帝国の企み
「敵の大攻勢とはどういうことだっ? 帝国軍がまた攻めてきたのかっ?」
息を切らし、床に座り込んだ若い議員に詰め寄った。
いつまでハァハァ言っているのだ!
今はそれどころではないだろうがっ!
「ハ、ハァハァ……さ、先程、巡回していた部隊が重傷を負って倒れている兵を発見し、直ちに救助して治療に当たったところ、その者からとんでもない報告があったのです!」
「それは何だ? とんでもないとはどういう意味だ?」
結論をスッと話さない若手議員に苛立ちながらも、後継者たるサヴィンが側にいるため短気を起こすわけにもいかず、マッコイはあくまで大物然とした態度を崩さぬように努めていた。
「ほ、報告によれば、帝国軍は北方方面軍だけでは力不足と考え、東方、西方方面軍をも集結させ、一気にこのベェルト要塞を墜とすつもりとの事です!」
「な、なんだとっ! そ、そんな……あ、あり得ん! 敵の欺瞞情報ではないのか?」
明らかに異常だ。
帝国の保有する東西南北の方面軍の内、3つをこのベェルト要塞のためだけに集結させるなど、考えられん。
これは罠に違いない。
「ふむ。サヴィン君はどう思う?」
「先生……実は東方方面軍に関しては気になる報告が入っておりまして…。東方方面軍の指揮官であるジェニングス辺境伯が帝都に緊急招集されたと……」
「な、なにっ! なぜ、そんな重要な情報を私に報告しなかったのだ!」
「す、すいません……それほど重要ではないかと考えまして……」
「重要か重要でないかは私が判断する! 勝手な振る舞いは困るんだよ! 以後はどんな些細な事でも私の判断を仰ぎたまえ!」
「……はい」
まったく! 優秀だと思っていたのにとんだ失態をしおってからに!
やはり、まだまだだな。
今後はもっと厳しく指導していく必要があるな。
それよりジェニングス辺境伯が帝都に呼ばれたとなると、東方方面軍は本当に来るやもしれん。
一刻も早く対策を……。
「あ、あの……」
考えを巡られせていると、若手議員がおずおずと話しかけてきた。
「ああ、まだいたのかね? 私はこれから対策について……」
「あの……救助した者によると他にも情報を持った者がいて、現在ベェルトとリンドの中間地点の森で帝国軍に足止めをされているとのことなんですが……如何に取り計らいましょう?」
「それを早く言わんかっ! 馬鹿者! すぐに部隊を編成して救援に向かわせろっ!」
「は、はいっ!」
若手議員は足をもつれさせながら部屋を飛び出て行った。
本当に最近の若い奴らはどうなってるんだ!
使えん奴らばかりではないか!
憤慨するマッコイの元に負傷兵が救助されたと報告が入ったのは、それから3時間後の事だった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「それで負傷兵はなんと?」
負傷兵救助の報告を聞いたマッコイはサヴィンを呼び出した。
「それが……極秘情報らしく先生に直接お伝えしたいと申しておりまして」
「なに? なら、ここに連れてくれば良いではないか」
「よろしいのでしょうか? まだ、身元の確認が……」
「馬鹿者。事は緊急を要するんだぞ? それに傷が癒えたばかりの兵に何を怯える事がある。そんなに大人数なのか?」
「いえ、先の者と合わせても五名ですが……」
マッコイは軽い頭痛を覚えた。
優秀だと思っていたサヴィンがこの程度の器だったとは思いもよらなかった。
この要塞には一万を超える兵が詰めている。
それをたった五人の負傷兵に怯えるとは……後継者の件も考え直す必要があるやもしれんな。
「もう、いいから連れてきたまえ。君がそこまで言うなら武器の携帯はさせず、警備の兵を十名ほど同行させるといい」
「……かしこまりました」
サヴィンは苦々しい顔をしながら部屋を出て行った。
まったくっ! 苦々しい顔をしたいのはこっちだと言うのに最近の若いモンは!
それから三十分後、十名の兵士に付き添われて五人の男女が部屋に入ってきた。
サヴィンは怖かったのだろうか同行していなかった。
しかし、五人とも武器は持っておらず、装備は革鎧だったが、ボロボロで血や泥で汚れているのが目立つ。
先頭の男は包帯で顔を巻いており、素顔は口元しか見えないではないか。
代議士である私に会うというのに、身なりを整えさせようという者は誰もいなかったのか?
マッコイは段々と自分が若者に嫌悪感を抱くようになるのを感じていた。
「私がこのベェルト要塞の最高責任者、エルネスト・マッコイだ。報告を聞こう」
直立不動の姿勢でいる五人の男女になるべく、優しく声をかける。
なぜなら緊張しているのが丸わかりで、小刻みに揺れているからだ。
特に先頭の男は揺れるどころか震えている有様だ。
こんな様子でよく直接伝えたいと言ったものだ。
「せ、先生にお会いできて、こ、光栄です。オ、オラ……わ、私はリンドの街のか、街道巡回の……」
噛み過ぎていて話が聞き取りづらい。
後ろの兵士達も堪えきれずに笑い声が漏れている。
それに言葉の訛りからするに、リンドの街出身ではなく、郊外の村の出らしい。
そんな田舎者が代議士に会おうものならこうなるのも当然か。
「あぁ、そんなに緊張しなくてよろしい。先ずは落ち着きたまえ」
「す、すいません……先生みたいな立派な人に会うのは初めてで……き、緊張してしまって……」
まぁ、私はこのベェルト要塞を任されるほどの大物代議士だからな。
うんうん、近頃の若者もこれぐらい私を敬えばいいのだ。
「はははっ、そうかね。では、この代議士徽章を見るのも初めてかな?」
襟元に付けている代議士徽章を田舎者に見せてやる。
これは高位の魔法使いによる《魔法付与》がなされており、代議士しか付けることができない。
つまり、これが私の代議士の証明でもあるのだ。
「お、おおお……これはこれは……まさか自分から見せてくれるとは……ありがとうございます。これで……」
「安心したかね? では報告を……」
「これで……演技は終わりだよ。諸君!」
震えていた男の急な変化に戸惑う暇もなく、私は目の前で起こった事に言葉を失っていた。
ボロボロだった四人の兵が、後ろに控えていた十人の兵士を悲鳴を上げさせる事もなく斬り伏せた。
それはまさに一瞬の出来事だった。
「いやぁ、先生。申し訳ありませんね。これから貴方を捕虜とします。異論は認めませんのであしからず」
震えていた田舎者が自分の座るべき最高責任者の椅子に座りながら言った。
私が捕虜?
一体、何がどうなってるんだ?
誰か説明してくれ……。
いつも読んでいただきありがとうございます。
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