6人の凱旋
帝都ヴァランタインは歓喜のムードに包まれていた。
難攻不落のベェルト要塞占拠の報は貴族、平民を問わず、帝都の全人口を色めき立たせるに十分であった。
功労者である6人が乗った馬車は、祝賀パレードと言わんばかりに無数の花吹雪と帝都を揺るがすような歓声の中を進んでいた。
6人はそれに応える間もなく軍令部への出頭を命ぜられたが、それを覆したのは皇帝の一言であった。
「帝国皇帝としても此度の偉業に対して報いたい。よって、我が前で論功行賞を行う事を許す」
これには皇帝の粋な計らいだと称賛される一方で、実は別の目的が存在した。
ヴォルドン軍隊司令長官の北方方面軍への強引な介入と稚拙な作戦による要塞攻略失敗は彼の司令長官としての資質を疑うに十分であった。
だが、此度の偉業に対してヴォルドンが自身の功績を主張しないとも限らない。
それを防ぐための御前での論功行賞であった。
「皇帝陛下の慧眼は素晴らしいな。これで我々の功績を奪われなくて済むというものだ」
馬車の中でタウゼンは皇帝の采配に感心していた。
しかし、その前では憮然とした面持ちで座る3人の姿があった。
「功績ねぇ……正直、俺は納得してないぜ。作戦の成功にじゃない。俺自身の功績にさ」
「それについては同感だな。はっきり言って、私とロイスは何もしていないに等しい」
「それを言うなら私もよ。はぁ、魔法兵団のみんなになんて言えばいいのよ……」
ロイス大尉、ファーレンハイト大尉、リンプトン中佐は帰路についてからずっと同じ事を呟いていた。
「3人ともそう言うな。俺だって似たようなものだ。
それにリンプトン中佐は魔法兵達から要塞中枢の情報を入手していたではないか。ロイス、ファーレンハイトの両名も敵の撤退を円滑にする様に動いていたし、オルレアン少尉も外壁で倒れていた兵達の治療にあたっていた。皆、それぞれの役割を果たしていると俺は思う。ただ1名の功績が馬鹿げているだけだ。気にするな」
随分な言われようだが、これは仕方ないと諦めよう。
俺の功績は要塞守備隊20隊の内11隊、2768名を倒し、共和国で英雄視されている共和国百勇士の1人を討ち取り、敵兵に降伏を追い込んだというものだ。
これはかなりの功績のようで、報告を聞いたレッドウッド辺境伯は俺を直属の部下にと、かなり執拗に迫ってきた。
「部下になるのが嫌ならウチの娘を嫁に貰え!」
と言う始末だ。
さすがにそれは早計だと周りが止めてくれたおかげで事なきを得たけど、本当にしつこかった。
しばらくは北方方面軍には近づかないでおこう……。
「帝城に着いたようですよ」
その一言で我に帰る。
ここに来るのも久しぶり……でもないか。
2週間ほど前に来たばかりだった。
帝城では警備の兵士達だけでなく、騎士団までが列を成しており、軍楽隊の派手な音楽を奏でていた。
「げっ! あいつがいるぞ……相変わらず不景気な面してやがる」
「ロイス! 口を慎め!」
ロイス、ファーレンハイト両大尉の視線の先には見知った人物が立っていた。
相変わらずの直立不動の強面、テラーズさんだ。
「陛下の執事の方にお出迎えいただけるとは感激の至りです」
「此度の戦果に陛下は大変満足しておられます。その功労者たる皆様の案内役を務めるのがこのような老人で申し訳ありません」
そう言いながら礼をする。
だが、その視線はロイス大尉を捕らえて離さなかった。
多分、聞こえてたな。
テラーズさんって耳がいいんだよなぁ。
ロイス大尉が苦笑いで謝罪した後、先頭に立ってテラーズさんは歩き出した。
俺達はそれに続いて帝城内に入っていった。
「此度も素晴らしい活躍をされたようですね、シュナイデン少尉」
「ありがとうございます。テラーズさんに褒めてもらえて光栄ですよ」
「はははっ、この老いぼれの言葉などより陛下のお言葉の方が良いでしょう。しかし、そうですな。ならば、此度の武勲で多少は休暇をいただけると思いますので、その間にお暇があれば我が家にお越し下さい。兄と共にお祝いさせていただきましょう」
「えっ! いいんですか? ありがとうございます。ご厚意に甘え、お伺いさせていただきますね」
テラーズさんと個人的に話をしていると、他の面子が驚いていた。
後で聞いた話では、《恐執事》が親しげに話す姿が珍しかったそうだ。
いつもあんな感じだけどなぁ。
帝城を案内され、待合室で待つ事30分。
謁見の準備が整ったと連絡があり、全員が緊張した面持ちになる。
「陛下にお会いするのは昨年の祝賀会以来か」
「隊長はいいですね……私は魔法兵団第三席次就任以来、3年はお会いしてません」
「会ったことがあるだけいいでしょ」
「同感です。我々のような一介の軍人には陛下にお会いする事などありませんからね」
「き、緊張してきた……大丈夫かよ? この格好なら失礼じゃないよな?」
オルレアン少尉は特に緊張しているようで、普段の開放的な衣服ではなく、今日は軍服を着ている。
何度も身嗜みを気にするあたり、礼儀は弁えているようで良かった。
さて、俺も準備しないとな。
俺は軍服の胸元に《帝国緑風勲章》を付け、下賜された刀を腰に差しておく。
「刀を差したままかよ。《佩刀御免》とは便利なもんだな」
「あれが《帝国緑風勲章》……見事なものだ」
2人の大尉にマジマジと見られて少々むず痒い。
「お前達、さっさと行くぞ。お待たせしてそれこそ不敬罪にでもなったら洒落にならんからな」
隊長に促されて、俺達6人は待合室を出て、謁見の間に向かった。
そこには以前の厳かな雰囲気はなく、外にいてもわかるほどに騒然としていた。
いつも読んでいただきありがとうございます。
たまにはのんびりしたい。
せめて、お話の中のリクト達だけでも……。
しばらくまったり回が続きます。




