尋常ならざる勝負
中将の後ろから2人の女性が前に出てくる。
「帝国軍大尉、アリシア・フォン・ヴォルガング。帝国建国時より続く名家ヴォルガング子爵家が当主、ラングリッド・フォン・ヴォルガングの娘だ」
「帝国軍少尉っ! ファンティーヌ・フォン・リンテール! リンテール子爵家の末子だよ。よろしくね」
ヴォルガング大尉にリンテール少尉か。
参ったなぁ。
ジェニングス中将に勝るとも劣らない美女だ。
というより、好みの問題だろう。
大尉は長身スレンダーの体型に長髪ストレートの黒髪、切れ長目のキリッとした端麗な顔立ち。
冷たい雰囲気はするが、その鋭い美しさが更に見る者の心を魅了しそうだ。
少尉は一見して子供のように見える。
大きな瞳にあどけなさが残る顔、金髪のポニーテールが更に幼さを感じさせる。
しかし、背は中将より低いのに身体はその背の高さに似合わず、豊満と言えるほどに発育していた。
顔と身体のアンバランスさは否めないが、それが不思議な魅力を醸し出している。
「どうだ? リクト軍曹。この2人と立ち合って見せよ。安心しろ、ここにいるアンダーソン大佐は元衛生兵であり、回復魔法を嗜んでいる。死にはせん」
やれと言われればやるんだけど、一つ疑問が残る。
首を飛ばしても回復できるものなのか?
他にも胴の真っ二つとか、臓腑が飛び出るとか大丈夫なんだろうか。
「どうしたっ! 貴様も帝国軍人ならば、二の足なぞ踏むな!」
「そうだよぉ。よしっ! じゃあ、このファンティーヌ少尉様に勝ったら私もお願い聞いてあげちゃうよ! お嫁さんになってあげてもいいよぉ〜」
大尉も少尉もやる気満々だな。
嫁はまだ要らんけど、ここはやるしかないか。
「了解しました」
「それでいい。ならばダウスター卿、練兵場を借りるぞ。それと人払いを頼みたい」
「その前に一つ確認したい。ジェニングス卿、これはあくまで実力を測るための立ち合いだな?」
ダウスター男爵様が中将に詰め寄って低い声で問う。
ちょっと怒ってる感じはするけど、殺気は感じられない。
それにしても中将って爵位もあったんだ。
「当然だ。私も有能な者を失いたい訳ではない。有能な者ならな」
それって無能と判断したら殺すって意味かな?
中将は意外と性格は悪そうだ。
男爵様も苦虫を噛み潰したような顔をしているが、それからはなにも言わなかったなぁ。
「では、武器を持ってすぐに練兵場に来い。面倒だから防具は無しだ! 武器のみとする! 解散!」
中将の号令で俺は自分の宿舎に戻ってから、武器を手にすぐに練兵場に行く。
後はなるようにしかならないさ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「では、両者準備はいいな?」
練兵場に中将の声が響く。
いやいや、良くはないだろう!
何で2対1なんだよ?
勢いでそのまま始めそうなのが更に怖い。
「……不満か? リクト軍曹。だが、お前は了承しただろう? 私は言ったはずだ。この2人と立ち合えとな」
……言ってたな。確かに言ってたわ。
おかしいと思ったんだよ。
集まってすぐに大佐が男爵様に何か呟いて、男爵様が出て行ってしまったからな。
最初からこうする気だったんだろう。
……ちょっとイラつくな。
「では! 始め!」
俺の準備を待たずに開始を宣言する中将。
男爵様が戻ってくる前に始める気だ。
大尉も少尉も戦闘態勢で構えており、大尉はすでにこちらに向かってきている。
大尉の獲物は長剣だが、刀身に刻まれた魔法文字が、普通の長剣ではない事を物語っている。
更に後方に待機している少尉は魔法詠唱をしている。
つまり、魔法兵だ。
獲物は両手杖だが、これも魔法石が組み込まれており、詠唱短縮や魔力増幅ぐらいの効果はあるだろう。
「ごめんねぇ。中将閣下の命令なんだ! なるべく死なないようにね! 火炎短槍」
無数の炎の槍が前方を走る大尉を避け、放射線を描いて俺に襲いかかる。
謝りながら撃つにしては随分と容赦がない。
炎の槍は横からも放射状に迫ってくるので後ろに下がる。
すると、先程より速度を上げて大尉が剣を振りかぶって突進してくる。
「武器も抜けないとは情けない! だが、容赦はせん! 一刀の元に斬り捨てる!」
殺す気やん。
大尉にしても少尉にしても加減する気も毛頭ないし、中将も最初からそのつもりだった訳だ。
……これはイラッとするでは済まないな。
「はぁあああああああっ!」
大尉が気合と共に剣を振り下ろす。
少尉の放った炎の槍も大尉を避けて俺だけを狙って迫ってくる。
俺は鞘から刀を勢いよく抜き放つ。
抜き放たれた刀から突如として風が巻き起こり、荒ぶる風は全てをなぎ倒さんと暴れ狂う。
砂が巻き上がり、練兵場の木々が激しくしなっては、ミシミシと悲鳴を上げる。
大尉の身体を吹き飛ばし、少尉の炎の槍を消し去る。
そして何事もなかったように風は去っていった。
吹き飛ばされ、剣を支えに膝をついた大尉。
煽られ、仰向けに地面に転がされた少尉。
そして、突然の事に目を見開いたまま固まる中将。
仕切り直しと行こうか。
「暴剣《狂飆》。さぁ、ここからが本番であります」
俺は晴れやかな顔でそう宣言した。
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