作戦変更
ダウスター領軍600人はライエル男爵領に向かって進軍を開始した。
隊列を組み、一糸乱れず進軍する姿は勇ましかった。
相手はオーマン伯爵軍約15000人、こちらの25倍の戦力だ。
はっきり言って勝ち目はない。
正直、最初は皆戦意は低く、士気の低下は著しかった。
練兵場に集まった兵達は戦況を聞いて己の最後を連想したのか、戦々恐々としていた。
どの道、戦わねばならない相手だ。
こんな状態では勝てる戦も勝てなくなる。
男爵様はそんな兵達を鼓舞しようと壇上から必死に声を張り上げる。
しかし、それでもほとんどの兵達の士気は低いままだった。
するとそこに、壇上に登ってくる者達がいた。
ヴォルガング流剣術を修めた剣士にしてその腰に下げるは雷の力を宿した魔剣。
黒髪ストレートのスレンダー美人でその端麗な顔立ちで帝都の女性を魅了するアリシア・フォン・ヴォルガング大尉。
炎の魔法を極め、古代魔法《真紅星光爆裂》を復活させた秀才。
金髪のポニーテールと大きな瞳にあどけなさが残る顔、そして不釣り合いな豊満な身体で一部のマニアに絶大な人気を誇るファンティーヌ・フォン・リンテール少尉。
そして齢24にして幾多の戦場を駆け回り、その優れた才能で中将の座に着いた戦争の天才。
老若男女、身分を問わず全ての者を虜にしてしまう傾国の美女シャーロット・フォン・ジェニングス中将。
いきなり現れたの3人に練兵場に集まった兵達は一瞬で心を奪われる。
「勇敢なる我が兵達よ! 敵は烏合の衆であり、栄えあるダウスター領軍の敵ではない! 真なる敵は己の中にあると心得よ! 貴官らは1人ではない! 仲間がいる、そして我も貴官らと共にある! さぁ、共に敵を穿ち、我らの戦果を高めようではないかっ!」
「うおおおおおおおおおおおおおおっ!」
「俺達には女神様がついてるぞぉおおおおお!」
「大尉ぃぃいい! どうぞ、私を犬にぃいいい!」
「少尉に近づく者には容赦するなぁああああ!」
「閣下ぁあああ! 私は貴女の下僕ですぅううう!」
中将の言葉に一斉に歓声を上げ、士気高揚する兵達。
一部おかしな声が上がったが、気にしないでおこう。
それにしても、一生懸命に声を張り上げていた男爵様の立場がないなぁ。
まぁ、確実に士気は上がったんだから良いって事でダウスター領軍は出撃した。
目的地はライエル男爵領領都ハルシラ。
1日かけて行軍し、中間地点で野営していると軍令部より魔導通信が入る。
なんと、帝都の軍隊が援軍としてこっちに向かっているとの事だった。
今回のオーマン伯爵の離叛には別の勢力が介入してくる可能性があるとの事。
言われてみれば、その通りだ。
いくら伯爵とはいえ兵力で帝国に敵うはずがない。
いずれかの勢力と繋がっている可能性は大きい。
そこで帝国軍の本隊より援軍を出すことになったそうだ。
軍令部ではオーマン伯爵の離叛は察知していたようで、すでに近隣の各領に軍を派遣し、レヴァンス侯爵の軍と同時に到着予定との事だった。
それにより当初の計画を変更する事となった。
「さて、各々知っていると思うが、レヴァンス侯爵軍に加えて帝国軍本隊の援軍も来る事となった。当初は敵を誘い出して各個撃破する予定だったが、ここまで兵力差が埋まれば無茶をする必要はあるまい。しかし、それでは手柄まで持っていかれてしまう。そこで、我々は量より質をとる。伯爵家に仕える名のある兵の首を狙うぞ」
「待つのだ、中将。無茶をしなければ良いのならこのまま援軍が来るのを待てば良いだけだ。何も無理に手柄をあげなくてもよいではないか」
中将の発言に男爵様は苦言を呈す。
確かに、侯爵軍に帝国本隊が来て解決してくれるならそれでいい。
下手に首を突っ込んで斬られるのは御免蒙りたい。
「……前ライエル男爵の無能な統治に今回の伯爵の侵略、ここの領民達は疲弊している。このまま無能な統治が続けばこの地は荒れ、悪化の一途を辿るのみだ。だが、ここで我らが戦果を挙げれば、褒美としてこの地は卿の物となろう。そうすれば民は救われる。私はそのためにどうしても戦果を挙げねばならんのだ」
「むぅぅぅ」
嘘くさい。
どうも中将の言は嘘くさい。
男爵様は考え込んでおられるが、なんか裏がありそうだな。
「わかった。そういう事ならやむを得まい。ただし、無闇に兵を傷つけるような真似はするなよ」
「わかっている。行くのは大尉と少尉、それと軍曹だけだ」
なんでそこで俺を巻き込むんだ?
中将の直属の部下の2人はともかくなんで俺まで?
「彼の実力は折り紙つきだ……それに早く出世してもらわねば困るんでな」
なんか後半に小声で言ってたの聞こえたぞ。
俺を出世させる?
どういうつもりだ?
でも、出世のチャンスを棒に振ることもないだろう。
とりあえず作戦だけは聞いてみよう。
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