3つの願い
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作戦室はシンと静まりかえり、誰かが声を発するのを今か今かと待ちわびていた。
室内には男女6人が椅子に腰をかけ、静寂を維持するかのように口を閉ざしている。
上座に座るのは、この場の最高位であるシャーロット・フォン・ジェニングス中将だが、腕を組み、閉眼したまま口を閉ざしていた。
その後ろで落ち着きなく座っている男性は、中将の副官であるノイマン・アンダーソン大佐だ。
キョロキョロ周囲を見回しては汗をかき、それをすでに濡れ雑巾と化したハンカチで拭いている。
その横に座ったまま俯いているのはアリシア・フォン・ヴォルガング大尉とファンティーヌ・フォン・リンテール少尉だ。
2人は先の立ち合いで傷を負っていたが、アンダーソン大佐の回復魔法により傷は癒えていた。
だが、傷は癒えても彼女たち2人の表情は重苦しく、面を上げる事はなかった。
中将の対面に座るのは、帝国軍中佐であり、このダウスター領の領主でもあるアーベル・フォン・ダウスター男爵だ。
スキンヘッドに筋骨隆々の巨体、それに加えて今は鬼人を思わせる表情で対面を睨みつけている。
子どもの夢に出てきたらトラウマ確定の恐ろしい顔だ。
その鬼人……じゃなくて、男爵様の隣に座っているのが俺、リクト軍曹である。
この長い沈黙が耐えられないんだよなぁ。
もう皆が部屋に揃ってからだいぶ経っているぞ。
練兵所で俺が勝ってから大尉と少尉の回復待ち、その後に戻ってきた男爵が現場を見て大激怒。
どうやら自分がいない間に始めないように言っていたらしいが、それが守られずに中将に詰め寄っていた。
いかに階級が中将と中佐であっても、爵位は同じ男爵。
ダウスター男爵にしてみれば自領で勝手な振る舞いをされて、『礼を失している!』と猛抗議。
さすがの中将もこれには反論できず、回復を終えたアンダーソン大佐がオロオロしながらも仲裁に入り、場所を変えて話をする事となり、全員でこの作戦室に移動してきたんだけど……長い。
腹も減ったし、さっさと終わらせて飯を食いにいきたいんだけどなぁ。
「このまま黙っていても時間の浪費ですな。先ずは中将に説明をお願いしたい」
沈黙を破ったのは男爵様だった。
名指しを受けた中将は一呼吸ついた後に目を開き、こっちを見る。
「確かに、まずは謝罪するべきだな。男爵との約束を違えた事、非礼を詫びよう」
中将は座ったままであるが、頭を下げた事で男爵も素直に謝罪を受け入れた。
「私への謝罪はもう結構です。ですが、我が軍のリクト軍曹に対しての非礼には如何に報いるおつもりか? 私は立ち合いは認めましたが、だからといって、真紅星光爆炎や雷の魔法剣の使用まで認めた覚えはありません! 我が部下が大勢証言しています。あれは模擬戦とは思えなかったと!」
まぁ、そうだろうなぁ。
例えば、サイモン上級曹長やロースター軍曹が相手だったら確実に死んでいた。
俺はたまたま剣術に覚えがあったから助かっただけ。
「そ、それにつきましては……」
「大佐! 私は中将にお聞きしておるのです!」
男爵様もそんなに怒らなくてもいいのに……大佐が完全に沈黙してしまったよ。
「大佐は私を思って発言したのだ。責めるのはやめてもらおう」
「部下を守る中将のお心には共感いたします。ですが、ならばこそ! 私はリクト軍曹に生命の危険があった事に憤りを感じているのです! 中将がこれ以上リクト軍曹を侮辱するようなら私も覚悟を決めねばなりませんな」
男爵様めっちゃ怒ってるな。
それにしても覚悟を決めるってどういう事だろう?
何かするのかな?
「私を軍法会議にかけるか?」
「辞さぬと言う事です」
やり過ぎだ! 男爵様! いくら何でも無茶です!
上官を軍法会議にかけるって確かに覚悟がいるだろうけど、そんなもの権力で握り潰されるだけだ。
「なるほど。陛下の覚えめでたきダウスター卿の申し出なら軍令部としても無下にせん……か」
「私としてはあらゆる人脈を駆使させていただきます」
あれ? 中将の顔色が悪い? なんか冷や汗も出てるし。
もしかして、男爵様って凄い人だったんだろうか?
ただの筋肉達磨じゃなかったのか。
「リクト軍曹。変な目で私を見るなよ」
「うおっ! り、了解であります」
びっくりしたぁ、心を読まれたのかと思った……。
「さて、中将。返答は如何に?」
「……わかった。ダウスター卿の言う通りにしよう。リクト軍曹」
「はっ!」
俺は起立して答える。
「貴官に対して実力を疑い、無礼な振る舞いをした。謝罪しよう。そして、先に願いを聞くと言った事についてだが詫びも兼ねて……3つ。私のできる範囲で3つ叶えようではないか」
「3つ……で、ありますか?」
「そうだ。さぁ、願いを言うがいい。私を嫁にでも乞うてみるか?」
中将が妖艶な笑みを浮かべる。
中将殿……それだけは勘弁であります!
拝読ありがとうございます。




