帝国の敵
「つまり、お前達は俺の味方って事か?」
特殊部隊が来た経緯について説明するとレッドウッド辺境伯様は悪びれもせずにそう言った。
それってヴォルドン長官が敵だと言ってるようなもんだよ。
同じ帝国民で敵も味方もないと思うけどなぁ。
「閣下。その言い方には少々語弊がありますが、概ね間違っておりません」
隊長が肯定した事に『間違ってないんかーい!』と、心の中で突っ込みを入れずにはいられなかった。
「皇室はヴォルドン長官を下ろしたいようだな。それは総長や大臣も同じなんだろう。ヴォルドン長官が指揮する北方方面軍で落とせなかったベェルト要塞を、ウォーレイク元帥の指揮する部隊が落としたとなれば、ウォーレイク元帥の株が上がり、逆に落とせなかったヴォルドン長官は無能の烙印を押され、これまでの評判も相まって、軍隊司令長官の座を追われるというわけか」
「あくまでも推測ですがね」
陛下は嫌ってたし、中央の軍人からもよく思われていないようだからな。
ヴォルドン長官も相当ヤバい人のようだ。
「だが、その考えには問題があるぞ」
辺境伯様が眉を顰めて、渋い顔になる。
「何でしょうか?」
「お前達だけで落とせるのかって事だ」
それは俺も心配な事だ。
ヴォルドン長官が指揮したとはいえ、北方方面軍が落とせなかった要塞だ。
敵の戦力も不明な現状で俺達六人だけで落とせるかは甚だ疑問だ。
「北方方面軍は現在ヴォルドン長官の指揮下にある。今回の作戦上、表立って援護する事もできん。すればヴォルドン長官の功績にもされかねんからな。だから、出来る事と言えばせいぜい補給ぐらいだろうな」
「それで十分です、閣下。ここにお願いしたい物を書き記しましたので、ご承諾をいただきたく存じます」
隊長は一枚の羊皮紙を渡す。
それに目を通した辺境伯様は怪訝そうな顔で隊長を見た。
「これなら直ぐ用意できるが……本当にこれだけでいいのか?」
「いえいえ、私は利用できるものは何でも利用する性質でして。それに加えて司令長官の無益な采配も利用させていただく所存です」
「無益な采配? それは何だ? 一体、どんな作戦を考えているのだ?」
「では、作戦を説明させていただきます」
それからアラン・タウゼン大佐による今回の作戦が説明されたのだが、それは誰もが驚愕する作戦だった。
これは敵さんも予想できないだろうなぁ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「おかしい、絶対におかしい」
ベェルト要塞の最高責任者であるベェルトの街の代議士、エルネスト・マッコイは室内をウロウロと落ち着きなく歩き回っていた。
リンドの街の代議士アドリアン・クリコフが議会で帝国から宣戦布告を受けたと報告したため、国防大臣からの要請でベェルト要塞の守りを堅めていたのだが、予想外の事が立て続けに起こっている。
当初の話では、まずはリンドの街が帝国軍の侵攻を防ぐための防衛線を張るという話だった。
その間にベェルト要塞の守りを堅めるべく、補給等の整備をするはずだった。
しかし、実際は共和国に侵攻した帝国軍はあっさりリンドの街に入り、防衛線どころか現在は敵の侵攻のための前線拠点と化している有様だ。
それと言うのもクリコフのせいだ。
彼は議会で帝国の宣戦布告を報告した後も自身が治めるリンドの街には戻らず、首都であるマリエラに滞在したままだからだ。
そのためリンドの街は帝国軍との戦争の事も何も知らないまま、突如として現れた帝国軍になす術もなく敗れ、占領下に置かれたと言うわけだ。
「まったく! 何が『リンドの街はすでに戦闘配備が完了している』だっ! 何もせずに逃げ帰りおって! この件が済んだら証人喚問にかけてくれるわ!」
苛立って机を蹴飛ばし、その痛みに足を抱えて唸っていると、扉をノックする音が聞こえてきた。
「マッコイ先生、失礼してよろしいでしょうか?」
「……あ、ああ。入れ」
部屋に入ってきたのは第一秘書のサヴィンだった。
国立士官学校を首席で卒業した文武両道の天才で、高身長なうえに端正な顔立ちをしており市民からの人気もある私の後継者に相応しい人物だ。
「何事かね? サヴィン君」
「はい。帝国軍の動きなのですが、あの最後の攻勢後は全く動く気配がありません。リンドの街に留まったままです」
そう、おかしいのはクリコフだけではない。
帝国軍の動きもおかしいのだ。
このベェルト要塞は難攻不落と言わている。
全長180メートル、全幅370メートル、外壁の高さは50メートルあり、壁の内部には100ミリの鉄板を仕込んである。
交代で魔法使い1000人による多重防御術式も絶えず組み込まれ、要塞内には1万人もの兵が詰めており、簡単に破られはしない事は周知の事実のはずだ。
だが、それにも関わらず帝国軍は力攻めを繰り返すだけ。
無策に突っ込んでくるばかりで迎撃も容易かった。
兵士達は敵の力量を軽んじていたが、軍事国家である帝国がこのような作戦を立てるとは思えない。
きっと何か裏があるはずだ。
「どうもおかしい。帝国がこのような愚策を繰り返すとは思えん」
「はい。私もそう思います。何か別の策があるのではないかと……」
サヴィンが同意した事で、私の考えはさらに確実なものになった。
一体、帝国軍は何を仕掛けてくるのだ……。
「せ、先生っ! 先生っ! た、大変です!」
そこへ大声を上げながら若い議員が部屋に走り込んできた。
後学のためにと中央から派遣されてきた若者の一人だ。
「何事だ?」
「た、大変です! て、て、敵の大攻勢です!」
「なんだとっ!」
汗や鼻水を垂らしながら、息も絶え絶えに話す若い議員の言葉にショックを受けた。
どうやら私の考えは最悪にも現実となったようだ。
いつも読んでいただきありがとうございます。
小説を書き始めて常に思っている事があります。
ニホンゴ、トテモムズカシイネッ!




