ギルドマスターの末路
室内の空気は一変していた。
さっきまで威勢が良かったギルドマスターも今では顔色が悪い。
周囲にいる金縛り中の冒険者達も、どうしたらいいか戸惑っているようで目が泳いでいる。
「冒険者組合帝国支部ギルドマスター、モーリス・バイエンス。君には失望したよ」
白髪混じりの細身の中年男性は鋭い目つきでギルドマスターを睨みながらそう言った。
歳は50歳くらいかな?
でも身体は鍛えているようで、細くてもガッチリしている。
「エンフィールド法務長! こ、これは……罠です! このガキと爺い、それに副ギルドマスターのヨハンが画策した罠なんです!」
ギルドマスターは旅芸人の舞台に出れそうなほど大袈裟な身振り手振りで、エンフィールドという鋭い目つきの法務長とやらに説明していた。
見苦しいなぁ。
今更そんな事言っても信じるわけないだろ。
「そうか。では双方の主張を聞くためにバイエンスギルドマスターとそこの若い冒険者以外は外に出てもらおう。副ギルドマスター、ヨハン・チェスター。君は組合の仕事をしておくように」
その言葉の後に全身灰色の服を着た集団が室内に入ってくる。
全員が頭巾と覆面を付けており、肌の見えているのところがないのが特徴的だ。
「組合の法務部直轄部隊です。裏方の仕事に精通しておりますればご注意を」
テラーズさんが彼らの正体をコソッと教えてくれる。
相変わらずの有能ぶりだ。
そのテラーズさんもヨハンさんと一緒に灰色集団に促されて外に出て行った。
金縛り中の冒険者達は担がれて外へと運ばれて行く。
室内に残ったのは俺とギルドマスター、法務長とかいうおじさんだけだ。
「さて、此度の事の顛末を聞こう。咎あるべき者にはそれ相応の報いがある。偽証したくばするがいい。だが、嘘が露見した時にはそれが大きな枷となるだろう」
そう言うと、俺達に座るように促す。
全員が座った後、最初に口火をきったのはギルドマスターだ。
「法務長! このリクトとか言う貴族のガキは権力を使って成果を偽造し、不当に冒険者ランクを得ようとしました! そして、それがバレようとした時に先程の老人が私に暴行を働いたのです! これは立派な規律違反です! 即刻彼らを捕らえ牢に入れなければなりません!」
相変わらずのオーバーリアクションでギルドマスターは演説するかのように言葉を並べた。
正直ウザくて堪らない。
「では、君の主張を聞こう。リクト・フォン・シュナイデン卿」
「えっ……シュ、シュナイデン卿?」
法務長の言葉にギルドマスターは目を丸くしている。
どうやら俺を貴族の子弟だと思っていたようだ。
まぁ、こんな若い当主って珍しいのかもしれないね。
「俺はここに成果の確認のために来た。すると、ギルドマスターが証拠も無しに俺が不貞を働いたと言うので反論した。更に無実の罪を着せようとし、襲いかかってきた。一緒にいた者が暴行を働いたのは事実だが、彼は俺のために手を出したのだ。責任は俺にあって彼に咎はない。以上です」
俺のために怒り、殴ってくれたテラーズさん。
それを止めれなかった責任は俺にある。
だから罰を受けるのは俺でいい。
責任転嫁など軍人のやる事ではない。
さて、どんな判断が出るかな。
「ふむ、双方の主張はわかった。シュナイデン卿、君は襲われたからと言ったが、私もその場にいたからわかるが全員が金縛りにあっていたのだ。ギルドマスターへの暴行は些か度が過ぎていたと考えるが?」
「それは……確かにその通りです」
言われてみればそうだ。
殴ったのは腹が立ったからだろうし、やり過ぎと言われればそうかもしれない。
ギルドマスターが再び下卑た笑いを浮かべている。
「よって君には暴行に対しての罰金を命じる。後で組合に帝国金貨10枚を支払うように」
あれ? それだけ?
