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怨恨の目

今回より新章、少尉編が始まります。

 水々しい葉の生茂る山々より、みなぎる生命力を感じる頃、皆様は如何お過ごしでしょうか?

 過ごしやすく、穏やかな気候は心を和ませ、穏やかな気持ちにさせてくれます。

 そう、穏やかな気持ちになるはずなのです。

 なのに……何故っ! 

 俺はこんな怨恨の目に晒されなければならないのか!

 好奇の目に晒されるならいざ知らず、明らかに怨みがましく、時には殺気のような憎悪の目を向ける者までいるじゃないか!

 しかも、1人や2人じゃない!

 明らかに何十人からの負の視線を感じる!

 一体、俺が何をしたって言うんだよ!


「顔色が優れんようだが、空の旅は初めてか?」


 そう俺に優しく声をかけてくれたのは、黒髪ストレートの長身スレンダー、キリッとした瞳の端麗美人。

 アリシア・フォン・ヴォルガング大尉だ。

 帝国軍の女神と言われるシャーロット・フォン・ジェニングス中将直属の部下で、今は俺の監査役として俺の側にいてくれている。

 俺は今、オーマン伯爵の離叛騒動の論功行賞のために帝都に向かって空の旅をしている。

 普通の論功行賞は領軍本部で行われるんだが、今回は上級貴族の離叛という事もあり、軍令部のある帝都にて行われる事になった。

 おまけに俺の戦功を報告したのが、ジェニングス中将で、報告した相手がなんと帝国の皇帝陛下だった。

 そのため、特別に飛行艇を遣わせてくださり、俺はそれに乗っているというわけだ。


「どうした? 大丈夫か?」


「まぁ、初めてですけど、怖くはないですよ。デッキに立っていると風を感じるので気持ちいい……はずですし」


「へぇ〜、結構初めての人は怖がってぇ、船室に籠ってるんだけどぉ、さすがだねぇ。少尉殿ぉ」


 相変わらずの独特の口調で話しかけて来たのは、大きな瞳にあどけない顔とそれに似合わない発育した胸を持つ金髪ポニーテールの美少女。

 ファンティーヌ・フォン・リンテール少尉だ。

 少尉も大尉と同じく、中将直属の部下で俺の監査役として同行している。


「リンテール少尉。少尉殿はやめて下さいと……」


「私だってぇ、リンテール少尉は止めて『ファンティーヌ』でいいよって言ってるのにぃ、言わないからだよぉ〜」


「急に言われても変えれませんよ。それに正式な辞令はまだですから、俺はまだ軍曹ですよ」


「ちぇ〜。まぁ、いいかぁ。もうすぐ、『お・そ・ろ・い』だしねぇ。楽しみだなぁ、ねぇ? 大尉殿ぉ?」


「……リンテール少尉。少々、戯れが過ぎるのではないか? 軍曹が困っているではないか」


 そう言うとヴォルガング大尉は俺の左腕を引っ張って自身の方に寄せた。


「っ! 別にぃ、困ってないでしょぉ? それよりぃ、腕を掴む方が迷惑じゃないですかぁ? 大尉殿ぉ!」


 今度はリンテール少尉が俺の右腕を引っ張って自身の方に寄せる。


「ちょっ! 少尉だって、腕を引いているではないかっ!」


 すると、負けじと大尉が引き戻す。


「それはぁ、大尉がぁ、引っ張ったままだからでしょおぉ!」


 また少尉が俺を引き戻す。

 何で俺で綱引きしてるの?

 空の旅で退屈になったから?

 まだ飛行艇に乗ってから2時間程しか経ってませんよ。

 っ! また周囲から怨嗟の念を感じる……。

 おいっ! そこの砲撃手っ! 何で銃口を俺に向けてるんだよっ! 空の魔物を警戒しとけよっ!

 危ねぇなぁ! 俺は今、両手を掴まれてて……これだ。

 間違いない。

 これはきっと大尉と少尉の()()に対する嫉妬の念だ。

 そう言えば言ってたな。

 帝都では2人はジェニングス中将と並ぶ程の人気を誇るって、その2人に挟まれてれば恨みたくもなるか。

 でも、これって俺のせいなのか?

 俺は綱の代わりにされてるだけだぞ?

 嬉しいか? ちょっと酔ってきたんだぞ?


「止めんか! 戯れはそれぐらいにしておけ」


 そう言って、俺達の後ろに立ったのは俺の所属するダウスター領軍の司令官にして、領主でもあるアーベル・フォン・ダウスター男爵様だ。

 助かったぁ!


「我々の為だけに遣わされた飛行艇とは言え、あまりはしゃいではならん! それにシュナイデン軍曹には謁見の作法について説明もしておかねばならんのだ。遊んでいる暇はないんだぞ? 謁見で失礼があれば極刑もあり得るのだからな」


「謁見……作法……小官はそういった事は苦手であります……」


「だからやるんだろうが! つべこべ言わずに来い! 時間がない!」


 そういえば帝都にはいつ頃着くんだろう?

 領都ウルグから帝都まで馬車で半月だから……5日くらいか?


「今日の夕刻には帝都に着く。謁見は明日だが覚える事は山のようにある! 覚悟するんだな」


 早いよ! めっちゃ早いよ! 飛行艇!

 俺が男爵に襟を掴まれて引っ張られて行く姿を、さっきまで嫉妬の目で見ていた奴らが『ザマァ見ろ』と言った目で見てくる。

 何て心の狭い奴らだ。


「ヴォルガング大尉! リンテール少尉! 貴官らも来い! こいつにダンスも叩き込むから相手をしてやってくれ!」


「ダンスか。こう見えてもヴォルガング流剣術で鍛えた足腰はダンスにも応用が効くのだ。任せてもらおう」


「そんな事言ってぇ〜、手を繋いだだけで照れないといいねぇ〜」


「う、うるさい! 私がこんな奴に照れるもんかっ!」


 2人が俺の後を追って来たため、俺は飛行艇を降りるまでの間、ずっと怨恨の目に晒されてる事になった。


いつも拝読ありがとうございます。

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