報酬と買取
区切りが出来ず、今回少し長めです。
突如として現れた《破滅巨大虎》で騒然となった訓練場。
これ以上の混乱はマズいと、法務長の指示ですぐに組合所有の魔法鞄に納められ、復活した副ギルドマスターの手で解体作業場へと持っていかれた。
そして、俺達は混乱で溢れ返る訓練場を跡にしてギルドマスターの部屋に戻った。
今部屋にいるのは俺とテラーズさん、法務長と急遽呼ばれた組合の買取責任者の4人だけだ。
「ふぅ、やれやれ。とんでもない物を出してくれたものだ。あれはしばらく混乱が続くぞ」
出せと言われて出しただけで俺は悪くないと思いたい。
それに昔からよく言うじゃないか。
『大は小を兼ねる』とね。
「さて、とりあえず君のダンジョンでの功績に対する報酬と買取だが、あの《破滅巨大虎》は現在、組合職人が総出で解体作業を行なっている。査定も同時進行で行なっているから、もうしばらく待ってくれ。その間に功績報酬とその他の買取についての交渉を行う」
「功績報酬? 交渉?」
「エンフィールド法務長殿。失礼ながら、シュナイデン卿はその辺りのことに疎いのです。少々お待ちいただけませんか? 僭越ながら私がご説明させていただきます」
テラーズさんが俺の呟きを聞いて、俺が理解していない事を察したのか、組合のお金に関する事を説明してくれた。
功績報酬とは冒険における功績に応じて本部から支払われる報奨金の事らしい。
新種の生物の捕獲や新事実の解明など新しい発見に対して支払われる物で、俺の場合は古代魔法帝国の存在の証明とフェンドラのダンジョンの踏破の2点だそうだ。
そして交渉とはその報酬や買取金額に納得できない場合の価格交渉の事。
買取は基本的に支部の予算から支払われる。
組合としては当然、買取金額などの経費は安く抑えたいので、かなり低く見積もる傾向にある。
一方、冒険者も命を賭けており、また生活がかかっているから必死で、価格が低いのには納得できない。
そのせいで組合と冒険者が対立した事まであるらしい。
その時に対立した冒険者達は盗賊となり、民衆に被害が出て、各国から苦情が出て組合の責任問題にまで発展したそうだ。
そこで価格については交渉の機会を設け、双方の合意で決定する事となったんだとさ。
お金は大事だからねぇ。
「身内の恥もあったが、説明は概ね間違っていない。シュナイデン卿は値段を交渉する権利がある。ここでの査定が気に入らなければ、王都本部まで来るといい。そこなら多少の値上げもできよう」
「本部と支部では査定が違うんですか?」
「需要と供給の差、それに予算の差もある。例えば帝都支部とフェンドラ支部でも査定には差が出るだろう。特殊な品を除けば、帝国内では帝都支部が一番高い査定が出るからな」
予算の差か。
つまり、なるべく大きい支部の方が査定は期待できるわけだ。
小支部より大支部、大支部より本部って感じかな。
「では先ずは功績報酬からだが、古代魔法王国の存在証明に1000万リン、フェンドラのダンジョン踏破で1000万リンの合計2000万リンと考えている。帝国金貨でちょうど2000枚だな」
2000枚っ! 凄い大金じゃないか!
これなら文句なんて……。
「お待ちください」
俺が値段に頷こうとした時に、テラーズさんが口を挟む。
「2000万リンですか? これは随分とケチられたものですな。冒険者に対する配慮が欠けているのではありませんか?」
「むっ、フリード殿。これは聞き捨てなりませんな。我々組合としては冒険者のやる気を削ぐような事は一切しておりませんよ」
「そうでしょうな。やる気を削いで冒険者達が小銭稼ぎばかりしていては冒険者自体の存在意義を疑われかねません。そうなって困るのは組冒険者合でしょう。それにしては目の前にぶら下げる餌が小さいのでは?」
「ぬぅぅぅ……暫し、待たれよ」
テラーズさんかっこいい!
やっぱり頼りになるね。
「そこまで言うなら、覚悟を決めよう。合わせて……3000、いや、倍の4000万だそう!」
「キリが悪いです。覚悟を決めたなら多少の傷は目を瞑りなさい。5000万で手を打ちましょう」
「ぐっ! ……や、やむを得ん。やれやれ、《達観》のテラーズが相手とは。勝てる気がせん」
「シュナイデン卿。5000万リン、帝国金貨5000枚でよろしいでしょうか?」
「えっ? あ、いや……は、はい! もちろんです」
な、何で金貨2000枚が5000枚になってんの?
どうしてこうなった?
嬉しいけど、怖いんですけど……。
金貨5000枚って、ダウスターなら一生働かずに生活できる金額だぞ?
「それでは次は買取の査定だ。責任者ではテラーズ殿に太刀打ち出来んので、私が代わって伝えよう」
「あまり下手な金額を出されると別の場所で売ります。今回の品は商人達も欲しがっておりますからな」
「わかっている。そんなに牽制せんでも買取は高額にしておく。他で売られては組合の儲けがなくなるからな」
組合の儲け? ああ、そうか。
冒険者から買い取った素材やら品物を、組合が商人に売るわけだ。
その差額を組合の儲けにしているわけだ。
その辺は普通の店と変わらないわけね。
「綿毛兎は14羽で42000、四角野牛は6頭で12万、天突猪は8匹で88000だ。合わせて25万、帝国金貨で25枚だな」
これは現実的な値段だ。
テラーズさんも特に何も言わないので、妥当な価格なんだろう。
「それから魔導核だが、これはかなり大型用の物で使用用途が限られる。しかし、希少な物に違いはない。そこで1個3000万、5個で1億5000万とした」
1億5000万っ! 億って聞いたこともない単位だけど、高いのには違いないだろう。
凄い金額だ!
「それと残念ながら古代魔導書については買取出来ない。というより、正確にはしたくても出来ないのだ。価値が高すぎる」
そう言って古代魔導書を渋々と手渡してきた。
高すぎるってどれくらいだろう?
「どれくらいの価値か聞いてもいいですか?」
「はっきり言って5億リンは下らないだろう。ちなみにあの古代魔法王国の紋章旗は10億リンと見ている」
また億だよっ!
だから億って金貨何枚なんだよ!
それとリンって何っ?
「シュナイデン卿。リンとは王国の通貨でございます。帝国金貨1枚が1万リンとなります」
「えっ? じゃあ、億ってのは……」
「億は万の上の単位です。端的に申しますと、古代魔導書は帝国金貨5万枚、紋章旗は以前申し上げた通りの10万枚となります」
な、な、な、な、な、なぁにいいいいいいい!
ご、ご、5万と……10万枚……。
「つ、つまり……全部で15万枚?」
「いえ、今までの合わせると帝国金貨にして17万飛んで25枚となります。これはかなりの金額ですな。おめでとうございます」
サラッと答えるテラーズさんを他所に、俺はあまりの金額にボーッとしてしまった。
そんな大金どうしろっていうんだよ。
正直、怖いよ。
そんな事を考えていると、部屋の外から走って近づいてくる足音が聞こえてきた。
そしてノックしてから若い職員が入ってくる。
「失礼します! 《破滅巨大虎》の査定が完了しました。総ての素材を合わせて帝国金貨1万枚とさせていただきました!」
若い職員は興奮しているのか顔を上気させ、聞かれてもないのに値段を口にした。
また1万枚か……もう、わけわかんねぇよ……。
いつも読んでいただきありがとうございます。
大金を得たら喜ぶに決まってる!
と思った方にご注進。
……本当にビビるんですよ。
あの手の震えは未だに覚えています。




