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屋敷と使用人

 聞かれもしない素材の値段を大声で言ってしまった若い職員は法務長にこっぴどく叱られている。

 確かに『この人はこれだけのお金持ってますよ』って周囲に言いふらしているのと変わらないからな。

 俺の場合は物が物だけにこっそりと言うわけにはいかないからかまわないけど、他の人だと窃盗や強盗にやられる可能性もあるからだろう。

 相変わらず世知辛い事だ。


「シュナイデン卿、申し訳ない。私からキツく叱っておいたので何卒、御容赦を」


「これで襲ってくる奴がいたら捕まえて犯罪奴隷として売るから高く買ってくれ。それで手を打つよ」


 さっきのテラーズさんを真似してみた。

 法務長もテラーズさんも苦笑いしている。

 どうやら、俺の真似はイマイチだったようだ。

 コホンと咳払いして話を戻す。


「では、シュナイデン卿。紋章旗と古代魔導書の金額を差し引いた報酬と買取の合計が3億とんで25万リン、帝国金貨で3万25枚だ。これに合意されたならこの書類にサインを。それと支払いはどうするのだ?」


 そうだった。

 冒険者組合の口座を作らないといけないんだ。


「端数の金貨25枚は今いただきますが、残りは組合に口座を作るので、そこに入れてください」


「それがよかろう。金額が金額だからな。では、口座開設費については先程の詫びとして無料にしておこう……テラーズ殿! 人をそんな目で見るものではない! わかった……一年間の管理費無料も付けよう」


 睨み一つで要求を通すテラーズさん。

 本当にすごい人だな。

 相手にとってはひどい人なんだろうけど。

 それから小一時間程して冒険者組合の口座ができ、割印を受け取る。

 ちゃんと帝国金貨3万枚の証明書付きだ。

 俺はそれを受け取ってから、ようやく冒険者組合を出て、馬車に乗り込み屋敷に向かう。

 ある意味ではベェルト要塞の時より激しい戦いだった。

 飛び交ったのは剣撃ではなく、金だったけどね。

 それにしても一つ問題が残ってしまった。


「シュナイデン卿、古代魔導書はどういたしましょう?」


「それなんですよ。俺もちょうど今考えてたとこなんです」


 唯一、買取拒否された古代魔導書。

 拒否されるのは仕方がないのだが、問題はこれの価値が帝国金貨5万枚って事だ。

 こんな高価な物を持ち歩くのは気が引ける。

 それに俺は魔法が使えないから置いといても仕方ない物だ。


「いっそ陛下に献上するとかはどうでしょう?」


「それはお辞めになった方がよろしいかと。先だって陛下に古代魔法王国の紋章旗を献上されたばかりです。陛下に取り入ろうとしている卑しき者と良からぬ噂を流されかねません。此度の武勲で男爵となられたシュナイデン卿を心よく思わない貴族は少なからずおりますれば、敵に付け入る隙は与えぬ方がいいでしょう」


 政権闘争ってやつだろうか?

 やれやれ、そんなものには巻き込まれたくないなぁ。

 ダウスター子爵の派閥とかないのだろうか?

 そこになら属してもいいんだけどな。

 それにしても古代魔導書(これ)はどうしよう……。


「シュナイデン卿、結論を急ぐことはありません。先ずは屋敷に入りましょう。もう間も無く到着致します」


 テラーズさんはそう言って窓の外に目をやる。

 あれ? おかしいな。

 俺の記憶ではこの通りのもっと先のはずなんだけど、ここだとダウスター子爵邸より帝城に近い。

 土地勘がないから勘違いかな?


「あの……テラーズさん、ここって……」


「さぁ! シュナイデン卿。着きました。この屋敷です」


 俺の問いかけに珍しく答えず、扉を開けて先に降りて行ってしまった。

 俺は違和感を覚えながらも、促されるままに馬車を降りる。

 すると、目の前には屋敷があった。

 これが俺の屋敷か。

 凄いなぁ、()()()()のお城のようで、ダウスター子爵邸より大きそうだなぁ。

 それにお庭も広そうで、通りと隔てている塀の先が見えないよ。

 一体どれくらい広い庭か想像もつかないや。

 いやぁ、なんと素晴らしい屋敷なんだろう……。


「って、なるかぁ! 明らかに前に聞いていた屋敷より大きいじゃないですかっ!」


「はい。以前言われておりました屋敷の約2倍の広さです。屋敷も土地も」


「に、に、2倍っ! な、なんで屋敷が変わったんですか?」


「それはシュナイデン卿が男爵だからです」


 テラーズさん曰く、准男爵は準貴族だが、男爵は貴族であり、その身分の差は俺が思うよりかなり大きいものらしい。

 そのため、以前に決めた屋敷はかなり小さいので、『男爵の屋敷には相応しくない』と陛下が男爵に叙した後に屋敷も変更する様に言われたそうだ。

 それで再度屋敷の検討を行い、決まったのがここという訳だ。


「以上です。納得していただけましたか?」


「はぁ……わかりました。どうせ、断っても無駄なんでしょうし、陛下の御心遣いに感謝致しますとお伝えください」


 2回目の屋敷を決める際には俺は呼ばれていない。

 絶対にわざとだな。

 陛下の茶目っ気にも困ったもんだよ。


「御礼はシュナイデン卿自身が言われた方がよろしいかと存じます。では、先ず屋敷を御案内致します。それから使用人の紹介と屋敷内の調度品についての検討を。その後は……」


「ちょ、ちょ、ちょっと待ってください! テラーズさん」


 先頭に立って歩いていくテラーズを呼び止めた。

 今日はずっと俺に付きっぱなしだし、そろそろまずいんじゃないか?

 使用人とかももう屋敷内にいるだろうし、あとはこっちでなんとかしよう。


「何かございましたか?」


「ご厚意は有り難いのですが、もう陽も暮れかけています。帝城での仕事とかもあるんでしょう? あとは陛下が手配してくださった執事の者に聞きますので……」


「ええ、ですから私が屋敷の御案内を」


 噛み合わないなぁ。

 だから何でそうなるんだ? 

 聡明なテラーズさんとも思えない。

 あとは屋敷の執事に聞くって言ってるのに、何でテラーズさんが……まさか……。


「テラーズさん。もしかして、この屋敷の執事の方って……」


「はい、この私です。老いぼれで執事として不調法者ですが、精一杯務めさせていただきますので、よろしくお願い申し上げます」


 そう言って、優雅に礼をするテラーズさん。

 もう何を聞いても驚かないよ……。


いつも読んでいただきありがとうございます。


評価が400、ブックマークが250人を超えました。

皆さま、ありがとうございます!


追伸

新しい小説始めました。

ほのぼの系ののんびりした物が書きたかったので、よろしければお目を通してくださいませ。


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