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エーリッヒ・サヴィンの想い

 時は遡る。


 要塞司令部ではマッコイ代議士の裏切りにより、第一秘書のサヴィンが指揮権を握っていた。

 若手議員が反発したが、親の力で代議士になった彼らなどサヴィンの敵ではなかった。


「衛兵長っ! 先ずはこの司令部に衛兵隊を集め、防御を固めるんだ。いかに敵が奇策をとろうと、司令部が生きていれば首都マリエラとの通信も確保できる。潜入してきた敵は寡兵であり、おそらくは強者ではあろう。よって、圧倒的な物量を持って敵に対抗する!」


「はっ!」


 衛兵長は直ちに衛兵隊を司令部に集結させるべく、行動をとった。


「お、おい! サヴィン君! 敵は少数なんだろ? なら、全衛兵隊で一気に制圧すれば済むじゃないか? なぜ、此方が防御に回る必要があるんだ?」


「そ、そうだ。いかなる犠牲を払おうと突撃すれば……」


「では、その先方に貴方達が立つのですか? それに通路が狭く敵に相対するのは結局は少数にしかなりませんから意味はないでしょう」


 若手議員達の意見を真っ向から否定するサヴィン。

 いつもなら顔色を伺いながら、それとなく否定するのだが、ここで成果を上げれば自分の代議士当選は約束されたようなもの。

 なら、無能に払う敬意は惜しいと思われた。

 不満気な顔でブツブツと小声で嫌味を言う程度の奴らなんか今更どうでもいいのだ。


「サヴィン様、衛兵隊の配備完了しました。二小隊を司令部内に配置し、分隊が入口を固めております。更に予備兵力を司令部に繋がる通路に配備し、敵の動向を素早く察知できるようにしております」


 衛兵長がサヴィンに敬称をつけ、敬礼して報告する。

 どうやら彼もサヴィンの指揮権を認めたようだ。

 代議士になった暁には少し優遇してやるとしよう。


「よかろう。それと各警備隊に通達。特に魔法兵詰所と物資倉庫は押さえられると兵の士気に関わる。防御を強固にせよ」


「はっ! 了解致しました。それと要塞守備隊の方はいかが致しましょうか?」


 衛兵長の言葉に少し眉をしかめる。

 要塞守備隊など外部から敵が攻めてこなければ、昼寝するしかない奴らだ。

 今は関係ないというのに、やはりこの衛兵長は使えそうにないな。

 優遇するのもやめておこう。


「要塞守備隊は百勇士のフェルドに任せておけばいい」


「では、守備隊は敵の制圧には使わないと?」


「要塞守備隊は外部からの敵に対する備えだ。もし、これで彼等を動かせば要塞の防御が疎かになる。それが狙いかもしれん。だから奴らは動かさない」


 というのは建前だ。

 ここで百勇士の介入を許せば、奴だけの功績にされかねない。

 手柄は独り占めしてこそ意味があるのだよ。


「サヴィン様! 要塞守備隊より通信が入っております。緊急の用件との事ですが」


 チッ、誰かが漏らしたのか?

 情報が早い。

 手柄を立てるのに一枚噛ませろとでも言うつもりだろう。

 浅ましい事だ。

 フェルドは今年の入れ替え戦で百勇士になったばかりだから、更に功績を立てて上位に食い込もうとしているんだろう。

 まぁ、いい。

 とりあえず聞いてやるだけ聞いてやるさ。


「繋げ。俺が話をする」


「はっ!」


 司令部の通信兵が設置されている大型の通信珠を操作して、回線を開いている。

 設置型は映像も繋がる事ができるため、歴戦の勇士と面と向かって話すのは些か気が引けるが、ここで主導権を握られるわけにはいかない。

 ここで功績を立てるのはこの私、エーリッヒ・サヴィンなのだ。


「通信開きます」


 通信兵の声に大型通信珠に見上げる。

 そこには悲壮な顔をした兵士の顔があった。


「し、司令部! し、至急、増援か撤退を! 増援か撤退を! や、奴が来る前に! だ、だ、大至急!」


「お、落ち着け。何があった? 百勇士のフェルド殿はどうした?」


「ほ、報告します! 今から十分ほど前に外壁上部に突如、帝国兵が現れ、降伏勧告を無視して交戦状態となりました! 敵の猛攻凄まじく、第十三守備隊が壊滅、百勇士ジェラール・フェルド様も出撃されましたが、一瞬で討たれました!」


 悲壮な顔で報告を捲し立てる兵士。

 その報告は司令部内全体に動揺を広げた。

 冷静を装っていたサヴィンも例に漏れず、内心では動揺していた。

 第十三守備隊が壊滅し、百勇士が討たれた?

 そんな馬鹿な話があるか?

 あってたまるかぁああああああ!


「そんな馬鹿な話があるか! 第十三守備隊だけでも二百五十人はいるんだぞっ! それが壊滅だと? よく確認したのかっ! 誤報であれば貴官の首が飛ぶだけではすまさんぞ!」


「うるせぇ! 現場にもいないくせに偉そうに言うな! なら、これを見れば納得するか!」


 外壁に設置されている通信珠の向きを変えたのか、映像が切り替わる。

 そして、そこには凄惨な一面が映されていた。

 外壁上部通路を埋め尽くすほどに横たわるのは、共和国製の鎧を着た兵士達だった。

 彼等は生きているかのようだったが、それが逆に不憫に思えた。

 なぜなら、まともに立っている者が一人もいないからだ。

 身体の一部を失っている者、吐瀉物を撒き散らながらのたうちまわる者、膝を抱えて泣きじゃくる者……。

 更に遠くからは悲鳴と思われる声が響き渡っていた。

 そして、そこにガチガチと音が聞こえる。

 その音は通信珠からではなく、自身の口から聞こえていた。

 それはサヴィンが震えて歯と歯がぶつかりながら奏でる音だった。


いつも読んでいただきありがとうございます。


ユニークを見ると毎日500人の方が自分の小説を読んでくれているのが分かります。

大物作家さんには遠く及びませんが、それでも500人に毎日読んでいただけるって光栄な事だと思います。


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