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門閥貴族

一ヶ月のアクセス数が10000を超えました。

応援してくださる皆様のおかげで、日々頑張っていられます。

これからもよろしくお願いします。

 陽は沈み、夜の(とばり)が下り始めた頃、馬車は屋敷の前に到着した。

 どうやら夜会はまだ始まっていないのか、それとも屋敷の広さ故か、屋敷の周囲は軽く人の声が聞こえる程度の賑わいだった。


「階位の高い貴族ほど後で来るものだ。我々のような男爵位や女男爵位はなるべく早く来て挨拶を済ませておかねば、無礼に当たる。覚えておくといい」


 前行動みたいなもんかな?

『10時開始』と言われたら、『10時に来ればいい』って意味ではなく『10時には開始できる時間に来い』って意味というやつだ。

 軍隊では当たり前の事だが、貴族社会にも色々あるらしい。

 とは言っても、貴族の集まりなんて、この先もう出る事はないだろうさ。


「わかりました。以後、機会があれば留意します」


「言っておくが、階級が上がるとこういう場に呼ばれる事もよくあるんだぞ? 招待客の護衛であったり、屋敷の警備、あとは勧誘だな」


「勧誘……でありますか?」


 何の勧誘だろう。

 まさか、高価な品物を売りつけられるとか……。


「勧誘とは有能な人材を自身の領軍に転属させたり、直属の配下に引き抜く事だ。貴官にも覚えがあるだろう? レヴァンス侯爵家がダウスター男爵家から貴官を引き抜こうとしているとな」


 そういえば、男爵様がそんな事言ってたな。

 他にも『モンバツ』とかって貴族の方が声をかけてきたとか。


「あの、爵位はわからないですけど『モンバツ』貴族様ってどんな方ですか? 男爵様がそこからも声がかかってると言ってました」


「なに? ――――もしかして、それは『門閥貴族』の事ではないか?』


 中将はやや苦笑しながら俺に聞いてきた。

 ひょっとして恥ずかしい事を聞いたのかな?


「門閥貴族とは有力な貴族と政略結婚などで親族関係を築いた貴族達の事だ。例えば、娘が皇帝陛下に嫁いだとか、殿下が降家された貴族とかだ。それにより陛下と縁戚となるので、発言力は爵位以上に大きなものとなるのだよ」


 それって虎の威を借る狐ってやつか?

 いや、陛下と縁戚になるんなら元々がそれなりに力がないと無理か。

 って事は、力のある貴族が更に力を得る為って事か。

 俺としてはあまり関わりたくないなぁ。


「しかし、まさか貴官を門閥貴族が狙うとは予想外だったな。何処の家かはわからない……だろうな」


「申し訳ありません。小官はてっきり『モンバツ』貴族様だと思っておりまして……」


「仕方あるまい。しかし、貴官はもう少し帝都の常識や貴族社会の事について学ぶべきだな。このままでは主人が恥をかくぞ」


 それは嫌だな。

 自分の事で自分が罵られるのは一向に構わないが、主人が侮られるのは業腹だ。

 ロースター軍曹なら貴族関係に詳しそうだし、帰ったら聞いてみるか。


「さて、そろそろ行くぞ。大尉や少尉も(じき)に来るだろうしな」


 大尉と少尉は実家にマルタン商会でドレスを選んでから、武器を置くために帝都の屋敷に寄ってから来る事になっている。

 招待客は武器を持って来てはならない決まりなんだそうだ。

 だから、俺も刀は軍服と一緒にマルタン商会に預けてきた。

 それにしても中将はこのままでいいんだろうか?


「あの、中将は軍服のままでよろしいのですか?」


「私は将官だからこれで十分なんだ。それにヒラヒラしたドレスはどうも好かん」


 それなら俺も勘弁して欲しかったな。

 でも、中将ならドレスも似合いそうだけど。


「中将のドレス姿はお預けでありますか。いずれ拝見したいものです」


「ふふふっ、見たければ私を嫁にでもするんだな」


 中将が挑戦的な目で俺を見る。

 相変わらず戯れが好きな人だなぁ。

 しかし、ここで真面目に答えるのも野暮というものか。


「高嶺の花でありますな。しかし、小官は崖登りは得意でありますよ」


「ほぅ……これは大尉と少尉に恨まれるな……ふふふっ」


 挑戦を受けられたと感じたのか、若干頬を紅潮させた中将がボソッと言った。

 それにしても何で大尉と少尉が関係するんだろ?

 まぁ、いいか。

 きっと色々あるんだろう。

 俺と中将は馬車を降りて、サンイラズ侯爵邸に入っていった。


「おや? これはジェニングス女男爵。遂に卿にも良い人ができたのか? 随分と若いようだが、あまり虐めてはいかんぞ」


 屋敷のエントランスホールにいた身なりの良い中年男性が、中将に声をかけてきた。


「サンイラズ侯爵。お久しぶりでございます。お変わりないようで、何よりでございます」


 中将が儀礼的な挨拶を返した。

 この人が今日の主人(ホスト)のサンイラズ侯爵か。

 男爵様の寄親って聞いたから同系統の筋肉男かと思ってた。


「つまらんなぁ。たまには恋する乙女のような初々しい卿も見たいものだが。では、其方の連れ添いは誰かな?」


「小官は帝国軍所属ダウスター男爵領軍のリクト・シュナイデン軍曹であります」


 俺は飛行艇で習った貴族式の礼を持って挨拶をする。


「おおっ! 貴官がシュナイデン軍曹かっ! オーマンの離叛騒動では随分と活躍したそうだな! ダウスター卿の寄親として私も鼻が高い! 今日はゆっくりするが良い! 後で私からも褒美をやるからな!」


 満面の笑みを浮かべながら、俺の肩を叩いて話すサンイラズ侯爵様。

 なんか想像してた貴族像ともかけ離れてるから、少し戸惑う。

 俺を一頻(ひとしき)り褒めた後に、侯爵様は家令に呼ばれ、メインホールの方に行ってしまった。


「なんか思ってたより親しみのある方でしたね」


「軍曹。サンイラズ侯爵は帝国の外交面でのトップだ。清濁併せ呑むだけの度量がなければ務まらん。さっきの間にも貴官の有効的な使い道を考えていたはずだ。無理難題を押し付けられぬよう、油断せん事だ」


 ……やっぱり、都会は怖いな。


拝読ありがとうございます。

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