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降伏の嵐

 うーん、これはキツい。

 思った以上に大変だ。

 敵は五千人弱といったところだろう。

 最初は流石にキツいと思ったけど、それよりその後の方が問題だった。


「ぐわぁあああああああああ!」


「ぎゃあああああああ!」


「ぐっ……がっ!」


 あっ、今のはモロに当たった。

 ……良かった、生きてる。

 それにしてもまさか自分の力を押さえるのがこれだけしんどいとは思わなかった。

 今だって当たる瞬間にちゃんと力を抜いたのに、壁まで飛んで背中を強打してる。

 他の人達も腕を斬り落としちゃったり、骨を粉々に砕いちゃったりと散々な有様になってる。

 特に一番最初に出てきた豪華な鎧の大男には気の毒な事をした。

 大男がいきなり襲いかかってきたのもあるけど、最初だったから加減してなくて、相手の剣を受け止めるだけのつもりで刀を抜いたら、剣ごと身体を真っ二つにしてしまった。

 《魔力増幅》もしていないのに、これだけの力が出るのはどう考えても《龍仙気(ドラゴンオーラ)》のせいだろうな。

 魔力の量も質も桁違いだ。

 今までは魔力量をとにかく上げて身体機能を上げる事を考えていたが、今はなるべく抑えるようにしないといけないとは。

 それにしても、今、一体何人倒したんだろう?

 もうさっきの大男みたいに無益な殺生はしたくないから峰打ちにしてるけど、《魔装刃(まそうじん)》は使っているから打ち倒した相手は起き上がってこない。

 でも、目の前にはまだまだいる。

 体感的には丁度半分ってとこかな?

 とりあえず、目の前の敵はとにかく倒しておこう。

 俺が眼前の敵に刀を振り下ろそうとした時、相手が必死に声を出した。


「ま、待ってくれ!」


 その声にとりあえず刀を止める。

 峰は相手の肩口寸前で止まった。

 敵兵の足元には生温かい水溜りが出来ていた。

 何か話でもあるのかな?

 とりあえず聞いてみるか。

 俺は刀を下ろして目の前にいる敵兵に視線を向けた。


「何か?」


「ひっ! ま、ま、待ってくれ! た、頼む! こ、降伏する! 降伏するから命だけは!」


 敵兵は土下座のような姿勢をとり、声を張り上げた。

 降伏? あぁ、ロースター軍曹の時と同じか。

 要は捕虜になるってことだな。

 あの後、ちゃんと軍規を学んだから、こういう時にどうすればいいかはわかってるぞ。

『敵兵の降伏に際し、捕虜にすべし時は官姓名を確認し、捕虜となる事を誓約させるべし』だったな。


「官姓名を名乗り、捕虜となる事を誓約をするなら降伏を受け入れる」


「ほ、本当かっ! お、俺はケナン! ケナン・テミルド! ルークリア共和国ベェルト要塞守備隊所属の少佐だ! 誓約する! 捕虜となる事を誓約をする!」


「誓約を受け入れます。では、テミルド少佐は小官の捕虜であります。武装解除を……」


「ま、待ってくれ! お、俺も誓約する!」


「わ、私も誓約します! いえ、させてください!」


「お、俺も!」


 テミルド少佐の降伏を受け入れると、周りにいた兵士達も武器を捨てて、こぞって降伏を申し出てきた。

 襲ってくる時の人数より多いので少々戸惑う。

 一体、何人いるんだ? 少なくとも百人以上に囲まれてるぞ。

 それに、この場合はどうなるんだ?

 まさか……一人一人に誓約させるわけないよな?

 そんな面倒な事してられないぞ。


「わ、私は第十七守備隊隊長のフランツ・ドールマン少佐! 我々、第十七守備隊は降伏する! 武装解除し、この通路に伏して留まるが故に、何卒、命ばかりは……せめて、部下の身の安全は保障していただきたい!」


 一人の中年男性が膝をついて頭を垂れる。

 その後ろに何百人という兵が同様に伏して頭を下げていた。

 待て待て待て待て。

 こんなの一人一人聞いてたら斬るより面倒だぞ。

 どうせなら一遍にしてもらえないかな?

 こちらから提案してみよう。

 舐められないようにちょっと強気で。


「降伏せし者は今すぐに伏して頭を垂れよ! これより頭が高い者は交戦の意思ありと見做し、敵として討つ! 死にたい者だけ前に出ろ!」


 俺はなるべく大きな声で全体に聞こえるように言った。

 すると、一気に視界が開ける。

 そこには俺と同じ目線にいる者は誰一人としていなかった。

 目の前にいた全員が伏して頭を垂れていたのだ。


「……全員の降伏を受け入れる。頭が上がれば即刻刎ねる。努努(ゆめゆめ)忘れるな」


 敵兵達がガタガタと震えながら頭を縦に振ったのを確認してから、俺は来た道をゆっくり戻ることにした。

 あの中から一人二人逃げても構わない。

 というより、面倒だ。

 なんなら全員逃げてもらってもいい。

 俺が場を離れれば後は勝手に逃げるだろうさ。

 

「さすがに逃げろとは言えないしな……ん?」

 俺は外壁の隔たりに隠れて、淡く光る珠に向かって話す兵士を見つけた。

 そういえば襲ってこなかった人は放置したんだっけ。

 俺は兵士にゆっくり近づいた。


「貴官は何をしている?」


「ひっ!」


 背を向けてしゃがんでいた兵士に声をかけると、身体をビクッと震わせて悲鳴を上げた。

 そして、震えながらゆっくりこちらを向く。

 その顔には恐怖が滲み出ていた。

 何かよっぽど怖い思いをしたのだろうか?

 そうか、これは《通信珠(つうしんきゅう)》だな。

 これで上官から無体な命令でもされたんだろう。

 やれやれ、上官に恵まれないってのは嫌なもんだ。

 子爵の御子息を思い出す。


「何をしていた?」


「お、俺は通信兵で……今、司令部に報告を……」


 やっぱりだ。

 司令部の奴らめ、ふんぞり返って偉そうにしているんだろう。

 よし、俺がガツンと言ってやる!


「代われ」


「えっ……あっ! は、はい! ど、どうぞ」


 俺は通信珠を受け取ると思いっきり怒鳴った。


「司令部のクソったれ野郎共っ! 要塞守備隊は降伏したんだ! 調子にのってふんぞり返ってんじゃねえよ! 今からそっち行ってぶっ潰してやる! 俺と同じ目線に立ってる奴からぶん殴ってやるからな!」


 俺はそう言って通信珠を通信兵に返した。

 壊そうかと思ったけど、これって高いんだよなぁ。

 この通信兵さんが弁償とかさせられたら可哀想だしな。


「ここから司令部までの最短ルートを教えてくれ。ちょっと行って偉そうな奴をぶん殴ってくる」


「えっ? あ、はい。えっと、ここの通路を真っ直ぐ行くと階段があるのでそれを降りて、正面に山羊の剥製があるので、それを左に曲がってからすぐを右に曲がり、そこから2つめの角を……」


 長いわっ! 覚えられるかよ!


「案内してくれないか?」


「わ、わかりました! 御案内致します!」


 そう言うと、通信兵は起立して敬礼し、俺の前をゆっくり走り出した。

 それにしても敵に道案内してもらうとか情けないなぁ。



いつも読んでいただきありがとうございます。


今日も暑かったので、コンビニでジュースをたくさん買いました。

すると、くじが4回引けたので引きました。

……全部ジュースでした。

こんな事ってあるんですよねぇ。

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