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風聞被害

投稿が遅れて申し訳ありません。

「陛下! 此度の処分には納得がいきません! 何卒ご再考を!」


「控えよ、ヴォルドン! 陛下の御前であるぞ!」


 謁見の間から外に聞こえるほどの大声に全員の表情が曇った。

 さっきまで緊張していたはずのオルレアン少尉も緊張を忘れ、表情が強張る。


「はぁ、何やら揉めているようだな」


「『ヴォルドン』と聞こえました……はぁ、どうやら長官は退任の挨拶に来られたわけではなさそうですね」


 タウゼン隊長とリンプトン中佐は溜息をついた。

 中で行われている論争の内容が、容易に想像出来たからだろう。

 論争は更に過熱さを増していく。


「此度のベェルト要塞攻略は司令部直轄の作戦であり、その功績は当然の事ながら司令部にあるものと考えてます!」


「ベェルト要塞を占拠したのは司令部の軍でもなければ、其方の元帥府の軍でもない。そして、指揮権を奪った北方方面軍でもない! 占拠を成し遂げたのはウォーレイク元帥の直属部隊である! 従って、其方が口を挟む余地はない!」


「これは異な事を! 直属であったのは隊長のアラン・タウゼンなる者だけ、他の者は別部隊からの出向ではありませんかっ! これは直属部隊とは申せません!」


「では、其方は他の5人と何の関係があると言うのだっ!」


 話は平行線の一途を辿っている。

 というより、最初から交わる事はない議論だ。

 時間の無駄というところだな。


「それにしても、フリード宰相殿も気の長い事だな。ヴォルドンなんぞさっさと衛兵に摘み出して貰えばいいんだよ!」


「そういう訳にもいかないだろ。仮にも帝国元帥閣下だ。彼の軍派閥もあるし、それにヴォルドン伯爵家当主の弟でもあるんだ。この話が下手に拗れると奴の軍派閥とヴォルドン伯爵家から反感を買うことになる」


「ったく! これだから権力だけの成り上がり野郎は嫌なんだよ!」


 両大尉もオルレアン少尉もかなり不満があるようだ。

 俺としても何にもしてない奴に自分の功績を掠め取られるのは業腹だ。

 そんな事を思っている間にも謁見の間ではどんどん議論がヒートアップしていき、長官のターゲットが変わった。


「ウォーレイク! だいたい貴様が余計な事をするからこのような面倒な事になったのだぞ! その上、貴様が軍隊司令長官だと? こんな姑息な手で帝国の栄えある三長官の一角に成り上がろうとは、恥を知れ!」


「ヴォルドン元帥。貴方の申し出は帝国軍人全ての功績が自分のお陰であると言っているようなものですよ。それは度が過ぎているとは思いませんか?」


「黙れっ! たかが平民の分際で、この私に口答えするつもりかっ!」


「ヴォルドン元帥! 口を慎めっ! 軍で上に立つべき者がそのような階位差別をするなど言語道断である! それだけでも此度の処分に値するわ!」


「何を仰られるか!私は帝国の秩序を……」


「……やめよ」


 尚も白熱した論争が続くと思っていたが、それを止めたのは小さな声だった。

 こんな上流階級の大物達を黙らせる事ができる人物は1人しかいない。


「陛下っ! 私は帝国軍の最高司令官として……」


「誇りはあるか?」


「へ、陛下? な、何を仰って……」


「貴様に誇りはあるのかと聞いているっ?」


 部屋の外まで伝わる陛下の裂帛の気合いの如き声は、今の陛下の心情を表すかのようだった。

 誰一人として言葉を発する者はいなかった。

 喋れば殺される、そんな気がする程の気迫だった。


「ヴォルドン、貴様は自分が他者にどう映っているか見えていないようだな。思えば、バンクスがこういった所を補っていたのだろう」


「陛下も私がバンクスのお陰で出世したと言われるかっ!」


「たわけ。ならば、バンクスだけを出世させればよかろう。貴様自身にも功績はあったのは間違いない」


「ならばっ!」


「だが、今の貴様はどうだ? 私には世間の風聞に踊らされ、存在せぬバンクスの影を振り払おうと功を焦っているようにしか見えぬぞ?」


「うっ……わ、私はただ、軍隊司令長官の責務を全うしようと……」


「お前はレッドウッド辺境伯の北方方面軍の指揮権を強引に奪った。それにより軍の士気を著しく低下させた上に功を焦って直進し、将兵に入らぬ損害を出した。剰え、他者の功績を自身のものにすべく、皇帝である私に異議を唱えた。これがお前の言う軍隊司令長官の責務か?」


「そ、それは……」


 ヴォルドン長官の声が小さくなり、部屋の外にはほとんど聞こえなくなっていた。

 響くのは陛下の御心だけだった。


「ヴォルドン。もう休むがよい。これ以上、忠臣たるバンクスを亡霊にする事は、私が許さぬ」


「私がバンクスを亡霊に……」


 膝をつく音が聴こえる。

 そして小さくすすり泣く声も。


「ヤーコプ・フォン・ヴォルドン。帝国軍軍隊司令長官の職を解任する。暫しの休養を命じる故に、その後は自身の意思を持って軍務に復帰するがよい」


「御意……」


 その後、謁見の間より出てきた長官は酷く窶れていた。

 歳は50代半ばと聞いていたが、その風貌は80を超える老人のようだった。

 彼自身も苦しんでいたのだろう。

 自分が他人のお陰で出世したと言われるのは、プライドの高い彼には我慢できなかった。

 だから功を焦った。

 それが、更に周りの風聞を助長させ彼を追い込んだ。

 その追い込みが周りにも被害を与えるようになり、更なる悪評となる。

 自身にとっても周りにとっても不幸なことになるだけでしかない。

 そんな事を思いながら、俺は遠ざかる長官の小さな背中を見送った。


いつも読んでいただきありがとうございます。


実は先日、9件にも及ぶ誤字報告を頂きました。

自分でも全く気づいていなかった程の細かいご指摘をいただきまして、感謝の念に堪えません。

本当にありがとうございます。

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