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北へ向かう馬車

 北へ続く街道は、平時であれば商人が行き交い、時には露店を開いて道行く人々相手に商売をしたりもして賑わいを見せていた。

 しかし、現在は戦時中と言うこともあり商人の姿はほとんど見えず、閑散としていた。

 その閑散とした街道を一台の大型の馬車が駆け抜ける。

 二頭引きの馬車であるにも関わらず、御者の乗っていない事はその二頭の馬が魔法生物(マジックサーヴァント)である事を物語っている。

 魔法生物(マジックサーヴァント)は普通の馬と違い、一定の命令をするだけで後は自動的に活動する。

 また、手入れをしなくていいので長旅には重宝されるが非常に高価な物であるため一般には普及していない。

 つまり、使用しているのは平民ではなく上流階級の者、となれば盗賊達の絶好のカモにも思えるが、騎士団や軍関係の者も使用することがあり、下手に手を出すと痛いしっぺ返しをくらう事になる。

 それ故に平民達からは道を譲られ、盗賊達には敬遠される馬車は無人の野を行くが如く、疾走していた。

 そして、その馬車の中では真剣な面持ちの五人の男女と気まずい顔をした一人の少年が顔を突き合わせていた。


「……やはり、ここは隊長である俺が最初の犠牲となろう」


「待ってくれ。アンタに倒れられたら俺達の隊は終わりだ。犠牲は俺一人でいい」


「ちょいと待ちなよ。アンタ達はこの隊にはなくてはならない存在だ。あたいが犠牲に……」


「あの……早くしませんか?」


 タウゼン隊長とロイス大尉、オルレアン少尉の自己犠牲の立候補争いにいい加減疲れてきたので水を差す。

 それでも3人は睨み合いを続けていた。

 全く困ったもんだ。

 だいたい、内容がくだらな過ぎるんだよ。

 ()()()()()()()()なんてどうでもいいじゃないか。


「リンプトン中佐、ファーレンハイト大尉からも何か言ってくださいよ」


「そう言われても……くだらないとは思うけど、気持ちはわかるし……」


「同感です。それに悪いとは言わんが、元はと言えば少尉がこんな物を出すからだぞ?」


 俺のせい? それはないでしょ?

 そもそもの始まりは隊長だ。

 共和国のリンドの街まではこの馬車でも5日はかかる。

 その間に作戦会議をするが、その前にこの馬車の中でこの隊の結成式を行うと言い出したのだ。

 隊長は事前に準備していたようで、上等な食べ物や酒まで出してくれた。

 それで俺も隊長だけに出させるのは申し訳ないと思って、魔法鞄(マジックバック)から酒瓶を一本取り出したのだ。

 だが、それを見た五人が固まってしまい、そこから誰が最初に飲むかで争い始めたのだ。

 うん、今思い返しても俺は悪くない。


「ぬぅううう! お前達しつこいぞ! 隊長として、この《林檎の妖精(アップルフィー)》は俺が最初に飲む!」


「それは職権濫用ってもんだぜ、隊長さんよ! 俺は酒には目が無いんだ! 貴族様だって簡単には飲めない幻の酒《林檎の妖精(アップルフィー)》だ。それを最初に飲めるなら命だって賭けるぜ!」


「待ちなって! あたいだって成人してから毎晩飲んでるんだ! でも安酒ばっかだし、たまには上物を味わいたいんだよ! 最初に飲ませてくれるなら今晩楽しませてやるよ!」


「いらんわ! というか、貴官は修道女(シスター)ではないかっ! 酒に溺れるなど天罰が降るぞ!」


「命の水を嗜むくらい神様だって大目にみてくれるんだよ!」


「酒を命の水とか屁理屈言ってんじゃねえよ!」


 相変わらず隊長とロイス大尉とオルレアン少尉の醜い争いは続いている。

 このままだと話が進まないな。

 俺は仕方なく別の四本の酒瓶を出して机に置いた。

 五人の目がそれに釘付けになる。


「しょ、少尉……これは……」


 隊長が生唾を飲み込みながら聞いてくる。

 他の四人も目が離せないようだ。

 そう、出したのは俺が造った《林檎の妖精(アップルフィー)》以外の酒、ワイン《ユルティム・ルージュ》、発泡ワイン《エフェルヴェサンス》、厳選ブランデー《シュペルブ》、そして米から造った最新作《無一文(むいちもん)》だ。

 流石に俺が造ったとは言えないし、ここは子爵様のお力を借りるとしよう。


「これはダウスター子爵様から頂いた物です。いつか相応しい時期が来たら開けるつもりでしたが、今日は大事な部隊の結成式。これで乾杯するとしましょう」


「あの《酒呑貴族(しゅてんきぞく)》と言われるダウスター子爵様からの酒かよ……どれも見た事ねぇけど、良いものなんじゃねえのか?」


「ええ。ここだけの話ですが、その《林檎の妖精(アップルフィー)》と同じ蔵元の物らしいですよ」


「ええええっ! ちょ、ちょっとリクト君! そんなの出していいの? これだけでひと財産だよ?」


「構いませんよ。置いとくだけなら空瓶で十分でしょうから」


 ロイス大尉とリンプトン中佐の問いに答えてから一人一人の前に酒瓶を置いていく。

 隊長には《無一文(むいちもん)》、中佐には《林檎の妖精(アップルフィー)》、ロイス大尉には《シュペルブ》、ファーレンハイト大尉には《エフェルヴェサンス》、オルレアン少尉には《ユルティム・ルージュ》を置いた。


「これで恨みっこなしです。小官はすでに飲んだ事があるので、どうぞ遠慮なく。さぁ、隊長。我らが特殊部隊結成のお言葉を」


 少し逡巡していたが、やがて全員が意を決したように酒瓶を開けてグラスに中身を注ぎ込む。

 俺も空のままでは格好がつかないので、許可を得て隊長が持ってきた酒を注いだ。


「……少尉。俺は貴官との出会い、そしてここに集まった精鋭達との出会いに感謝しよう! 我らの力を持って帝国の敵を打ち倒すのだ! 先勝祝いにグラスを掲げよう! 乾杯(プロージット)!」


「「「「「乾杯(プロージット)!」」」」」


 全員がグラスを軽く掲げて、すぐに口に運ぶ。

 その後の馬車の中はまさに狂喜乱舞状態で、怒号、絶叫、悲鳴をあげる魔法生物(マジックサーヴァント)の大型馬車は、街道を行く者達を恐怖に陥れながら、北へと疾走し続けるのだった。


いつも読んでいただきありがとうございます。


今回より新章突入です。

今後ともお楽しみに。

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