追い込み
本当にこんな作戦よく思いつくよなぁ。
俺だったら絶対思いつかない。
「それにしてもさすがはシュナイデン少尉だ。声の一つも上げさせずに十人を一瞬で斬り伏せるとは。ここで救援を、呼ばれたらこの作戦は終わりだったから助かったぞ」
「ちっ、それぐらい俺にだってできるんだぜ。何でこいつに任せるんだよ」
「よせ、ロイス。こんな所で張り合うな」
「あたいも同感だね。拗ねるなんて大人気ないぜ。大尉殿」
タウゼン隊長、ロイス大尉、ファーレンハイト大尉、オレルアン少尉が装備を外しながら話す。
隊長はああ言ったけど、これからの方が大変だ。
気を引き締めないとな。
「中佐、すまないが皆の装備を出してくれ。その後は予定通り頼む」
「わかりました」
リンプトン中佐の声だけがする方から次々と全員の装備が床に置かれる。
それにしても凄いよなぁ、気配はなんとなくわかるけど、姿はまったく見えないんだもんなぁ。
「ありがとよ、中佐殿。《不可視化》の魔法を連続で使って大丈夫かい? なんなら《魔力譲渡》で魔力を渡すよ」
「大丈夫よ、マリー。それじゃ、後でね」
オルレアン少尉が隠れて着替えるのを見張っていた中佐はその言葉を残し、扉から外へ出て行ったみたいだ。
姿が見えないから扉が勝手に開いて勝手に閉まるのはちょっと気味が悪い。
「向こうにいた目立つイケメンがこの代議士の第一秘書だ。今回の作戦の重要人物でもあるから全員顔を頭に入れておけよ」
「「「了解」」」
素顔を見せずに着替えを済ませた隊長の命令を受諾する。
そういえば隊長の素顔も見てないな。
辺境伯様と会った時もフルフェイスの兜は外さなかったし、飲み食いの時も口元しか出してない。
今の演技の時も包帯ぐるぐるで口元しか見えなかったし、今もいつの間にかフルフェイスの兜を被っている。
うーん、隊長の素顔に中佐の魔法、大尉二人の奥さんに少尉の実年齢……この部隊の人達は謎だらけだ。
「き、貴様ら、帝国軍か? た、たったこれだけの人数で何ができる! この私にこんな事をして、ただで済むと思うなよ!」
ファーレンハイト大尉に後ろ手に縛られながら、威勢よく吠える代議士。
その冷汗と震えがなければ勇ましいと思うんだけどね。
「いやいや、代議士先生はさすがですな。こんな状態でもそれだけの啖呵がきれるとは大した胆力です」
隊長が椅子から立って代議士の前にしゃがんで、目線を合わせる。
「ふ、ふん! 今更、機嫌をとっても遅いわ! 覚悟して……」
「まぁまぁ、そう焦らずに。貴方を害しようとは思ってませんから。少しお話でも……おや? 思ったより早かったな」
隊長が扉を見ながらそう呟いた。
確かに早かったな。
近くにいたんだろうか?
「お、おい、貴様! 何をしようと……」
「先生、お迎えにあがりました!」
急な隊長の言葉にキョトンとした表情になる代議士。
ここからの隊長の話術は見ものだな。
「な、何を言って……」
「いやぁ、兵士の殺害まで協力していただいて申し訳ありません! さぁ、計画通り亡命しましょう!」
亡命という言葉に顔を真っ青にする代議士。
「ぼ、ぼ、亡命……」
「いやぁ、素晴らしい作戦でしたよ、マッコイ代議士。この腐敗した共和国に絶望した貴方は帝国への亡命を計画、帝国軍を数度撃退するという演技の後に我々と合流して亡命を図るという筋書は完璧です! 御安心ください。亡命後の地位は保証致しますので!」
口をパクパクさせながら、目を見開く代議士。
その時だ。
扉の外を誰かが走って行く音がした。
しばらくして音が聞こえなくなったところで扉が勝手に開いて勝手に閉まる。
そして、ゆっくりとその人物は姿を現した。
「ふぅ、隊長。いかがでしたでしょうか?」
額の汗を拭うような仕草をしながら中佐が隊長に微笑みかける。
「問題ない。ご苦労だったな、中佐」
「ありがとうございます」
恭しく頭を下げる中佐、それと対照的に烈火の如く吠えまくる代議士。
「き、貴様ら! ど、どういうつもりだ! ぼ、亡命などとふざけた事を!」
「まぁまぁ、先生、落ち着いてくださいよ。今、外にいたのは貴方のところの衛兵長ですよ。中佐に誘導してもらいましてね。貴方の亡命計画を聞いていただいたんです。すいませんね、急に付き合わせてしまって」
「え、衛兵長……ま、まさか……」
隊長がニヤリと笑う。
うわぁ……口元しか見えてないのに、絶対に悪い顔してるってのがわかるな。
「そうです。我々の潜入は貴方が計画したものだという事を聞いてもらったんです。さて、貴方の今後の共和国でのお立場はどうなるか……聡明な先生であるマッコイ殿にはお分かりかと思いますが?」
代議士の顔は真っ青から真っ白になりつつあった。
そう、隊長の作戦は内部に潜入して最高責任者を捕らえ、そいつを反逆者に仕立て上げる事だった。
よくある手だけど、これだけの規模に対してやるとは誰も思わないだろう。
なんせ敵は一万、対してこっちは六人だもんなぁ。
「さぁ、先生。最早貴方が助かる道はこの要塞を我々と一緒に落とす以外にはありませんよ。我々は一蓮托生というわけです」
「あ、あんな不確かな情報だけで皆が信じるとでも……」
汗を垂らしながら必死に虚勢を張る代議士先生だったけど、隊長には全く通じてなかった。
「確かにあれだけでは全員を信じさせるのは無理でしょう。しかし、疑わせるには十分です。そうなった場合、貴方の今後の議員生命はどうなりますかな? 無事に切り抜けたとしても疑惑は残ったままだ。政敵からは攻撃の種に、議員仲間からは腫れ物扱い、政党からも、離党勧告か除名処分でしょう。市中に戻ったところで市民からどう見られる事やら……」
追い込んでる、追い込んでる!
怖いよ、隊長!
もう先生は失神寸前だよ!
「気の毒ですが、これも戦争。貴方も戦場にいる以上は命をかけてもらいます」
とどめの言葉を受けて、マッコイ代議士は項垂れた後に、小さく首を縦に振ったのだった。
いつも読んでいただきありがとうございます。
要塞の最高責任者を無理やり共犯にしたリクト達の前に第一秘書のサヴィンが立ち塞がる。
圧倒的な戦力差で迫り来るサヴィンに個性派揃いの特殊部隊はどう立ち向かう!
果たして、リクト達は無事に要塞を落とす事ができるのだろうか。
次回に続く。
……次回予告っぽくしてみました。




