腕は陞爵に値すると認める。よって、アーベル・フォン・ダウスターを子爵へと陞爵する。また、現在帝国直轄領となっている旧ライエル領を与える。見事治めてみよ」
「はっ! 謹んでお受け致します。これからも帝国のために身命を賭して励む所存にございます」
陛下からの陞爵と領土の譲与に平伏して礼を述べる男爵様改め子爵様。
おめでとうございます。
「そして、リクト・シュナイデン軍曹。反逆者オーマン伯爵及び、共謀していたマックロン男爵を討ち取り、オーマンの精鋭騎士団を含む70名余りを単身で討伐した働きは、まさに獅子奮迅の働きと言えよう! その功績を認め、ここに《帝国緑風勲章》を授けるものとする!」
隣の宰相がいつの間にか、緑色に輝く一つの大きな勲章を持って立っていた。
それに対し、身分の上下を問わず列席者達からざわめきが溢れる。
「な、なんとっ!」
「たかが、名士如きに《帝国緑風勲章》ですとっ!」
「へ、陛下! お、お待ち下さい!」
子爵様への陞爵や領地の下賜の際には特に反応が無かったのに、俺の勲章授与には列席していた貴族や軍人達から響めきが起こった。
口々に発せられる悪態を含む驚嘆の声は、謁見の間中に瞬く間に広がり、場は騒然となっている。
一体、どうしたと言うのだろうか?
ちょっと混乱に乗じて、こっそり子爵様に聞いてみる。
「あの……何故、こんな事になっているのでしょうか?」
「……当然だ。帝国には様々な勲章が存在するが、その中でも最高位の勲章が4つ存在するのだ。《紅炎勲章》、《蒼水勲章》、《黄土勲章》、そして《緑風勲章》だ。この勲章は滅多な事では授与されず、これを得る事は大変名誉な事で、名誉を重んじる帝国においては誰でも喉から手が出るほど欲しい勲章なのだ」
そ、それほどの勲章を俺に……。
さすがにマズいんじゃないか?
列席している人達も納得していないし、この不満が陛下の評判に傷をつける事になったら……。
「黙れ」
っ! それは小さな一言だった。
間違いなく、この広間の喧騒の中では埋もれてしまう小さな声だった。
だが、重い。
なんで言えばいいんだろう……身体の中にズシっと重りを乗せられたような、精神に圧をかけられているような……そう、威圧だ。
思わず、冷汗が一筋頬を伝った。
ざわついていた広間の貴族、軍人達も誰一人として口を開く者はなく、静寂に包まれていた。
いや時折、衣が擦れるような音が微かではあるが聞こえる。
おそらく幾人かは震えているのだろう。
さっきまでの笑顔は微塵もない、これが、これこそが本当の皇帝陛下というわけか。
凄いなぁ、笑うしかねぇくらいだ。
「異議を唱えたくばこの者を超える武勇を示せ。口を開いてただ喚くだけの輩なんぞ、帝国には要らぬ。決定は変えん。シュナイデン軍曹、受け取るがいい」
俺は促されるまま立ち上がり、玉座から降り立った陛下より勲章が授与される。
俺の胸に緑色に輝く勲章が付けられた。
「ありがとうございます。これからも我が剣は帝国の為に」
「うむ。これからも励むが良い。それともう一つ、くれてやりたい物がある。後で案内させる故に、勝手に帰るなよ」
陛下は俺の耳元でボソッとそう言うと玉座に戻らず、そのまま退室して行った。
残された俺と子爵様はため息を吐く宰相に促され、退室し最初の部屋に戻った。
「はぁぁぁ! ヤバかったぁ。あれはキツいわ……」
子爵様の前だと言うのに俺は配慮する事が出来ず、椅子に座り込んだ。
子爵様も同様に座り込み、テーブルにあった水差しの水を豪快に飲んだ。
「ぷふぅ、全くだ。あの馬鹿共めっ! お陰でこちらが肝を冷やしたではないか! 陛下の決定に意味もなく逆らうなどありえん!」
「陛下って凄いんですね。腰抜かすかと思いましたよ」
「帝国では代々の皇帝陛下は前線で戦い、将兵の後ろに隠れるような卑怯者はいない。陛下も幼少の頃より戦場に立っておられた武人だ。ジェニングス中将はそれに倣い、成人後に戦場に立たれたのだからな」
道理で凄い存在感だと思った。
あれは戦場に立った事すら無い奴らじゃ、太刀打ちできないだろうな。
「まぁ、何にせよ。無事に終わったのだ。では、帝都の我が屋敷に一旦戻るぞ」
「あっ、お待ちください」
サッと帰ろうとする子爵様を俺は引き止める。
さっき勲章授与の際の言葉はどうやら子爵様には聞こえてなかったようだ。
「どうしたのだ?」
「実は陛下から『もう一つくれてやる物があるから、勝手に帰るな』と言われておりまして……」
俺の言葉に顔面蒼白になる子爵様。
こればっかりは俺のせいでは無いので、文句があるなら陛下に言ってほしいなぁ。
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