領軍出撃
俺と大尉、少尉が作戦室に入ると既にサイモン上級曹長が中にいた。
手には数枚の書類を持っており、必死に目を走らせている。
どうやらこっちには気づいていないようだ。
それだけで事態の深刻さが分かるというもの、誤報ではないという訳だ。
「上級曹長。これは何事か?」
大尉が書類に目を落としている上級曹長に声をかける。
「これは大尉! 気がつかず、失礼致しました」
大尉の存在に気づいた上級曹長が詫びるが、大尉は気にした様子もなく言葉を続ける。
「それはいい。それより《敵軍接近》との報だが、どういう事だ?」
「はっ! 詳しくは男爵様が来られてからの説明になりますが、昨日未明ライエル領が攻撃を受けたとの報告がありました。確認に向かわせたところ、ライエル領領都ハルシラより黒煙が上がるのを確認、更に我が領土に多数の難民が向かっているとの事でありました」
ライエル領ってこの前、ウチと揉めた隣領じゃないか。
しかし、妙な話だ。
ライエル領はウチと同じで帝国の辺境、簡単に言えば田舎で占領価値はない。
正直、敵からすれば落とす意味がない筈だ。
更に領土は山々に囲まれており、街道が繋がっているのはダウスターとオーマンだけ。
となると、攻めてきたのは……
「オーマン伯爵が帝国より離叛し、帝国に対して宣戦布告をした」
「ジェニングス中将! ダウスター男爵様!」
中将と男爵様が作戦室に入ってくるなり、衝撃の報告をしてくる。
「軍令部からの魔導通信によると、昨日未明にオーマン伯爵は軍を率いてライエル領に侵攻、同日領都ハルシラを占領下においた。上級曹長、これより先の情報はあるか?」
「はっ! 現在、斥候に出ておりますロースター軍曹からの報告では、ハルシラでは略奪が横行してある模様。更に敵の分隊が、ここウルグに向かって派遣され、ウルグに侵攻する可能性は極めて大との事であります」
男爵様と上級曹長の話からして、ここに敵が来るのは間違いない。
だが、問題は数だ。
ダウスター領軍は前回の件でライエル領軍より異動があった事で増員されているとは言っても約600名だ。
そこに民兵を加えたとしても1500名がいいところだろう。
「オーマン伯爵軍は軍令部からの情報では約10000と聞いているが、おそらくこの離叛は計画的なものだろう。そうなると、軍備を整えていたと考えるられる。推測ではあるが15000はあるだろうな」
うちの10倍か。
中将の推察だし、間違いないだろう。
それに前ライエル男爵に付き纏っていた商人もオーマン伯爵領の者だったし、ライエル領の力を削ぎながら金銭を集めていたとすると辻褄も合う。
それよりどう戦うかだな。
「しかし、オーマン伯爵も不運なことだ。まさか、こんな時に決起するとは」
「運がないってのはぁ、軍人としては最悪だよぉ」
「大尉、少尉。それはどういう事でありますか?」
大尉と少尉が漏らした言葉が理解できず、俺は2人に問いかけた。
「貴官の前には誰がいるのだ?」
「小官の前? 大尉と少尉でありますが……」
「わかんないかなぁ?」
どういう意味だ?
大尉と少尉がいるって事は……どういう事だ?
何か関係あるのだろうか?
「軍曹。頭を働かせろ。ジェニングス中将だ」
俺が答えに詰まっていると男爵様が答えを教えてくれた。
「オーマン伯爵は貴族特権で中将の地位にあるが、従軍経験はない。つまり、用兵というものを知らんのだよ。戦争は確かに数だ。敵より多くの兵を集めるのが定石ではある。だが、統率する者の力量は勝敗を大きく左右する。新兵に率いられた精鋭より、精鋭に率いられた新兵の方が厄介だからな」
なるほど!
ジェニングス中将は齢24にして中将に昇り詰めた天才だ。
戦争経験は豊富だし、更に言えば中将達がいる事をオーマン伯爵は知らない。
大尉や少尉の戦力もかなり大きい。
特に少尉の魔法なら敵軍に大打撃を与え、混乱させる事もできるかもしれない。
そこを大尉を中心とした領軍がつけば、勝てるかもしれないな。
「本来なら助勢を請うなど不本意だが、今回はやむを得ん! 命令系統を確認する! 今回は領内での事なので階級を飛ばして司令官はこの私、ダウスターが務める。参謀にジェニングス中将、補佐にアンダーソン大佐。副官はサイモン上級曹長。領軍600はヴォルガング大尉を隊長とし、副長にリンテール少尉とシュナイデン軍曹。民兵は領都防衛戦力とし、指揮はアルフレッド・フォン・ダウスター准尉がとる。現在斥候中のロースター軍曹は帰還次第現地にて合流予定だ。また、3日後には北よりレヴァンス侯爵の軍が加勢にやってくる。よいかっ! 帝国より離叛し宣戦布告をするなどという馬鹿げた貴族のボンボンに現実を叩き込んでやれ! 正午にはライエル領に向かって進軍する! 行くぞ!」
「了解!」
その場にいた全員が敬礼し、各々が持ち場に走っていく。
本格的な戦争になりそうだな。
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