レッドウッド辺境伯
結成式から3日後、俺達は共和国との国境に近いレッドウッド辺境伯領の領都ディンケルスに着いた。
ここの領軍司令部にてレッドウッド辺境伯と会い、今後の作戦会議を行う予定になっているそうで、馬車で向かっている。
「お前達に先に言っておくぞ。レッドウッド辺境伯は本来なら豪快で大らかな方だ。だが今は戦時中、さらにヴォルドン司令長官の横槍の事もあって少々気が立っておられるそうだ。粗相のないようにしろよ」
タウゼン隊長から全員に注意があった。
そういえば宰相殿もそんな事を言ってたな。
軍隊司令長官が無理矢理領軍の指揮権を奪ったって。
「それにしてもヴォルドン長官も無茶するぜ。本来、国境付近での戦は領主でもある辺境伯が指揮権を持つのが当たり前だ。それを国家間の争いとかなんとかイチャモンつけて指揮権を奪うなんざ正気とは思えないね」
「元々、元帥にまでなれたのは副官であるバンクス中将の働きが大きかったという話だ。中将が病で亡くなられてからというもの、ヴォルドン長官の評判は落ちる一方だからな。名誉挽回の機会と考えているのだろう」
「2人とも上層部批判はそのぐらいにしておきなさい。長官の耳に入れば、今のあの方なら首を飛ばすくらいは普通にしますよ。社会的にも物理的にもね」
ロイス大尉とファーレンハイト大尉を嗜めるリンプトン中佐だったが、中佐もそれとなく非難しているな。
俺はよく知らないけど、中央の軍人はヴォルドン長官を良くは思ってないようだ。
「無駄口をたたくのはそれぐらいにしておけ。北方方面軍司令部に着いたぞ」
詰所で用件を伝えた後、馬車は本部内に入っていき、馬車を預けた後に俺達六人は衛兵に案内されて辺境伯の待つ作戦司令室に向かった。
途中、衛兵の人からやんわりと粗相のないよう注意される。
本当に面倒なことになってるようだ。
案内され中に入ると、司令室内は異様にピリピリした雰囲気をしており、兵士達の表情にも余裕は感じられなかった。
中でも一際眉間にシワを寄せ、この雰囲気を作り出している張本人が司令室の中でも最も高い席に座っている人物、オリバー・フォン・レッドウッド辺境伯だ。
なるほど。
歳は三十台後半ぐらい、逆立てた金髪にガッチリとした体格の鋭い目つきの男が不機嫌丸出しの顔で小刻みに足を揺らしていればこんな雰囲気にもなるか。
側に立っている側近ですら直立不動の姿勢のまま動かないでいる。
衛兵の人はその側近の人に引き継ぎをした後、安堵の表情で帰っていった。
逆に側近の人は冴えない表情になる。
「あの……レッドウッド閣下、中央からタウゼン大佐と部隊員の方が……」
「ああ? そんなもん見えてるんだよ! 俺の目が節穴だとでも言いたいのか、テメェは!」
「も、申し訳ありません!」
俺達を紹介してくれた側近に容赦のない言葉を浴びせる辺境伯。
隊長の言うとおり、相当苛立っているようだな。
側近の人も平謝りのまま後ろに下がってしまった。
「閣下。アラン・タウゼン大佐であります。この度はウォーレイク元帥の命により、帝国本隊より閣下の陣に馳せ参じました」
「ウォーレイク元帥だぁ? ヴォルドン長官だけでなく、ウォーレイク元帥までウチに手を出す気かっ! 中央の奴らはよっぽど北方方面軍が信用できねえようだな!」
隊長の挨拶にも噛みつく辺境伯。
やれやれ、本当に豪快で大らかな方なのか?
随分と狭量に見えるんだけどね。
「それになんだぁ? 貴族のガキまで連れてきやがって! ここは遠足気分で来る程度の場所だとでも言いたいのかっ!」
俺を睨みつけ、更に声を荒げる。
八つ当たりされても困るんですけど?
「閣下、彼はリクト・フォン・シュナイデン少尉。オーマン伯爵の叛逆騒動の功労者であり、陛下より《帝国緑風勲章》を授与された英雄です。彼を軽視するような発言はお止めください」
毅然とした態度で言い返す隊長、かっこいい!
「ほぅ、貴様が噂の少尉か。だが、俺は別の噂も聞いたぞ? あの活躍は若い少年を気に入ったジェニングスの小娘がお膳立てしたものだとな」
「閣下……」
隊長の言葉を手で遮って、レッドウッド辺境伯は俺に詰め寄る。
「どうした、少尉? 発言を許してやる。言いたい事があれば言ってみろ!」
少し魔力を込めた感じで怒声をあげる辺境伯。
喋ってもいいなら喋らせてもらうとしよう。
「では、一言だけよろしいでしょうか? 小官は恩人を貶されるのは不快であります」
少し身体に魔力を込める。
俺が軽んじられるのは仕方ない。
歳も若いし、功績だって恵まれた部分も大きいのも事実だ。
だが、恩人でもあるジェニングス中将の名誉を汚す事は許さない!
俺は辺境伯を睨み返す。
「……良い眼をしてやがる。真っ直ぐで強い、死線を潜り抜けた戦士の眼だ。おまけにこの若さでこれだけの魔力を持ち、俺の威圧にも一歩も引かないとはな」
あれ? さっきまでの刺々しい雰囲気が消えて、優しい眼になってる。
どういうことだ?
「シュナイデン少尉。貴官の噂は両方とも耳にしていたので、どちらが真実か見極めたかった。試すような真似をしてすまなかったな。謝罪する」
そう言って辺境伯が頭を下げたので、びっくりした。
階位第三位の辺境伯が第七位の准男爵に頭を下げるなんてあり得ない事だからだ。
「しゃ、謝罪を受けますから頭を上げてくださいよ。対面的に不味いですよ」
「馬鹿野郎っ! 例え身分がどれだけ高くても悪いと思ったなら頭を下げるのは当然だろうがっ!」
頭を上げた瞬間に怒られた。
よくわからない人だけど、どうやら思ってたより悪い人じゃなさそうだな。
「閣下も人が悪い。シュナイデン少尉を試すために、部下の方達まで使って演技されていたのですか? 私もすっかり騙されましたよ」
隊長もやんわりとした雰囲気で辺境伯様に声をかける。
なんだ? 要は俺を試すためにわざわざ部下の人達を巻き込んで演技をしてたって事か? 部下の人達に同情して損したよ。
「あっ? 演技って何の事だ? ん? コラァ! そこのボケェ! 何、サボってやがるんだぁ! テメェは死にてぇのか!」
「す、すいません!」
軽く欠伸をした部下を容赦なく叱り飛ばすレッドウッド辺境伯。
本当によくわからない人だ。
いつも読んでいただきありがとうございます。
キャラの書き分けって文章だと本当に難しいですね。




