血の足跡
派手な鎧を着て、ニヤニヤしていただけの男の首を刎ねる。
首を失った胴体からは血が噴き上がり、辺りに血を撒き散らしていた。
俺は急な出来事に理解が及ばず、立ち尽くしている兵士達に刃を向けた。
ここで何人斬れるかで俺の運命も決めると言っても過言ではない。
元々、1対50なんだ。
容赦はしないぞ!
「うぎゃぁあああああああ!」
「っ! がふっあ!」
「ま、まっ……ぐげっ」
バリエーションに富んだ悲鳴が聞こえるが、気にしている状況ではない。
兵士達はまだまだいるんだ。
棒立ちしてた奴から斬ったけど、まだ10人も倒せていない。
ここにいる全員が全身鎧を着込んでいるから、隙間を狙わないといけないので思ったより時間がかかる。
おまけにこんな狭い廊下じゃ技も出しにくいから、斬る事しかできない。
いかん、泣き言を言ってる場合じゃない!
とにかく目の前の敵を斬るしかない。
「た、隊列を組み直せ! 敵は1人! 恐るるに足りんぞ!」
おいおい、ここは外じゃないんだから、狭い廊下で隊列を組むのは無理じゃないかな?
いいぞ、そのまま浮き足立っててくれよ。
その時、後方から複数の足音が聞こえてきた。
「賊がいたぞ! 近衛部隊と連携し、挟撃せよ!」
チッ! もう一階から兵士達が上がってきた!
挟撃はマズいな、仕方ない。
気は進まないけど、やむを得ない。
俺は刀を鞘に戻した。
目前の兵士達は俺が降伏したと思ったのか、さっきまでの恐怖に慄いた顔が去り、醜い笑顔を晒していた。
降伏など認めないと言った顔だな。
なら、俺の気持ちも軽くなるというものだ!
俺は斬り殺した兵士の死体から剣を2本奪い、目前の兵士達に再び挑みかかる。
「なっ! き、貴様……」
さっき指示を出していた兵士を鎧ごと袈裟斬りを放った。
《魔装刃》で強化された剣は全身鎧ごと兵士の身体を斬り裂き、刃は心臓に達していた。
さっきまでは刀が痛むから隙間を狙ってたけど、敵の剣なら別に構わないしな。
ただ、兵士達には最悪だ。
このやり方だと一撃で死なないから、少々苦しむことになる。
酷いようだが、これが戦だ。
俺は後ろから来る敵を気にしつつ、前方の敵を斬り伏せていく。
敵も反撃に出るようになってきたが、惨状を間近で見たせいか動きが鈍い。
1人でも多く斬り伏せるため、俺は剣を振るった。
途中、刃こぼれした剣を捨てては落ちてる剣を拾ってまた振るう。
後ろからの敵が追い付いてからは乱戦になり、壁を背にしながら襲いかかる剣や槍を躱し、捌いては斬った。
敵兵は1人、また1人と倒れていったが、絶えず次々と襲ってきた。
斬った、また斬った。
斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る
斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る
斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る
派手鎧を斬ってからどれだけ経ったのか。
俺の軍服から自分以外の者の血が垂れ始めた頃、やっと俺の周りから敵兵の姿はなくなった。
代わりに足元には踏み場もないほどの敵兵だった者達の骸が横たわっていた。
狭い廊下の壁や窓、カーテンは血飛沫が飛んだのか、俺がいた一箇所だけが真っ赤に染まり、元の白地は殆ど見えなかった。
俺が使ったであろう欠けたり、曲がったり折れたりした剣がそこら中に散乱していた。
「ふぅ……疲れた」
俺は剣を支えにし、壁に背を預けた。
これだけ斬ることも今までなかったから、少し疲れてしまった。
何人斬ったかわからないし、遺体を数えるのも面倒だ。
そういや、これって戦功になるんだろうか?
しかし、全部の遺体を持ち帰るのは魔法鞄でも流石に無理だし、一応、戦功になりそうな奴だけ持って帰るとするか。
そうなると……この3人かな?
最初の派手鎧と途中から指揮してた兵士と一階から上がって来た時の陣頭にいた兵士。
あとは仕方ないから放置になるけど、なるべく早くこの戦を終わらせて供養のために戻ってこよう。
「すぅ〜、よしっ! じゃあ、標的を捜すとするか」
俺は一呼吸して気分を落ち着かせたあと、俺はこの先にいるはずの男爵を目掛け、赤い絨毯の上を赤い足跡を付けながら歩いていった。
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