一刀両断
「はぁはぁ……な、なんだ今のは……ファンティーヌ! 大丈夫かっ?」
自らも跪き、呼吸を荒げながらもアリシアは友人でもあるファンティーヌの身を案ずる。
状況は理解できていない。
奴に斬りかからんと剣を振り下ろしたところまでは覚えているが、奴に刃が届く寸前に弾き飛ばされた。
凄まじい風が起こったのは間違いない。
魔法か?
奴はファンティーヌと同じ魔法兵だったのか?
いや、今はいい。
とにかくファンティーヌの安否が気がかりだ。
「いてて……な、なに? 今の突風は?」
ファンティーヌは身体を摩りながらゆっくりと起き上がる。
少し離れていたのでアリシアよりは状況は知わかっている。
しかし、わかっているだけで理解は出来ていない。
あの男が刀を抜いた。
すると突風が吹いた。
わかっているのはそれだけだ。
いや、もう一つわかっている事がある。
私達2人は無様に地面に転がされ、それをあの男は追撃せずに立っているという事だ。
「ファンティーヌ! 無事かっ? 何が起こった? 今のは魔法か?」
アリシアが起き上がったファンティーヌに質問を投げかける。
「大気砲のようだったけど、魔法じゃないよ! 魔力は感じなかったから。でも、気をつけて! あの男の力は得体が知れないよ……」
ファンティーヌは杖を支えにして立ち上がる。
それにあの男が剣を持ったまま動かないのも気にかかる。
やはり、魔法で独白詠唱でもしているの?
「もう宜しいでしょうか? では、尋常に勝負であります」
「っ!」
ふざけるなよ!
こいつ、待っていたというのか!
帝国軍大尉アリシア・フォン・ヴォルガングに情けをかけたというのか!
許さない、許さない、許さない!
この屈辱は貴様の身をもって償って貰うぞ!
「もう容赦はしないぞ。軍曹! 雷よ、雷よ、雷よ!」
大尉の言葉に反応し、剣の刀身に刻まれた魔法文字が光り輝き、刀身は雷を纏っている。
なるほど、あれが魔法剣というやつか。
初めて見た。
なんせ魔法剣って高いからなぁ。
なんせ1本で屋敷が買えるって言う位だし。
俺には一生縁がない物だろう。
でも、いつか出世したら一本ぐらいは持ってみたいものだ。
「覚悟はいいか? 言っておくが、剣を交えるのはおすすめしないぞ」
さっきまで驚いた顔してたのに、もう涼しい顔してるよ。
切り替えの早さはさすが大尉といったところか。
確かに、あの剣と剣を交えたらこっちは感電しそうだな。
大尉の方は刀身にしか雷を纏ってないから大丈夫というわけか。
「こっちも準備はできたよぉ! さっき私達が倒れてる時に攻撃しなかったのは失敗だったね! 優しい人は好きだけど、それで負けたら意味ないんだよぉ!」
少尉の掲げる杖の先には大きな炎の塊がある。
大尉を待ってる間に詠唱が終わったらしい。
しかし、あの炎の塊が爆発したらここの練兵場もタダでは済まない気がするんだけど。
「じゃあね! 黒焦げになって、アリシアちゃんに斬られても生きていたらまた会おうねぇ! 《真紅星光爆炎》!」
満天の星の煌めきを思わせる光彩を放ちながら、真紅の炎の塊は全て焼き尽くし、灰塵に帰さんと燃え盛り、凄まじい速度でこちらに向かってくる。
思ったよりでかい! このままだと練兵場の奥にある宿舎にまで被害が出るぞ!
それがわからないのかっ!
「正気かっ! この辺り一帯が吹き飛ぶぞ!」
「あははっ! 戦いに犠牲は付きものだよぉ。大丈夫、ちゃんと供養はしてあげるからね」
魔法盾の後ろに隠れた少尉はそのあどけない顔に満面の笑みを浮かべる。
こんな状況でなければ天使の微笑みなのだが、終末を思わせる光景を前にしては残虐な悪魔の嘲笑にしか見えない。
中将も大尉も同様に魔法盾を展開させている。
これが……こんな事が中央の軍人のやり方なのか?
こんな勝ち方でいったい誰に功を誇る気なのか?
腐っている……こいつらだけが腐っているのか、軍が腐っているのか、それとも帝国自体が腐っているのか……。
わからない。
わからないけど、少なくとも今やるべき事はわかる!
俺は刀を鞘に納めて、抜刀の構えをとる。
「さっきと同じ技か? だが、今度も上手くいくかな? この圧倒的な質量を前にな!」
大尉の言葉を気にも止めず、集中する。
炎の塊が迫り、皮膚が熱を感じ始めた時。
俺は刀を抜いた。
「裂剣《雲切》!」
神速の域に達する抜刀は、音を置き去りにした眼に映らぬ刃を放った。
そして、眼前に迫っていた炎の塊を細切れに千切って霧散させ、更に後方に控えていた少尉に襲いかかる。
目の前で自身の最大魔法を消された少尉は、何も理解できず、笑ったままの顔で固まったままだった。
迫りくる刃にも気づかず、魔法盾が刃と激突する。
しかし、その攻防は一瞬で過ぎ去り、魔法盾が砕けた後に少尉の身体は斬り裂かれた。
「ファンティーヌゥゥゥ!」
大尉が少尉の名前を叫ぶ。
しかし、俺には関係ない。
何故なら戦いに犠牲は付きものだから。
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