可憐なる2人
夜会でジェニングス中将に詰め寄られた。
言葉だけ聞くと艶っぽい話なんだが、中身は酒の強奪だから色気もクソもない。
ダウスター男爵様が通りかかって、なんとか場を収めてくださってよかった。
「―――それで、結局は軍曹の新作を独り占めしようとしたわけか? 中将」
「くっ! し、仕方ないだろう……あんなに美味いとは……反則ではないか?」
「意味がわからないぞ? それに軍曹もこういう場では出さぬ方がいいな。今は夜会が始まったばかりで気にする者もそうはおらんが、貴官の事が噂になれば寝食を無視して酒造りをさせられかねないのだ。気をつけるに越した事はない」
いくら何でも大袈裟過ぎです。
単なるお酒ですよ?
「そこまで大事になるのですか?」
「帝都には酒を趣味にする者も多いからな。帝国には他にも銘酒はたくさんあるが《林檎の妖精》は現在、貴族の間で人気となっている。陛下も愛飲していると聞いたぞ?」
げっ! 陛下にまで回ってるのか!
何か不思議な気分だな。
自分が作った物が陛下にまで楽しまれているというのは。
「陛下が愛飲している物を持っている。それだけでも貴族の対面が立つのだ。そのため、出世の道具にもなりかねない。だから、私は領内で流通を制限し、私が責任を持って買い付けて消費しているのだ」
「……それは何の言い訳だ? 言っておくが、約束は守ってもらうからな」
男爵様の言に冷たく中将が釘を刺す。
約束って、林檎のブランデーを何本か回すって話の事だろうな。
「わ、わかっている! オホンッ! それとこの酒は私が預かる。一本は陛下に献上するとして残りは……中将、後で話があるがどうだ? くくくっ」
「のったぞ。語り明かそうではないか、男爵。ふふふっ」
なんて悪い笑顔だっ!
悪代官と悪徳商人のような笑みを浮かべる2人に少しゾッとする。
まぁ、俺としては出来の良さがわかればそれでいいんだけどね。
「おおおおおおおおおっ!」
会場入り口から複数の響めきが聞こえてきた。
どうやら誰かが来たらしいのだが、人混みで見えやしない。
まぁ、俺には関係ない事だろうし、ここにある酒がどんな味か気になるので、少しずつ飲んで回るとしよう。
先ずは……。
「お、おいっ!」
「こんな所にいたぁ、何でこんな隅っこにいるのぉ?」
声の方を振り返るとドレス姿の大尉と少尉が立っていた。
大尉は落ち着きのある蒼いドレスで飾り気は少ないものの、小さな宝石が散りばめてあり、キラキラと輝いて上品さと優雅さを感じさせる。
対して、少尉は桃色のドレスでフリルが付いており、幼さを感じるが、胸元は結構開いているためその豊かな双丘が強調され、妙な魅力を感じさせる。
2人とも軍服姿とは全く違うので、一瞬誰か分からずボーッとしてしまった。
「これは大尉、少尉。お2人ともとてもお似合いですよ。あまりの美しさに見惚れてしまうくらいでした」
女性が普段と違う衣装を着て来た時は過剰でもいいから、とにかく褒める!
ダウスター領を出る際にロースター軍曹が夜会のマナーとして教えてくれた事だ。
「そ、そうか。ま、まぁ、貴官に褒められてもど、どうも感じないがなっ!」
「私は嬉しいかなぁ。ありがとうねぇ。何だったらぁ、もっと言ってくれてもいいんだよぉ」
2人とも若干顔を赤らめている。
なるほど、お酒好きな2人はすでに飲んでいるのか。
なら、俺もお付き合いさせていただこう。
「では、お2人共、お付き合いさせてください」
「な、なにぃ!」
「ふぇえ!」
大尉と少尉が驚いた声を上げ、目を丸くしている。
えっ? 駄目なの? もしかして、女の人と一緒に飲んではいけないとかって決まりがあるのか?
「ぐ、ぐ、軍曹っ! な、何もこんな所で……わ、私はその……あの……」
「や、やだなぁ。こ、こんな所で言われたら困るよぉ〜! も、もう、どうしようかなぁ〜、困っちゃうなぁ〜」
2人は更に顔を赤くさせ、何か恥じらっている。
何をしているのか分からないが、その姿は思いの外、可愛い。
周りの貴族の人達も見惚れているようだ。
「……何をしているのだ?」
呆れた顔をした中将が俺に尋ねてきた。
正直、俺にもわかりません。
「いえ、大尉と少尉がお酒を呑まれていた様子なので、一緒に飲みに付き合わせてくださいと言ったら、こんな感じでして……」
「「……はぁ?」」
急に大尉と少尉が素の顔に戻った。
結構呑んでるのか、感情の起伏が激しいな。
「……おい、まさか『付き合う』とは『酒を飲むのに付き合う』という意味か?」
「そ、そうでありますが……」
「へぇぇええ。そうなんだぁ? 他意はないのぉ?」
「は、はい! 特に他に意味は……」
地の底を這うかのような2人の低い声が怖い。
2人は俺の目の前までゆっくり近づいて来て両サイドに立つと……。
「「紛らわしい事、言うなぁ!」」
左右から大声で怒鳴られた。
み、耳がキンキンする。
何で急に怒ったんだろう? さっきまで笑ってたのに……。
結局、急に機嫌が悪くなった2人はこの夜会の間、一切口を聞いてくれなかった。
ただ、拗ねたような2人の表情はそれはそれで可愛かったから良しとしよう。
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