役割分担
「なに? 今なんと言ったのだ?」
要塞司令室で仕事をしていたマッコイ代議士の第一秘書であるサヴィンは、報告に来た自分よりも二回りも年上の衛兵長に命令口調で聞き返した。
「はい。実は先程、先生のお部屋前を通りかかった際に、中から声が漏れておりまして……その、『亡命』と聞こえたので何事かと……」
「先生の部屋を盗み聞きしたのか? 衛兵長の君が?」
「も、申し訳ありません。しかし、内容が内容でしたので……その……」
「ふんっ! まぁ、いい。それにしてもマッコイ先生が亡命とは……」
恐縮する衛兵長を蔑視していたサヴィンだったが、内心ではほくそ笑んでいた。
実際には衛兵長の肩を抱いて、金貨数枚を渡してやりたいくらいだった。
『マッコイ代議士が帝国と内通し、亡命を企んでいる』
これはチャンスだ。
思えば、あの無能で品性の欠片もないマッコイの秘書でいるのは苦痛だった。
しかし、代議士の地位を得るためには秘書の経験は必要不可欠なので、仕方なく奴の下に甘んじていたのだ。
奴が政界引退まで追いやるにも、まだ暫くは辛抱しなければならないと思っていたが、この話が露見すれば奴は終わり、代議士の地位は私のものとなる。
これは願ってもない事だ。
だが、出来過ぎた話でもある。
偶然通りかかった衛兵長、外に聞こえる程の大声、詳細な会話の内容……おそらくは敵の欺瞞工作だろう。
くくくっ、馬鹿な奴らだ。
大方、マッコイを味方につけて奴の権力で要塞の無力化を図ろうと言うのだろうが、そうはいかんぞ!
「皆も聞いた通りだ。マッコイ先生に限ってあり得ないとは思うが、念には念を入れる必要がある。以後は先生から命令があれば、先ずは私に報告してもらいたい。それまでは私が指示を出す」
要塞司令部にいた主要な者達にそう伝えると、当然だが反発が起きた。
「ま、待ちたまえ! 君に何の権限があってそのような事を言うのだっ!」
「そ、そうだ。ここは先ずはマッコイ先生に話を聞いてから……」
反発したのは若手議員達だった。
ふん、親の地盤を引き継いだだけのボンボンのくせに一丁前の口を聞きやがって。
「そうですか。先生方がそこまで言われるのならそうしましょう。ただし、これでマッコイ先生が本当に亡命された場合の責任も先生達でお願いしますよ。我々は先生方の命に従っただけなんですからね」
「せ、責任……」
「そ、それは……」
さっきまでの威勢は何処へ行ったのやら、今度は狼狽し始めた。
情けない奴らだ。
「先生方、私は何もマッコイ先生を命令を無視しろとは言っておりません。一旦、止めておいて精査してから実行すべきと言っているだけなのですから」
「お、おおお! そ、そうか。それはすまなかったサヴィン殿。我々の早とちりだったようだな」
「そ、そうですね。これは失礼した。君の提案に我々も乗るとしよう」
あっさりと意見を変える若手議員達。
愚物どもめ、俺が議員になった暁には顎でこき使ってやる。
さあ、マッコイ。
貴様にはこれまでの恨みもある。
救出などしてやるものか、私の議員への足がかりとして無念を抱えたまま死んでもらうぞ!
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「……という考えになってると思います。つまり、救出の期待はしない方がよろしいでしょうね」
藁にも縋ろうかと言う代議士の希望を、聞かれてもないのに踏み潰す隊長。
容赦のない人だなぁ。
「さて、本題に入りましょうか、先生。この要塞の主要な機関、部署を制圧したいので、その位置と配置兵力をお教え願いたい」
「…………机の二段目の引き出しに見取り図が入っている。それに兵力配置図もな。だが、それもアテにはならんぞ」
吐き捨てるように言う代議士を無視して、机に罠がない事を確認した隊長が要塞の見取り図と兵力配置図を取り出して中を見る。
「これは好都合だな。この部屋から各目標地点までは、そう離れていない。皆も地図は頭に入れておけ。それと兵力配置図はあくまで参考程度にな。すでに潜入がバレているんだ。敵は重要箇所には兵力を集中させているだろう」
「割り当てはどうしますか? 隊長」
ファーレンハイト大尉が隊長の指示を仰ぐ。
事前の作戦会議でも場所や兵力を見てから担当箇所を決めると言われていたからだ。
「……よし、要塞司令部には俺とオルレアン少尉、魔法兵詰所はリンプトン中佐、弾薬倉庫はロイス大尉、食料倉庫はファーレンハイト大尉。そして、要塞守備隊は……シュナイデン少尉、頼めるか?」
「待って下さい! 要塞守備隊全てをシュナイデン少尉一人でですか? 配置図だけでも三千、今はおそらく集結して五千は下りませんよっ! それを……」
「中佐、これは命令だ。それと付け加えておくが、敵には容赦するな。これも命令だ。出来なければ命令違反で厳罰に処す!」
「くっ……、でも……」
隊長の言葉になおも食い下がろうとする中佐の肩に手を置く。
セクハラではない……ないよね?
「中佐、いいんですよ。それより中佐達こそ大丈夫なんですか? 司令部には衛兵が集結しているでしょうし、それなりにいるはずです。倉庫の守備隊も同様です」
「お前のところに比べたら大した数じゃねえよ……おいっ、少尉。突っ込むじゃねえぞ、なるべく早く行ってやるからよ」
「我々のところは制圧というより物を使えなくすればいいだけだ。それほどかからずに行ける。それまでは無理はするな」
ロイス大尉とファーレンハイト大尉が俺の肩に手を置いて小声で伝えてきた。
ちょっと感動した。
「どんな傷でも治してやる……だから死ぬなよ」
オルレアン少尉までがそんなに心配してくれるとは……チームっていいね!
「少尉、厳しい任務なのは分かっているが、お前ならやれると判断した。死ぬなよ」
隊長もなんだかんだで心配してくれてるんだな。
こうなったら、やるしかないね。
それに容赦しなくていいのは好都合だ。
この《龍仙気》もまだ実戦で試してないんだ。
五千人、相手にとって不足はない。
「皆さんのご厚意に感謝致します。シュナイデン少尉行って参ります!」
俺はそう言って、先ず外壁上部にいる守備隊の元へ向かった。
いつも読んでいただきありがとうございます。
どうやったら面白い小説が書けるんでしょうか。
悩みます。
それにしてもヒロインが安定しなくてすんません!




