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脱出通路

 俺は壁に背を預け、転がった貴族の首を横目に床に座り込んでいた。

 疲れた。

 兵士達との戦闘の疲労が今になって身体にのしかかってきている。

 手や足が鉄球付きの鎖で縛られているかのように重い。

 いや、重いのは気持ちかもしれないな。

 これは戦争、やらなきゃやられるだけだ。

 しかし、だから人を斬っても問題ないと思えるほど俺は単純ではなかったようだ。

 あぁ、だから扉から出てきた奴は斬らなかったのか。

 自分でも何故蹴っただけで済ませたのかわからなかったが、多分そういう事なんだろう。

 無駄に殺す必要もない。

 さて、休憩はこれくらいにして仕事に戻るとするか。

 こんな所でへたり込んでいても意味がないしな。

 馬鹿貴族……マックロン男爵だったかな?

 その首と身体は持ち帰るとして、あとは机の上にある書類と麻袋の中身は――金貨か。

 ドッシリ感じるくらい入ってるし、見た事もない貨幣もある。

 とりあえず、魔法鞄(マジックバック)に入れて持って帰っておこう。

 他に目星いものは……何だ?

 よく見ると部屋の隅に豪華な全身鎧(フルプレートメイル)が飾ってあるじゃないか。

 材質も良いの使ってるみたいだが、しかし装飾が派手だな。

 金に銀、白金(プラチナ)まで使ってある。

 戦場では目立って敵に狙われるし、装飾が入ってる部分は弱くなってるみたいだし、実用性の低い、飾るための鎧だろう。

 多分、さっきの男爵か此処にいない伯爵の物なんだろうけど、着れない鎧に意味とかあるんだろうか?

 貴族のやる事はよくわからないが、何かの証拠になるかもしれないし、これも持って帰ろう。

 あとは……あっ、そうだ。

 さっきの兵士はまだ生きてるんだった。

 殺すのは嫌だし、とりあえず起こしてみるか。


「ぐげっ!」


 俺は大の字になって気絶している兵士の腹を踏みつけた。

 乱暴だとは思うが、もう疲れてるし面倒なので勘弁してもらおう。

 兵士は声にならない声を上げて目を覚ました。


「こ、此処は? ひっ! ば、ば、ばけも……」


 俺は煩く(さえず)る兵士の喉元に刀を突きつけた。

 俺の全身が血塗れで驚くのはわかるが、ガタガタ煩いのは困る。

 それに今は煩わしいのは遠慮願いたい。

 疲れてるんだからさ!


「黙って俺の言う事を聞け。いいか? この屋敷に脱出通路なんかはあるか? あるなら頷け」


 怯えた表情ながら兵士はゆっくり頷いた。

 脱出通路があるのは有難い。


「そこは使えるのか? 此処にいる兵士達はその存在を知っているのか?」


 兵士は今度は横に首を振った。

 つまり知らないと言う意味か。

 しかし、そんな都合のいい事あるんだろうか?

 占拠した建物の事を知らないなんてあまりにも稚拙過ぎる気がする。

 これは詳しく聞いてみた方がいいかもしれないな。

 嘘だったらボロが出るだろう。


「何故、知らないんだ? 理由を話せ。ただし、余計な真似をすれば命はない」


 兵士は冷や汗を浮かべながらコクコクと頷いたので、話すように促す。


「……そ、その脱出通路は、こ、この屋敷の主とし、執事しか知らない秘密の抜け道だ。こ、此処を占拠された時も喋ってはいない。ほ、ほ、本当だっ!」


「屋敷の主と執事だけ? と言う事は貴方は……」


「わ、私はカール……カール・フォン・ライエル男爵だ。一応……この屋敷のあ、主だ」


 っ! まさかライエル男爵とは思わなかった。

 俺が殺した前ライエル男爵の嫡子か……やりにくいな。

「私は此処を占拠されたが伯爵の部下になった訳ではない! 奴らの目を掻い潜って、屋敷の者達と脱出するつもりでいたのだ! だが……執事のラナイが殺されて……それで……」


「怖くなって逃げられなくなった?」


 ライエル男爵は項垂れるように頷いた。

 誰だって目の前で人が殺されたら萎縮するもんだ。

 ましてや、父親を亡くし、家督を継いだばかりのお坊ちゃんには十分恐怖だったろうよ。

 別に責めるつもりもないけどね。

 それより脱出通路だ。

 俺としてはさっさと脱出して風呂にでも入りたいんだ。

 もう服に着いた血が固まってバリバリ音がするし、血の匂いで鼻がおかしくなりそうだ。


「脱出通路の場所さえ教えていただけたら後は好きにしていいですよ。最も俺が脱出するまでは大人しくしててもらいたいんですけど」


 俺の言葉にライエル男爵は必死に頭を下げる。


「お願いだ! 今なら奴らもいないみたいだし、俺も一緒に逃してくれ! 抜け道は案内するから! 頼む!」


 足手纏いはいらないんだけど……仕方ないか。

 此処で見捨てるのも目覚めが悪いしなぁ。


「わかりました。では、案内してください。貴方の事は捕虜ではなく、協力者として扱わせていただきます」


「す、すまない! 助かる!」


 ライエル男爵は満面の笑みで俺に答える。

 俺も脱出出来そうな事に内心ホッとしていたが、次のライエル男爵の言葉に俺は戸惑いを覚えた。


「そういえば、貴官の名前を聞いてなかったな。教えてくれないか?」


いつも拝読ありがとうございます。

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