異様なる司令部
アラン・タウゼン 38歳。
軍に所属して早20数年、ベテランと言っていい軍歴である。
その彼をして目の前に広がる光景の異様さには戸惑いを隠せないでいた。
広々とした司令部に空席だらけの座席、机の上には重要と思われる書類が広げられたまま放置されている。
そして、壁際にズラリと並ぶ共和国の国章が描かれた赤い鎧を纏った兵士達、約50名。
事前情報によれば、鎧の色から衛兵隊であるという事がわかる。
しかし、タウゼンが驚いたのは彼らの姿勢だ。
全員が伏して頭を下げている。
一人の例外もなく、ただ強大な存在に対して礼をとるような、またはその庇護にすがるようなそんな様子だった。
《老獪白眉のタウゼン》と言われた彼が予想すらできなかった状況。
彼は今、必死に頭をフル回転させ状況整理をしていた。
そんな彼をよそに前に出る者がいる。
「おいっ! これは何の真似だ?」
マリー・オルレアン少尉 自称16歳。
あの幼さが残るシュナイデン少尉より一つしか変わらないとは思えない風貌で鍛え込まれた肉体に健康的な褐色肌。
その肉体が纏うのは服と言うにはあまりにも心許ない布だけだった。
これで元修道女だと言うから更に驚きだ。
詐称であれば懲罰ものだが、確認した限りでは本当だった。
そんな余計な事を考えていると、一人の男が話し始めた。
「帝国の作法は知らぬ故に御容赦願いたい。私はベェルト要塞の衛兵長ダン。我々、要塞衛兵隊は貴官らに降伏する。どうか、受け入れていただきたい」
「降伏? 共和国の軍人は降伏という言葉の意味がわかっているのか?」
伏して頭を下げたままの中年の男性の元にオルレアン少尉が歩み寄り、床に置いてあった剣を拾って彼に突きつける。
それでも彼は頭を上げようとしなかった。
「降伏する。我々、衛兵隊だけではない。守備隊も警備隊も降伏する。つまり、このベェルト要塞が降伏するという事だ」
「何の冗談だ? それを信じろというのか?」
「信じられなければ私の首を刎ねるがいい。ただ、どうか部下の命だけは何卒……何卒……」
衛兵長は足を正し、頭を下げて額を地面に擦りつけて土下座した。
それを見ていた衛兵達からはすすり泣く声が漏れ出る。
これはバツが悪いな。
オルレアン少尉も困惑しているようだし、ここは私が変わろう。
「衛兵長殿、降伏するというのであればこのベェルト要塞の指揮系統を掌握させていただきたい。ここにはサヴィンという第一秘書、それに幾人かの議員がいたはずですが?」
少尉を下がらせて、衛兵長と話をする。
すると彼は司令部中央にある大型通信珠の方を見た。
そこには手を後ろ手に縛られ、猿轡を噛まされた者達がいた。
服装から見ても兵士ではない。
あれが若い議員達だろう。
だが、サヴィンの姿が見えない。
「サヴィン殿は?」
「彼なら私の後ろだ」
衛兵長の後ろを見ると、床に転がされ、身体中を縄で縛られ、猿轡を噛まされながらも睨むサヴィンの姿があった。
モゴモゴ言っているが全く意味がわからない。
「彼は何故?」
「この男はあの映像を見た後に、我々を捨てて逃げようとしたのだ。それだけならまだしも、自分が逃げるだけの時間を稼ぐように戦えと言ってな! 我慢の限界だった。それでこの様な形になってしまった。私刑にはしていない」
確かに縛れてはいるが、サヴィンに傷はない。
最もやった後に回復魔法で癒していればわからないがな。
「なら、今の実質的な司令官は彼なんだろ? 彼と話がしたい」
「我々は降伏したのだ。拒む理由はない」
そう言って伏してままサヴィンの後ろに回る衛兵長。
そして猿轡を外すと同時に、サヴィンは大声を上げた。
「貴様らっ! こんな勝手な事をしていいと思っているのか! たかが衛兵長如きが、ベェルト要塞降伏だと? そんな権限があるかっ! 今すぐ戦え!」
「サヴィン殿、降伏後の戦闘行為は貴国の信用を損なう事になりますよ」
「黙れっ! 帝国の犬め! さぁ! 何をしている衛兵長! 命懸けで戦え! 相手は2人だ! 全員でかかればすぐ殺せるだろ! 奴が来る前にさっさとやれ! この2人を殺し、私が無事に逃げおおせた暁にはこの反逆は不問にしてやる!」
奴? 一体、何のことだ?
それにしても頭が良いと聞いていたが、とんだ見当違いだ。
これでは火に油を注ぐ様なものだ。
衛兵隊に殺されても文句は言えんぐらいだぞ。
「奴とは誰ですかな?」
「黙っていろと言ったはずだ! お前ら下賤の帝国兵と語る舌は……ぐぼぉ!」
聞くに耐えない罵詈雑言で不愉快だったので、サヴィンの鳩尾に蹴りを入れる。
それに、よくよく考えれば彼はまだ降伏していないのだ。
なら、別に黙って暴言を吐かせてやる理由もないな。
サヴィンは唾液を撒き散らしながら芋虫の様に転げ回っている。
そんなに強くはしていないんだがな。
「き、き、貴様……よくも……」
「貴方はまだ降伏していない。なら、我々の敵のまま……そうですよね?」
「ぐっ……」
サヴィンは忌々しそうに唇を噛みしめ、やがて口端から一筋の血が流れた。
いつも読んでいただきありがとうございます。
場面がコロコロ飛んでしまい読みにくいかと思いますが、何卒御容赦を。




