新しい生活の始まり
初めて入った自分の屋敷は、俺の想像を遥かに超えるものだった。
天井から吊るされたシャンデリア。
顔が映りそうなほどに磨かれた大理石の床。
門扉のような大きな窓。
よくわからないが、高級そうな匂いまでする。
いわゆる、お金持ちの家の匂いがするんだ。
今日からここに住むのかぁ。
正直落ち着かない気がするなぁ。
「シュナイデン卿。こちらは元はとある伯爵家の帝都屋敷でしたが、ある理由で現在は空家となっておりました。家財などは既に運び出されて何もありませんでしたが、最低限の物はご用意させていただきました。後の調度品については卿の趣味に合わせてご用意させていただきます」
そう言いながら、テラーズさんは屋敷を案内してくれて、一通り見終わった後に応接室に案内してくれた。
ソファと机だけしかなく、他に調度品なんかは一つも置いてない。
とりあえずソファに身体を預ける。
やれやれ、やっと人心地つけた。
それにしても広い屋敷だ。
書斎、台所、風呂にトイレ、金庫室まであった。
庭には噴水があるし、裏庭には馬車馬のために厩舎まであるし、地下にはワインセラーもある。
それら全部がまた普通より大きいんだよなぁ。
まさか風呂まであんなにデカいとは思わなかった。
あれは一度に軽く10人は入れるぞ。
それにトイレも水洗なのは有り難いけど、無意味に広いのが落ち着かないんだよなぁ。
後で改修できないか確認しておこう。
「それでテラーズさん。この屋敷の執事ってどういう事ですか?」
俺は屋敷に入る前に聞いた衝撃の事実について問うた。
あの時は『庭で話すのもよろしくないので』とはぐらかされたけど、今度はそうはいかないぞ。
「言葉の通りです。まぁ、簡単に言うなら卿の屋敷の執事募集があったので、立候補したまでです」
テラーズさんはソファには座らず、立ったままそう答えた。
「ほ、本当に簡単に言いますね……しかし、陛下の執事はどうなさるのです? 両立は難しいのではないですか?」
「執事の仕事は両立出来るものではありません。ですので、陛下にはお暇をいただきました」
辞めたのっ?
そんな簡単に辞めていいの?
それに陛下も執事が急にいなくなると困るんじゃ……。
「後任がおりますので問題ございません」
心の中を読まれたっ!
当然の疑問だからそれに答えただけかもしれないけど、相変わらず鋭い。
「私は卿の執事となる権利を得ましたが、最終判断は卿自身がされればいいのです。能力に不満があったり、気に入らなければ断っていただいて結構です」
「いやいや、テラーズさん以上に有能な人は滅多にいないでしょう? さっきの冒険者組合でそれは証明されてます。俺が心配なのは給金ですよ。テラーズさんや他にも使用人の方はいるんでしょう? その全員に支払えるだけの金銭を俺が得られるとは思えないので」
俺の収入は軍人としての給金と貴族としての年金、それに冒険者としての収入だけど、それだけで全員支払えるかどうか俺にはわからないんだよなぁ。
働いてくれてる人達には誠意をもって応えたいけど、無いものは払えないし、どうすればいいんだろう。
「それは問題ございません。この屋敷には私以外に、メイド長とメイドが2人、従僕兼御者が1人、コックが1人、庭師が1人だけです。全員の給金を合わせても十分に賄えますよ。流通の利権をお忘れですか?」
「あっ!」
そうだった。
デッペルス子爵家の流通権の一部をもらったお陰で、定期収入があるんだった。
「貴族の年金と流通権の収入は財務局の口座に入るようにしておりますので、そこから私が給金を支払っておきます」
「それはいいんですけど、流通権の収入って、具体的には何なんですか?」
「要は物資にかかる税です。輸入輸出両方で品物にかかる税収から国に払う分を引いたものが卿の収入となります。あまり重い税をかけると物資の不足になり、安すぎると今度は物が溢れて、価格が下落して経済が立ち行かなくなります。その辺りを見極めて適正な税をかけるのが仕事です」
げっ、それってすごく面倒な仕事じゃないか。
正直やりたくないなぁ……。
「御安心ください。仕事自体は文官がしますので、卿の実務としては決裁書にサインするくらいです。最初は私もお手伝いいたしますので」
テラーズさん最高!
っていうか、言葉にしなくても俺の考えてる事がわかるのか?
「なんとなく表情から読み取ってるだけです」
いやいやいやいや!
今、完全に読んだよね? 俺の心を読んだよね?
恐ろしい人だけど、味方としてこれほど心強い人もいないだろう。
「これからは独立貴族としてやっていかないといけない。テラーズさん、よろしくお願いします」
「私の事は今後はテラーズとお呼び下さい。敬称は不要。というよりは言ってはなりません。あくまで主人と使用人の関係なのですから」
「わかった、テラーズ。じゃあ他の使用人達を集めてくれ。顔を覚えたい」
「かしこまりました。旦那様」
そう言ってニヤッと笑うと、テラーズさんは部屋を出て行った。
それにしても俺ってこれからどうなるんだろう。
大尉として軍人の仕事もある。
男爵として貴族の仕事もある。
Bランク冒険者としての仕事もある。
「俺の身体は持つんだろうか……不安ばかりだ。今から使用人達と挨拶して、屋敷の管理についても話し合いをして、ダウスター子爵様にも報告に行かないと行けないし、あぁ、古代魔導書もどうするか決めないと……前途多難とはこの事だな。はぁ……」
俺は1人になった部屋で愚痴ばかり溢していた。
いつも読んでいただきありがとうございます。
お金に関しての設定は難しいですね。
一応軍人の階級別の給金に関しては決めましたけど、貴族の収入とかなかなか難しいです。




