論功行賞、再び
オーマン伯爵の離叛騒動から1週間が経った。
俺はいつも通りの軍務をこなしている。
あの喧騒が嘘だったかのように穏やかな日々だ。
しかし、隣領は相変わらず穏やかではないそうだ。
オーマン伯爵軍によりライエル領は深刻な被害を受けていたそうで、復興にはかなりの時間がかかるらしい。
カールこと、ライエル男爵も尽力しているようだが、元々、前ライエル男爵のせいで苦しかった財政に追い討ちをかけられたようなもので、民衆はかなり疲弊しているそうだ。
統治責任を問われる事になるかもしれないって中将も言ってたし、カールは大丈夫だろうか。
ジェニングス中将とアンダーソン大佐は帝国本隊が帰還するのに便乗して帝都に帰ってしまっている。
何でも今回の件を皇帝陛下に報告しないといけないらしい。
陛下なんて正に雲の上の存在だからなぁ。
俺なんか一生会う事もないだろう。
「おっ、ここにいたか。軍曹」
サイモン上級曹長が俺に声をかけてきた。
どうやら俺を探していたようだ。
「どうしたのでありますか?」
「あぁ、男爵様がお呼びだ。おそらく今回の件の論功行賞だろう。これで階級が並ばれるのかもしれんな」
上級曹長は笑顔でそう言った。
嫌味かと思ったけど、なんか嬉しそうだ。
「ついこの間まで二等兵だったのに、今やダウスターの英雄となった。私はそう教える事もなかったが、それでも若者が栄達するのは嬉しいもんなんだよ」
年寄り臭い台詞のわりに屈託のない笑顔を見せる上級曹長。
「サイモン上級曹長、ありがとうございます。これからも御指導のほど、よろしくお願いします」
俺は御礼を述べた後に、男爵邸に向かった。
門番に名を伝えると、すぐさま取り次いでくれて応接室に案内された。
そこでしばらく待っていると、男爵様が部屋に入ってきた。
「楽にしてくれ。いや、今回は楽にするわけにはいかんか。少々困った事になったからな」
男爵様は難しい顔でそう言った。
何かあったのだろうか。
「論功行賞だがな。貴官の昇進が決まった。しかもまた特進だ」
「特進……でありますか? 次は一体……」
「少尉だ。四階級特進、おめでとう」
うおっ! よ、四階級特進とは思わなかった。
少尉って士官だよな?
やったぁ! これで給金も上がるし、家への仕送りも増やせる。
しかし、これの何が困った事なんだろう?
「カール・フォン・ライエルは貴官の友人だと聞いたが?」
唐突に男爵はカールの名前を出してきた。
「はい。救出の際に親交を深めまして……」
「ライエル領は没収となった。統治責任を問われてな」
「そ、そんな……では、ライエル男爵家は……」
領地没収という事は御家取り潰しか?
カールが悪いわけじゃないのに!
あのクソ親父とオーマンのせいなのに!
「ライエル男爵家は残る。領地は無くなったので法服貴族となったのだ。問題は没収された領地をダウスターに併合するという話だ」
「へ、併合? つまり、ダウスター領への領地譲渡でありますか?」
「まぁ、そうなるな。ジェニングス中将が陛下に今回の件を報告した際に一早く対応した我が領の事を陛下が高く評価してくださってな。褒美として領地譲渡、それに俺を陞爵してくださるそうだ」
おおおっ! 凄い! 確か陞爵とは爵位が上がる事だったはずだ。
「おめでとうございます! えっと……」
「子爵に陞爵だ。これからはダウスター子爵となる」
「子爵様! 本当におめでとうございます! お祝いに林檎のブランデーを樽で送らせていただきます」
「それは有り難く受け取ろう。だがな、ここからが問題なのだ」
問題? 一体、何が問題なんだ?
ライエル領没収はカールにとっては辛いけど、爵位が残っただけ良かったと思う。
俺は少尉に昇進したし、男爵様は子爵様になった。
何が問題なんだろう。
「あの時、大佐が言っていただろう? あれが現実になったのだ」
はて? 大佐が何か言ったっけ?
俺が頭を悩ませていると、子爵様は溜息をついてから話し始めた。
「貴官の叙爵だ。中将が口八丁手八丁で陛下に進言してな。陛下が興味を持たれたのだ。騎士爵に叙爵されるだろう」
「じ、叙爵でありますか? そんな……嘘でありましょう?」
「本当だ。それに加えて貴官を寄越せとうるさい輩がおってな」
寄越せってどういう事だ?
何か悪い事したっけ?
「此度の戦でも貴官の働きは素晴らしかった。それに目を付けた奴らがいるのだ。特に貴官を欲しているのはレヴァンス侯爵だ。先遣していた大尉が自軍に戻った時に貴官の働きを嬉々として語ったそうだ。その報を聞いた侯爵が『是非、我が領に迎えたい』と言ってきおった! 他にも噂を聞いた門閥貴族からも声がかかっておる」
マジか? そんなに過大評価されても困るんですけど。
「とにかく、貴官は俺と一緒に帝都に行ってもらう。出発は明日だ。陛下との謁見もあるから身嗜みは整えておけよ。今回は特別に帝都から飛空挺の迎えが来るそうだから、荷物は少なめでいいからな」
「り、了解であります」
こうして、少尉となった俺の初任務は帝都での皇帝陛下との謁見となった。
行きたくないなぁ。
いつも拝読ありがとうございます。
これで軍曹編は終わりとなります。
次回からの少尉編もお楽しみに!




