表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/205

捕虜と軍規

 さて、困ったぞ。

 斥候として単身で敵陣の動向を探っていたら敵の斥候と遭遇した。

 それを急襲したら、3人斬り伏せたところで隊長である軍曹が降伏し、捕虜となった。

 これが問題だ。

 捕虜の扱いってどうすればいいのか知らないんだよなぁ。

 とりあえず今は後ろ手にして縛ってるけど、ここからどうしたらいいんだ?

 戦略とか戦術に関しては家にあった本を読んでいたから、なんとなくわかるけど捕虜の扱いなんて載ってなかったし、軍でも教わってない。

 まぁ、入隊して2日しか経ってないから何も教わってないんだけど。

 うーん、とりあえず本人に聞いてみるか。


「さっき名乗っていたが、もう一回名を聴かせてもらってもいいか?」


「……帝国軍所属ライエル男爵領領軍ホウキン・ロースター軍曹。捕虜として帝国軍規に則って扱って欲しい」


 帝国軍規? そういえば入隊の際に曹長がそんな話をしていた。

 確か『帝国軍として軍規に則り、品位を損なう事なく言動を戒めよ』だったかな。

 でも、まだ軍規を知らないし、かと言って捕虜であるロースター軍曹に聞いたら嘘を教えられる可能性もある。

 …………仕方ない。

 とりあえず拷問とか無闇に傷つける事さえしなければいいだろう。


「ロースター軍曹殿。申し訳ないが、俺は帝国軍規における捕虜の扱いに疎いのです。よって、多少手荒な扱いになるかもしれませんが、容赦願いたい」


「なっ! し、失礼だが、貴官の階級は?」


「帝国軍所属ダウスター男爵領領軍リクト二等兵であります」


「に、二等兵っ! 馬鹿なっ! この私が! この私の隊が! たかが二等兵に敗れたと言うのかっ!」


 軍曹殿は驚愕の表情で叫ぶ。

 これはマズい。

 敵陣に聞こえるように大声を出しているのかもしれない。

 首筋に刀を突きつけて警告する。

 これぐらいは許される範囲だろう。


「軍曹殿、声が高いです。お静かに」


「……失礼した。しかし、まさか二等兵とは……。出世に恵まれなかったのか? 入隊してかなり経っているのだろう?」


「いえ、まだ2日です」


「2日っ! たったの2日だとっ! たった2日の二等兵に私のた……すまん。もう声は荒げぬから刀を納めてくれ」


 やれやれ、何て落ち着きのない人だ。

 それとも本当に誰かに伝えようとしているのかもしれないな。

 ……近くに気配はないけど、熟練の兵なら気配を消して接近するくらい訳ないだろう。

 警戒を緩めない方がいいな。

 あっ! 軍曹殿に聞いてみればいいんだ。


「軍曹殿、貴軍の動向についてお教え願えないでしょうか?」


「それは……出来ない。言っておくが、拷問などは軍規によって禁止されているからな! すれば貴様は軍規に則って懲罰対象となる。危害を加える事はならんからな!」


 最初からする気はないんだけど、調子にのられても困るからちょいと脅しておこう。


「軍曹殿、御教授頂き有難うございます。生者には知られないようにしなければなりませんね? ()()()過去も未来も語れませんから別にいいでしょうけど」


 俺は物言わぬ骸となった3人を見ながら軍曹殿に優しく語りかける。

 軍曹殿の顔は真っ青になり、身体は小刻みに震えていた。


「ぐっ! わ、わかった……では、答えられる範囲で答える」


「ありがとうございます。では、今回の戦について、何故ライエル男爵は我が領に責任を押し付けたのですか?」


「……何っ? あ、いや、失礼した。てっきり戦力とか戦略を聞いてくると思ったからな」


「失礼ながら軍曹殿の言を証明する方法がないので。誤情報であれば我が軍の方が危機に陥るやもしれませんから。それより、先程の質問の答えは?」


「……おそらくだが、金が無いからだろう。ここ数年、我が領では不作が続いていてな。税収もかなり減っていると聞く。今回の山火事で一部の農民に被害が出た事で更に税収が減るのは目に見えている。しかし、男爵様の保有する備蓄は既にかなり放出してしまって救済もままならない。だから、隣領のせいにして代わりに補償させようと考えたのだろう」


 軍曹殿は少し考えた後に自領について語ってくれた。

 適当にシラをきるかと思ったが、意外と真面目に答えてくれたので内心驚いたよ。


「しかし、言えば寄親の貴族の方に援助してもらえるのではないですか?」


「ライエル男爵も気位が高いからな。助けて欲しいとは自尊心(プライド)が邪魔して言えないのだろう。言えば寄親であるレヴァンス侯爵なら援助はしてくれるだろうにな」


「つまり、自領の民のために頭は下げれないというわけですか?」


 チッ! これだから貴族って奴は……。

 自尊心(プライド)だの体面だのと飯の種にもならない事を大事にしやがる。

 それで自分が苦労するなら構わないが、それを民衆に押し付けるからタチが悪い。

 民衆あっての貴族だとわからないのだろうか。

 威張るだけで統治も出来てないくせに税だと?

 よくも言えたもんだ。


「先代の領主様であれば寄親を頼ったであろうが、現領主であるダニート様は歳がいってから家督を継いだ事もあってな。尊大というか何というか……少しな」


 どうやら軍曹殿も苦労しているようだ。

 しかし、これで決まったな。

 領主は救いようのない馬鹿貴族だ。

 今からそいつの首を斬りに行こう。

 それに良いことを思いついたので軍曹殿にも協力してもらおう。


拝読ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 主人公が相手を見下す嫌な奴で辛い
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