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ベェルト要塞陥落

「シュナイデン少尉っ! 無事で何よりだ! どこか怪我はないか? 痛いところがないかお姉さんに言ってみろ!」


 オルレアン少尉がすごい剣幕で駆け寄って来て、俺の身体をペタペタと触りまくる。

 心配してくれてるみたいだし別にいいんだけど、何かむず痒いな。

 っていうか、誰がお姉さんなんだ?

 俺の姉はそんな破廉恥な格好はしていない。


「少尉。無事で何よりだ」


 タウゼン隊長が少し離れた所から声をかけてくる。

 表情からして再会を喜んでくれているのは間違いないんだが、何か腑に落ちていないようだ。

 その証拠に少尉と違って近づいて来ようとしない。

 まぁ、外壁の要塞守備隊と対峙しているはずの俺が司令部に来れば訝しむのも無理はないか。


「シュナイデン少尉。貴官は第十三守備隊を壊滅させたと聞いた。よくそれだけの人数を相手に戦えたものだ。おかげでこちらは……」


「……違う」


 タウゼンは自身の言葉を遮る小さな声を聞き流さなかった。

 それはシュナイデン少尉と一緒にいた共和国兵士の俯きながらの呟きだった。


「そこの者、今違うと言ったか? 一体、何が違うのだ? 彼が守備隊を壊滅させていないと言うのか?」


 タウゼンは兵士に問いかける。

 ゆっくり上げた兵士の顔は落ち着いていた。

 まるで、何かを悟ったかのように穏やかな顔。

 そして、静かに言葉を発した。


「この方が守備隊を、壊滅させたのは間違いない」


「では、何が違うと言うのだ?」


「この方が……この方が壊滅させたのは第1、第2、第3、第5、第6、第7、第9、第13、第15、第16、第18守備隊! ベェルト要塞守備隊全20隊の内の11隊、総数2768名だっ!」


「な、なんだとっ!」


「に、2768名っ!」


 俺とオルレアン少尉は開いた口が塞がらなかった。

 ば、馬鹿な……た、たった1人で2000人以上の敵兵を討ち取ったというのか?

 しかも、少尉と分かれてから、まだ1時間も経っていないではないか!

 それなのに……


「そんなもんだろうな。数えてなかったけど、半分くらいは倒した気がするし」


 シュナイデン少尉が現にここにいて、敵兵がそれを認めているのだから間違いないとは思うが、それでも尚信じる事が出来なかった。

 それだけタウゼンの常識の外の話だったからだ。


「お疑いのようですね。では、これを見ていただければわかりますよ」


 まだ若い共和国兵は司令部の大型通信珠の前に立ち、映像を映し始めた。

 足元に転がる縛られた若い議員の助けを求める眼差しなど彼は気にも止めなかった。

 やがて、大型通信珠には目を背けたくなる映像が映し出された。

 足の踏み場もないほど、死屍累々と横たわる人の川。

 微かに生きているのか時折ピクリと動くが、それがまた残酷であった。

 いっそ一思いに死ねたらどれだけ楽だったろう。

 敵兵の心情を思い、タウゼンは身の毛が弥立った。


「少尉……貴官を疑った事を謝罪しよう。それと確認なのだが、他の部隊はどうしたのだ?」


「降伏すると誓約し、現在、外壁上部にて待機させてありますが、おそらくは大半が逃げてるのではないかと……申し訳ありません。数が数でしたので連れて歩くわけにも行かなかったものですから」


「ふむ。やむを得ないな。それで何人程いたのだ?」


「正確な数はわかりませんが、名前が分かっているのはケナン・テミルド、フランツ・ドールマンの2名だけです」


「……その2人は第10、第17守備隊の隊長です。第4守備隊はすでに逃走、第8及び第14守備隊は非番のため要塞にはおらず、第19、第20守備隊は首都での任務のために要塞を離れております。つまり、要塞守備隊は……敗北したのです」


 シュナイデン少尉の言葉に大型通信珠の前にいた兵士が応えた。

 常軌を逸した報告に平伏し、頭を下げた衛兵達は震え、幾人かはすすり泣いていた。


「衛兵諸君、貴官らにも即刻退去を命じる」


 動こうともしない衛兵達にタウゼンはなるべく優しく声をかけた。

 彼らが降伏せざるを得ない状況を目の当たりにして、少しばかり同情心が芽生えたからだ。


「う、動いても首を刎ねないか?」


「……なに?」


 なるべく優しく声をかけたと言うのに、心外な言葉をかけられ、忌避感を抱く。

 帝国軍人として、いや、人として侮られた気分だ。


「我々、帝国軍人が逃走する者を後ろから斬ると愚弄するかっ!」


「ち、違う! た、ただ……目線を上げれば殺すと……」


 衛兵長がチラリと視線を逸らす。

 逸らした先にいたのは……。


「少尉、彼らに何か言ったのか?」


「ええ、通信兵の彼に無理難題を押し付けていたようなので、ガツンと言ってやりました」


「なんと?」


「『司令部のクソったれ野郎共っ! 要塞守備隊は降伏したんだ! 調子にのってふんぞり返ってんじゃねえよ! 今からそっち行ってぶっ潰してやる! 俺と同じ目線に立ってる奴からぶん殴ってやるからな!』です」


 あの映像を見せられた後にこの台詞か……。

 なるほど、納得いった。


「衛兵長殿、貴官らはすでに降伏したのだ。これ以上無益な争いをする必要はない。さぁ、行け」


「わかった。感謝する」


 衛兵長が立ち上がり、俺と目線に立ったので渾身の右拳を顔面に叩き込む!

 ……わけがない。

 流石にそれをやったら軍規違反だし、そこまで非道にはなれん。

 衛兵長が立ち上がったのを見て、部下の衛兵達も恐る恐る立ち上がる。

 チラチラとこっちを見るのはやめてもらいたいな。


「そうだ。ついでにこいつも連れて行ってやってくれ。我らの計画の片棒を無理やり担がせた被害者だ」


 そう言ってマッコイ代議士を衛兵長に託す。


「感謝する。先生はこう見えても優しい方なので……」


 マッコイ代議士を担ぎ、他の議員やサヴィンも連れて衛兵長を先頭に衛兵達は去っていった。

 要塞に残った他の共和国兵士達も動ける者達の手を借り、一斉に退去した。

 こうしてベェルト要塞はここに陥落したのである。


いつも読んでいただきありがとうございます。


読み返すたびに誤字脱字を見つけ、自身の稚拙さを痛感する今日この頃……

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