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冤罪者

 扉を開けて入ってきたのは武装した冒険者風の男達16人で全員が武器を抜いている。

 どう見ても友好的には見えないな。


「ギルドマスター! これはどういう事ですかっ! 私が聞いていた話とは違う!」


「黙れ、ヨハン。我々冒険者組合(ギルド)は如何なる権力にも屈しない誇り高き組織だ。それを皇帝を前にして権力に屈しおって! 貴様も同罪だ!」


 そう言って俺とテラーズさん、副ギルドマスターのヨハンさんの周りを男達が囲む。

 今の会話が本当なら副ギルドマスターは今回の事には関与していないようだな。


「さて、君の逮捕は冒険者組合(ギルド)の独自の方法でさせてもらうよ。なんせ君は帝国貴族様だ。帝都の衛兵達では権力で無罪放免にされてしまうだろうからね」


 これっていわゆる私刑(リンチ)ってやつか?

 根拠があるなら従おうかと思ったけど、これは従う理由がないな。

 でも、一応話だけは聞いておくか。


「抵抗はやめたまえ。周りにいる冒険者達はCランク、Dランクの精鋭だよ。君のようなコソ泥程度がどうこうできる相手じゃない」


「罪状を聞いても?」


 俺は普通に聞き返した。

 目の前に剣を突きつけられても俺には関係ない。

 はっきり言って周りの男達に負ける気がしないからだ。

 だいたい、剣を突き出していたら刺すのに一回引かないと駄目じゃないか。

 その間に避けるのは簡単だ。


「随分と余裕だね。まぁ、いいさ。盗人は猛々しいものだからね。君の罪状は《略奪》《偽証》《殺人暴行》容疑だ」


 これで冤罪が確定したな。

 俺は人から物を奪った事はないし、嘘をついた覚えもない。

 更に戦場以外で殺人だの暴行だのと言われる事をした事もない。


「何の証拠があるんですか?」


「君の事は調べさせてもらった。冒険者登録をしてからすぐにダンジョンに入っているね。その前に各商店で色々購入したのもわかっている。食料にして2週間分だ。間違いないね?」


「ええ。合ってます」


「しかし、君がダンジョンから帰還したのは1ヶ月も先だ。おかしいね、どうやって食料を工面したんだい? 他の誰かから奪ったんだろ?」


 なるほど、そういう理屈も成り立つわけか。

 知らなければそうなるのも無理ない……のか?


「譲り受けたとか購入したとかの可能性は?」


「それは誰からだい? 答えられないだろ?」


 ニヤッと下卑た笑い顔になるギルドマスター。

 しかし、ブーメランとは返ってくるものなんだよ?


「では、誰から奪ったんですか? 被害者は?」


「むっ! それは……すでに殺したからいるわけがないだろう」


「では、殺した証拠は? 誰か目撃者でも?」


 今度は一気に睨みつけるような顔になる。

 やれやれ、この人の顔芸でも見せられてる気分だ。


「なるほど……では、次だ。この宝物はダンジョンの物であることは間違いない。しかし、これは下層の物なんだよ。上層、中層、下層によって宝物の形状は違うんだ。だが、下層へは熟練冒険者でも降りるのに1ヶ月、戻るのは更に月日がかかり、犠牲者も出る。君は単独だ。時間的に不可能だよ。これはどう説明する?」


 ギルドマスターは宝物を出しながら色々話してくれたけど、この人達ってダンジョンの事を何にも知らないんだろうか?


