終幕の時
ハーレム要素追加になりそうです。
魔法盾は便利なものだ。
修業すれば扱えぬ者はいない程にこの世界では普及している魔法の一つである。
周囲に魔力の盾を展開し、強度は術者の技量によって変わるが、あらゆる衝撃を防いでくれる。
本当に便利な魔法だ。
しかし、便利とは危険な事だ。
便利とは使い勝手がよくて重宝するという事だ。
重宝するという事は常用してしまうという事だ。
常用するという事は無くてはならないという事だ。
つまり、それが無くなった時は危ないという事だ。
《魔法盾依存》
俺が父親から厳に戒められた事の一つだ。
「相手が一撃でお前の魔法盾を破れるなら、魔法盾は無いのも同じだ」
まさに今、父親のその言葉が証明されたというわけだ。
まぁ、加減したから死にはしないだろう。
「ファンティーヌ! ファンティーヌ! 無事かっ! 生きているかっ!」
身体を斬り裂かれ、血塗れでぐったりしている少尉の元は大尉が駆け寄り、身体を支えながら声をかけている。
「うぅぅ……アリ……シアちゃん……」
「良かった! 中将! ファンティーヌの後退の許可を! あとは私一人で必ずやり遂げます! だから、ファンティーヌの治療をっ!」
「いいだろう。ファンティーヌ少尉は戦線離脱とする。アンダーソン大佐! すぐに治療にかかれ!」
血塗れの少尉を優しく大尉が抱き抱え、後方に控えていた大佐の前にゆっくりと下ろす。
大佐はすぐに回復魔法をかけ始める。
少尉の傷がみるみるは塞がっていくが、出血も多かったし、すぐには動けないだろう。
つまり、俺の残りの相手は大尉だけというわけだ。
「侮っていた事を謝罪しよう。それに、ファンティーヌが下がるまで追撃をしなかった事にも感謝する」
俺の方にゆっくり歩いて来ていた大尉が俺に謝罪と感謝の弁を述べる。
意外だなぁ。
もっと傲慢かと思ってた。
「貴様に頼みがある」
ん? 今度は何だろう?
「何でしょうか?」
「ファンティーヌが敗れた時、貴様の言う事を聞くという話があったと思うが、それを私が勝ったら撤回させてもらいたい」
……あぁ、そう言えば少尉が中将に釣られてそんな事を言ってたな。
すっかり忘れてた。
俺としては中将の方にしか頼みがないから別に気にしてなかったな。
「虫のいい話なのは重々理解している! だが、その変わり、私が敗れたなら貴様の言う事を何でも聞こう! 頼む!」
いや、そんなに頭下げられても困る。
俺からすれば別にどっちでもいいんですけど。
「それでいいですよ」
とりあえず返事しないと頭を上げてくれないだろうから条件を呑んでおこう。
「感謝する。これで貴様を思う存分叩きのめせる」
「感謝」って言葉の後に続く言葉とは思えないな。
なんて矛盾した話だ。
「では、覚悟はいいか? この雷の魔剣の力を篤と味わうがいい!」
刀身に雷を纏った大尉の剣が俺に襲いかかる。
とりあえず感電するのは嫌なので避け続ける。
「どうしたっ! 避けてばかりでは勝てないぞ! 打ってこい!」
そう言われてもねぇ。
大尉の剣筋は鋭く、速さもあるので避けるのも大変だ。
なんという流派の剣術かは分からないが、かなり実戦向きと見た。
でも、このままじゃ埒があかない。
よし、やるか。
俺はわざと壁際まで後退する。
「逃げ場はもうないぞ! 喰らうがいい!」
大尉が大きく上段に剣を振りかぶる。
絶対に殺しにかかってるな、これは。
ならば、是非もなし。
俺は振り下ろされる剣を自らの刀で受け止める。
「よくぞ受けた! だが、この雷が貴様の……」
大尉の言葉が途中で止まる。
俺が平然としており、感電している様子がない事に驚いているようだ。
その一瞬の隙に俺は大尉の剣を受け流し、当身で大尉を後ろに飛ばす。
「ぐっ! 貴様、なぜ雷が効かない? どういう事だ!」
「ちょっとした裏技であります」
大尉の質問に答えてあげられないのは残念だが、俺にもよくわかっていないので他に言い様がない。
「《魔装刃》か」
中将がポツリと呟いたのを俺は聞き逃さなかった。
《魔装刃》? 何それ?
「そんな……《魔装刃》の使い手がまだ存在していたと言うのですか? そんな事が……」
大尉も何か自己完結してるみたいだ。
それにしても隙だらけなんだけど、いいのか?
とりあえず、軽く斬りかかってみる。
そうだ、大尉の剣術を真似してみよう。
俺はさっき見た大尉の剣術を見様見真似で繰り出す。
「くっ、こ、これは……貴様っ! 何故、ヴォルガング流剣術を知っているのだ!」
大尉は剣を交えながら俺に問いかけてきた。
へぇ、これってヴォルガング流剣術って言うのか。
って事は、大尉の実家は剣術師範か何かかな?
でも、この剣術は俺の片刃にはやりにくい。
やっぱりウチの剣術でやらせてもらおう。
「くっ! また剣筋が変わった! くそっ!」
大尉と剣を交えるのは思ったより楽しかった。
しかし、数合の撃ち合いの後、大尉の剣が宙を舞い、大尉は力なく跪き項垂れた。
「それまでだ。勝者は……リクト軍曹」
重苦しい中将の言葉で俺達の戦いは終わった。
面倒な事だったけど、これで中将に頼みを聞いてもらえるから良しとしよう。
楽しみだなぁ。
拝読ありがとうございます。




