平和を脅かすノック
うぅぅ、なんて居心地が悪いんだ。
落ち着かない。
おかしい……ここは俺の部屋のはずだ。
なのに、居心地が悪い。
その理由は。
「全く! 貴官のせいで酷い目にあった!」
「本当だよぉ。あそこは話を合わせてくれないとぉ、困るんだからぁ」
なんで大尉と少尉が俺の部屋にいるんだ?
しかも、怒ってるし。
ちょっと待て、整理してみよう。
今日は休みだったから、朝起きて練兵場で軽く汗を流した。
その後に、食堂で飯を食ってから部屋に戻った。
そろそろ新しい酒の研究でもしようかと机に向かったら、扉をノックされて……開けたら2人が有無を言わさず入ってきた。
ダメじゃん!
ノックされたからって無用心に開けちゃダメじゃん!
お陰で俺の貴重な休日が……
「聞いているのか? 軍曹」
「聞いておりますけど。それにしても、よく怒られただけで済みましたね」
「当たり前だよぉ、プライベートな事ではジェニングス中将は権力を使ったりしないからねぇ。でもぉ、気をつけなよぉ。他の貴族や将官、佐官は公私混同してる人が多いからぁ」
どこでも権力を使って馬鹿面を晒している奴らはいるもんだ。
前ライエル男爵もそうだった。
御子息が家督を継いだ後にわかった事だが、出入りの商人に騙されてガラクタを高値で買わされて、資産のほとんどを散財していたようだ。
寄親のレヴァンス侯爵が援助した事でなんとか持ち直したが、下手をすればお家取り潰しの一歩手前だったそうだ。
ちなみに騙していた商人は地元であるオーマン伯爵領に逃げ帰ったらしい。
レヴァンス侯爵とオーマン伯爵は仲が良くないらしく、あるパーティーの席で商人の処遇を巡って一悶着あったそうだ。
帝都の公爵が仲裁に入ってその場は収まったそうだけど、火種は燻ったままで貴族の間でも敬遠されてると聞いた。
貴族ってのは本当にどうしようもない奴らが多い。
まだ良識がある方だと言われているレヴァンス侯爵ですらこうなんだからな。
「それより貴官はこれからどうするんだ? こんな田舎の領軍では訓練以外の仕事はあるまい?」
「まぁ、そうですね。訓練と演習の繰り返しでたまに書類仕事があります。物資とかの確認で」
「そんなんじゃ、出世できないよぉ。ずっと軍曹のままでいるのぉ? それはぁ、困るんだけどなぁ」
俺の出世になぜ少尉が関係あるんだ?
大尉も頷いているけど意味がわからない。
「出世って難しいものなのですか?」
「ここにいては難しいだろうな。軍の出世は《先任進級》と《抜擢進級》があるんだが、《先任進級》はある程度の年数が経てば進級できるが、尉官以上はかなりの年数がかかる。《抜擢進級》は戦功を挙げた者、優秀な成績を修めた者にしかない。前回の貴官の5階級特進は《抜擢進級》だ」
「ここだとぉ、戦争への参加も少ないだろうしぃ、《先任進級》だと私と同じ少尉になるまででもぉ……15年はかかるかなぁ。流石に待てないよぉ」
何を待っているのかは知らないが、15年かぁ。
今年成人したから少尉になるのは30歳。
待てよ、サイモン上級曹長やロースター軍曹は確かもっと上のはずだ。
となると、結構早い方なのでは?
「とにかく、貴官にはなるべく早く私達より上の階級になってもらわねば困る。15年あったら私は中佐、ファンティーヌは少佐だろう。差が開くばかりだ」
「なんとかしないとぉ、婚期が遅れちゃうぅ。私はまだしもアリシアちゃんはぁ……」
「……その先を言えば斬る」
「小官の部屋で刃傷沙汰は困ります。お2人は器量好しですから、引く手数多でしょう? 遅れるとは思いませんが?」
俺は思った事を口にしただけだが、2人は顔を見合わせてため息をついた。
「これは苦労しそうだな……」
「初めて見たわぁ、こんな鈍感な人はぁ……」
なんの話だか、全然わからない。
俺みたいな平民出にはわからないけど、きっと貴族の家系には色々あるんだろう。
俺がそう結論付けた時だった。
ガアァーンッ! ガアァーンッ! ガアァーンッ!
男爵邸、宿舎、練兵場を含めた領都ウルグ内に気魂しい鐘の音が響き渡る。
領都ウルグの四方にある望楼の鐘の音だ。
「緊急連鐘だとっ! 一体何が?」
「とにかくぅ、非常召集だよぉ。召集場所は何処ぉ?」
「一兵卒は練兵場へ、下士官以上は作戦室であります!」
緊急連鐘は戦争における警報の一つ。
《敵軍接近》を表す鐘だ。
平時だと言うのに、一体どういう事だ?
訳もわからないまま、俺達3人は部屋から飛び出し、作戦室に向かった。
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