「情けない話ですが、俺は落とし穴で下層まで一気に落ちたんですよ。帰りは転移魔法陣で帰りました」


 目を見開いた後に肩を竦めたギルドマスターは溜息をついた。


「そんな嘘が通用するとでも思っているのか? いくら子どもでももう少しマシな嘘はないのかな?」


「嘘は言ってませんよ。それにしても嘘だと証明する事もできず、理屈だけでペラペラ喋るのがギルドマスターの仕事とは思いませんでした」


 笑いかけていたギルドマスターは俺の言葉で顔を真っ赤にして立ち上がった。


「いい加減にしろ! クソ貴族のガキめ! こうなれば後ろの爺い諸共捕らえて問いただしてやる! お前達! このガキと爺い、それとヨハンも牢にぶち込んでおけ!」


 ギルドマスターの命令で男達が武器を構える。

 これは仕方ないな。

 全員叩き伏せ……あれ? 襲ってこない?

 男達は全員が金縛りにあったかのようにその場に立ち尽くしていた。


「お、お前達! 何をしている! さっさとこのガキと爺いを……」


「愚物の言葉は耳に入りませんよ」


 そう言って前に出てきたのはテラーズさんだった。

 あっ、ちょっと怖い顔になってる。


「冒険者組合ギルドマスター、モーリス・バイエンスに不穏な影あり。そう報告が入っておりましてな。内定調査を進めていたのですが、よりによってシュナイデン卿を標的にするとは……まさに愚物と言えます」


「な、なんだとっ! この爺い! い、言っておくが、冒険者組合のギルドマスターに手を出してみろ! 帝国は冒険者全員を敵に回すことになるんだぞ! それでもいいのか!」


 ギルドマスターが威勢よく吠える。

 しかし、テラーズさんはその声には耳を傾けず前に出る。


「安心しなさい。手を出すのにも色々ありましてな。暴行や殺人なら問題ですが、失踪ならいかがですか?」


 無表情でそう詰め寄るテラーズさんに、ギルドマスターは一気に顔面蒼白になる。

 証拠がなければ裁きようもないというわけか。

 さすが元帝国諜報部長官、やる事がえげつないなぁ。


「ま、待て! こ、こ、この場にいる全員が姿を消せば、怪しまれて当然だぞ! わかっているのか!」


「消えるのは貴方だけです。他の者は消えたくなければ黙っていればいいのですから。私の眼はいつでも貴方達を見ていますよ」


 金縛りにあったままの男達は恐怖に脅えている。

 全身から汗が吹き出し、中には股間を湿らせる者達までいた。


「ま、ま、ま、待て! 待て待て! わ、わかった! そのガキの罪状は帳消しにしてやる! ランクも一気に上げてやる! それでいいだろ!」


 ギルドマスターはそう言ったが、テラーズさんの表情は明らかに険しさを増していっていた。


「愚か者め、罪状など元より存在しない。ましてや、帝都の冒険者組合の長ともあろう者が、保身のために規律を乱すなど言語道断! 十分でしょう。もう出てこられてもよろしいのではありませんか?」


 テラーズさんがそう言うと、金縛りにあっていた筈のフードを目深に被った冒険者の1人がスッと前に出てきた。

 そして、ギルドマスターの前まで歩み寄るといきなり顔面を殴り飛ばした。


「ぷぎゃあ! き、貴様! 手を出したな! この裏切り者め! 貴様にも罪を被せて、地獄を見せて……」


 そこまで言ってからギルドマスターの顔がハッとなる。

 さっきの発言からして、こいつは気に入らない冒険者には冤罪をなすりつけていたようだ。

 とんでもないクズだな。

 殺しておこう。


「リクトくん。気持ちはわかるが待ってくれ。この男にはまだまだ聞きたい事があるからね。どうか、収めてくれないか」


 殴り飛ばし男はフードを脱ぎながらそう言った。

 誰だ?

 ギルドマスターは知っているようで、驚愕の表情になっている。


「な、何故、貴方がこんな所に……冒険者組合王国本部……法務長……バリー・エンフィールド様……」


 冒険者組合王国本部?

 法務長?

 なんか、またややこしい人が出てきたなぁ。

 それにしても俺はいつになったら屋敷に帰れるんだろう。


いつも読んでいただきありがとうございます。


梅雨が明けてカラッと晴れる日が増えるのは嬉しいんですけど、暑い……

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