ソフィア・フォン・リンプトン中佐の想い
「リクト君、大丈夫かな? 無茶してないといいんだけど」
要塞の魔法兵詰所に向かいながら、部隊最年少の少尉の事が頭をよぎっていた。
彼との出会いは最悪だった。
陛下がオーマン伯爵叛逆で敵兵七十人を討ちとった若い兵士を、ウォーレイク元帥の特殊部隊に推薦したいと仰られるから顔合わせに行ったのに、そこで私は少尉に下着を……。
ううぅ……そりゃ、ローブの下にズボンを履き忘れた私が悪いんだけど、何もジッと見なくてもいいじゃない!
せっかく威厳を保とうと出来る女してたのに、アレで全部パァだよ……。
はぁ……でも、本当に大丈夫かな?
今までの功績を聞いた限りじゃ、相手が百人くらいなら彼一人でも大丈夫だと思うんだけど、この要塞守備隊は今は五千人。
いくら少尉が《究極の魔力》を持っていると言っても、持ち堪えられる可能性は低い。
五千人を一人で相手に出来るとしたら、それは人外の領域に踏み込んだ者達だけ。
帝都内だと、ヘルフォード軍令部総長とライゼンハイマー近衛騎士団長、それと魔法師団長のミケーリ様。
他にも何人かはいるけど、それでも十人はいない。
隊長に進言したけど、担当は変わらなかったし、せめて部隊の副隊長としては、早く助けに行ってあげないと。
《不可視化》の魔法で姿を消し、《無音歩行》の魔法で音もたてずに目的地に急ぐ。
この要塞には魔法兵は千人はいるが、要塞の防御魔法の維持のために全員が詰所にいるわけではない。
ならば、先手必勝。
ワイバーンすら恐れ慄いた私の上級魔法《偉大なる雷》で全てを黒こげにしてやる!
その足で外壁上部に向かって、少尉を救援する。
そうすれば少尉だって……それにしても。
「十三歳差か……」
隠密行動中だというのにボソッと声に出してしまった。
幸い敵は近くにいないから良かったようなものの、かなり不注意な発言だった。
でも、真剣な悩みだった。
貴族の娘である私が、婚約もしていない男性に下着を見られるという大失態を犯したのだ。
罪にはならずとも、破廉恥な行為である事は間違いない。
こうなったら彼と結婚するしかない!
そのために彼と一緒にいる時はなるべくお淑やかに、作戦行動中は凛々しくしてきたんだから!
それに周りの同年代の女性達はどんどん結婚していってる。
結婚だけが幸せではないとわかってはいるけど、自慢されると流石に腹が立つ!
だから、ここで彼の窮地を救って、好感度を上げるのよ!
困難な状況下で生死をかけた闘いを共に乗り越えた二人、まだ若い彼は新たな感情の芽生えに戸惑いながらも、頼りになる大人の魅力溢れる上官を……そして、ふたりはやがて……。
見ていろ、自慢してきた奴らめ!
今一番の有望株で出世頭、おまけに年下の准男爵家の当主!
これは逃す手はないわ!
こんな所で彼を死なせる訳にはいかない!
絶対に守ってみせる!
そんな邪な事を考えていたら、魔法兵詰所前に到着していた。
ここからは浮ついた気持ちは抑えて真剣に行かないとね。
それにしても妙だ。
なぜか詰所前の閉ざされた扉の前に衛兵がいなかった。
普通なら魔法兵に限らず、衛兵でも守備隊でも詰所前には必ず警備の兵がいるはずだ。
それが今は誰もいない。
おまけに室内が静まり返っているのが扉越しでもわかる。
もしや、すでに迎撃態勢が整えられており、全員で扉に向かって警戒している?
仮にそうだとしたら扉から行くのはまずい。
本来なら、この姿も音も感知させないまま近づいて警備の兵に扉を開けさせて侵入し、タイミングを見計らって奇襲をかけるはずだった。
だけど、敵が警戒しているなら奇襲は出来ない。
多少時間がかかってもここは慎重に計画を練り直して……って! そんな事だから駄目なのよ!
ちょっといいなと思う男性がいても、慎重に進めている間に他の女に持っていかれている。
それに今回は彼の命がかかっている。
なら、四の五の考えている場合じゃないわ!
ありったけの防御支援魔法で強化して、魔力回復のポーションを飲んで万全の態勢で正面から挑むわよ!
私は武者震いの両足に気合を入れて、扉を勢いよく開け放った!
そして、間髪入れずに魔法を……あれ?
こ、これって……どういう事?
一体、何が起こったというの?
いつも読んでいただきありがとうございます。
アクセス数がすごい勢いで伸びています。
でも、ランキングに載るような先生方には遠く及びません。
でも、自分は自分の小説を大切にコツコツ頑張っていこうと思いますので、これからもよろしくお願いします!




