いざ、謁見
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「準備はできたか?」
男爵様の声はいつもより緊張感のあり、顔にも余裕は感じられない。
それもそうだ。
今からヴァランタイン帝国皇帝、アヌーク・フォン・ミリアルド・ヴァランタイン陛下との謁見が始まるからだ。
昨日の夜会から一夜明け、二日酔いにもならず予定通り謁見の準備をし、登城した俺と男爵様は今、帝城の一室で待たされているところだ。
正直、俺も緊張している。
俺なんか少し前まで田舎の山や川で遊んでいたような男だ。
そんな俺が皇帝陛下に会えるなど、まずあり得ない事なのだ。
昨日はサンイラズ侯爵や他の貴族達とも会って挨拶をし緊張したが、今日は更に別格だ。
落ち着かないため、座っていられず、部屋の隅で立ったままアレコレ考えてしまう。
万が一、無礼があって一族郎党死刑なんて事になったら目も当てられない。
こんな事なら戦場にいる方がまだマシだと本気で思ってしまった。
「軍曹、緊張するなとは言わん。しかし、硬くなりすぎるな。陛下は寛容な方だ。余程の事がない限りお咎めなどない」
緊張する俺に優しく声をかけてくださる男爵様。
じゃあ、何で男爵様は緊張してるの?
――という疑問は俺を気遣ってくれた男爵様に失礼だから言わないでおこう。
「ありがとうございます。少し気が楽になりました」
俺は男爵様に礼を言ってから椅子に腰かけた。
まぁ、どの道なるようにしかならないんだ。
そう考えながら30分が経った頃、扉がノックされる。
「ダウスター男爵、シュナイデン軍曹。謁見の間にどうぞ」
部屋に入ってきた白髪の執事が隙のない動きで礼をし、そう伝えてきた。
いよいよ、だな。
「どうぞ、こちらへ」
執事の案内で俺と男爵様は帝城の廊下を歩く。
荘厳な作りの帝城は外観だけでなく、内観も素晴らしい。
高そうな彫刻や高そうな壺、高そうな絵画が飾ってあり、床に敷いてある絨毯はフッカフカだ。
「あまり周囲に気取られておりますと、足元を掬われますぞ?」
執事の人にサラッと注意されてしまった。
気分を害しちゃったかな?
気をつけておこう。
「こちらでお待ち下さい。名を呼ばれ、扉が開いたら中へお進みくださいませ……キョロキョロしてはいけませんよ」
少し口角を上げ、ニヤリとした笑みを浮かべた執事が俺に釘を刺してきた。
どうやら、そこまで堅物な人ではないらしい。
「ダウスター領領主、アーベル・フォン・ダウスター男爵、ダウスター領軍リクト・シュナイデン軍曹、王の御前へ!」
名を呼ばれると同時に扉が開く。
扉の先には豪華な装飾を惜しげもなく施した、絢爛豪華な空間が広がっていた。
中央には廊下より更に質の良い絨毯が敷かれ、その両側に多数の貴族、高級軍人が整然と並んでいた。
俺が気遅れしていると男爵様が先に歩き始めたので、慌てて後をついて行く。
うへぇ……苦手だな、この雰囲気。
男爵様はある程度まで進むと、その場で立ち止まり膝をつく。
俺も男爵様の少し後方で膝をついた。
すると、徐に陛下の方から声をかけてきた。
「久しいな。アーベルよ。息災であったか?」
「はっ! 陛下におかれましては……」
「よいよい。そのような堅苦しい挨拶は止めよ。今日の主役は卿達だ。一々堅苦しくしていては、私の肩も凝るというもの。気楽にせよ」
男爵様の口上を遮って、陛下はあっけらかんと言う。
下を向いているからよくわからないが、声からしてかなり若いな。
「後ろの……軍曹だったか? その方も面を上げて良いぞ」
「はっ!」
俺は不敬にならぬよう、しっかりと返事をしてから顔を上げる。
そこで俺は思わず声を上げそうになるのを必死に堪えた。
俺の視線の先、玉座には絵画から出てきたかと思うほどの絶世の美女が座っていた。
美しかった。
これまで生きてきた中でもずば抜けている。
その美しさは一瞬で俺の心を捕らえて離さなかった。
この胸の高鳴りよ! この熱い想いよ!
これは運命に違いない!
俺はこの方の為なら何だって……。
……いや、違う? 何かがおかしい……。
これは……《魔眼》かっ!
俺は声を出さずに膝をついた姿勢のまま、気合いを放ち、自らの心を呼び覚ました。
すると、先ほどまでの高揚感が嘘のように消え去っていた。
「ふはははっ! アーベルよ! 良い部下を得たではないか! まさか、私の《魅惑の視線》を破るとはなっ! 大したものだっ! はははははっ!」
「陛下っ! お戯れも程々に願います!」
少し語尾を強くした男爵様が苦言を呈したが、陛下は尚も笑い続けていた。
それにしても危なかった。
気づくのが一瞬遅かったら飲み込まれてたぞ。
「いやいや、2人とも許せ。なんせ面白い男が来ると聞いてな。試さずにはおれんかったのだ。それにしても、私のこの容姿と《魔眼》で堕ちなかった者は久しぶりだぞ? 何か対策でもしてきたのか?」
やっと笑いが収まった陛下が、目尻に笑い涙を浮かべながら聞いてくる。
対策なんてあるわけない。
あるとすれば……。
「特にありません。強いて申し上げるなら……昨日までジェニングス中将と共に行動していた事、でしょうか?」
「ぷっ……くくくっ……あははははははっ!」
俺の返答にまた笑い出す陛下。
何かおかしな事言ったかな?
「ひぃひぃ、なるほどな。《傾国の美女》とも呼ばれるシャーロットと一緒にいれば、ある程度耐性が出来るわけか? これは参った! あはははははっ!」
「あ、あの……何か失礼を?」
俺はあまりにも笑い続ける陛下に不安を覚えたので、恐る恐る聞いてみた。
「いやいやっ! 寧ろ気に入ったぞ! アーベル! お前は本当に良い者を部下につけたな? こんなに笑ったのは久しぶりだぞ? 実に愉快だ! あはははははっ! よしっ! 私も帝国の皇帝だっ! 笑わせてくれた褒美は奮発してやるからな!」
とにかく、よく笑う陛下は笑いながらそう言った。
褒美が増えるのはありがたいんだけど、本当に大丈夫なんだろうかと、一抹の不安を覚えた。
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