軽めの罰に驚いたが、俺より驚いていたのがギルドマスターだ。
「お、お待ち下さい! いくら何でも金貨10枚の罰金刑とは軽過ぎませんか!」
「これぐらいが妥当であろう。君の怪我は重たくないようだし、本人も反省している。更に言うなら実際に暴行を働いたのは彼の従者だ。しかし、主人を愚弄されたのだから彼の心情はある程度理解できる。情状酌量の余地は十分にあるだろう。主人が責を負い、従者には主人より罰を与えさせる。それが妥当ではないか?」
一部の隙もない理論だ、ぐうの音も出ない。
論破とはこういうのを言うんだろうなぁ。
「し、しかし! この者の罪はそれだけではありません! 成果の偽造が……」
「それなんだが、それはどうやって偽造したのだ?」
ギルドマスターの顔が曇る。
俺が組合へ提出した物は古代魔導書、魔導核五つ、それに宝箱その物だ。
紋章旗は皇帝への献上品なので、物自体は渡していない。
確かに偽造と言ってもどうやって偽造するというのだろうか?
「先程見てきたが、あれは偽造出来るような代物ではないぞ」
「こ、この者が他の熟練冒険者の成果を奪ったのだと思われます! 駆け出しのGランク、しかも貴族の子どもが1人で得られる成果ではありません!」
「その熟練冒険者とは誰だ? 私は彼がダンジョンに入った日から3ヶ月の期間を遡って組合の記録を調べたが、行方不明になった熟練冒険者は誰一人としていない。また他の地域から熟練冒険者がやって来たという記録もない。その他にも死亡が確認された者はいたが、それは魔物や罠での死亡とちゃんと記録が残っている。君のいう熟練冒険者とは誰なんだね?」
「ぐっ、そ、それは……」
「更にだ。それだけの熟練冒険者、しかもパーティーを組んでいたと思われる者達を彼が1人で倒したというのもかなり無理がないかね?」
「そ、それは……きっと油断を誘って……」
「それはない。君は冒険者出身ではないから疎いのかもしれないが、冒険者たる者いついかなる時もダンジョン内で油断などせん。ましてや熟練になればなる程、警戒心も強かなるというものだ」
正論で徐々にギルドマスターを追い込んでいく法務長。
段々と言葉に自信を無くしていくギルドマスターには焦りの色が見え始めた。
「それに君には聞きたいことがあるんだよ? さっき確認した品物だが、なぜ発見者が彼ではなく、君になっているんだ?」
えっ! マジかよ! こいつ最悪だな。
人の手柄を横取りするために冤罪を擦りつけようとしたのか!
「それと君の組合口座に身元不明の振込が多数あるのは何かな? 特定の商会から毎月一定額が振込まれている。その日付は各組合支部への物資支給日と全て重なっている。更に振込が開始されたのは君がここのギルドマスターになった翌月からだ。その総額は帝国金貨にして2000枚にもなる」
ギルドマスターの顔は蒼色を通り越して白くなっている。
こいつ横領までしてたのか?
救いようがないな。
「さて、バイエンス。何か言いたい事はあるか? 随分と冒険者組合の看板に泥を塗ってくれたものだ。本部ギルドマスターも大変なお怒りだよ。覚悟しておく事だな」
ギルドマスターは項垂れていたが、隙を見て逃げ出そうと部屋を飛び出した。
だが、外にいた灰色集団に取り押さえられ、ついでに殴られて失神した。
なんとも情けない姿だ。
人間はああはなりたくないものだね。
いつも読んでいただきありがとうございます。
リクトが全然屋敷に帰れない。
ちょっとした理由があるのです。
展開が安易で先を想像できる方もいらっしゃるかと思いますが、その辺りは深く考えずに楽しんで下さいますよう、お願いします。




