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集結、特殊部隊

 若い文官の報告は室内の全ての人間を動揺させるに十分な内容だった。


「これはまずい事になりましたな。ヴォルドン司令長官はレッドウッド辺境伯の北方方面軍の指揮権を司令長官権限で無理矢理奪っている状態です。そこにジェニングス辺境伯の東方方面軍まで出されては北方方面軍、ひいてはレッドウッド辺境伯の面子は丸潰れです」


「自身の采配が悪いのではなく、北方方面軍が弱いから攻略できないと言わんばかりですからね。これは我が帝国軍の沽券にも関わる問題です」


 宰相殿とテラーズさんが状況を分析して苦い顔をする。

 それにしてもヴォルドン司令長官はかなり横車を押しているようだな。

 この話が下手に(こじ)れたら各方面軍と中央軍との間に亀裂が生じかねない程だ。


「チッ! やはり数合わせで昇進などさせるからこんな事になるのだっ! やむを得んな。ソフィア、今すぐタウゼン大佐に召集をかけさせろ! ドレッドはジェニングス辺境伯を帝城に呼び出せ。それで時間を稼ぐ」


「「はっ!」」


 陛下の命令にソフィアさんと宰相殿は足早に部屋を出て行く。

 これは俺も準備した方がよさそうだな。


「陛下、小官も出動準備をしておきますので、これにて失礼します」


「あぁ……すまんな。みっともないところを見せてしまって」


 ヴォルドン司令長官に対する発言の事を言ってるんだろう。

 陛下は苦笑しながらそう言った。


「みっともない事などありません。陛下のお怒りは兵を想っての事。寧ろ、そのように言ってくださる陛下に益々の忠誠を誓わせていただきます」


 俺は本心を素直に言った。

 兵を捨て駒にしか考えてないならこんなに怒ったりしないだろう。

 大切に想ってくれているから、無茶な命令をする者に本気で怒っているのだ。

 臣下にしてみればこれ程嬉しい事はない。


「ふっ、そうか。なるほどな。ジェニングスやヴォルガング、リンテールの小娘達がお前に興味を持つ理由がなんとなくわかった。さっさと任務を終わらせて戻って来い。帰ってきたら、一杯付き合え」


「はっ! ならば秘蔵の樽を持参致します」


 俺はそう言って足早に執務室を出た。

 チラッと後ろから『なにっ! 秘蔵の樽とはどういう事だぁ!』と聴こえた気がしたけど気のせいだろう。

 いくらお酒に目がない陛下でもこんな状況でそんな事を言うはずがないからな。

 俺は城門を抜けてから《魔力浮遊》でダウスター子爵邸まで一気に飛んだ。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 それから小一時間が経った頃、軍令部からの呼び出しがあり、俺は帝国軍軍務省に出頭した。

 するとそこには、顔見知りが立っていた。


「お久しぶりです。大尉殿」


「シュナイデン少尉も息災で何よりだ」


 以前、昇進の辞令を受けにきた際に出会ったオスカー・ファーレンハイト大尉だ。

 相変わらずの厳つい顔だが、声色からするに怒っている訳ではないようだ。


「では、行くぞ。他の方々はすでに集まっておられるからな」


「大尉殿が案内してくださるのですか?」


「目的地は同じだからな」


 それだけ言うとさっさと省内に入って行ってしまうので慌てて後を追った。

 足早というより駆け足に近いような大尉殿に追いついて、無言で後ろを歩く。

 本当に話してない時は怒っているようにしか見えないから大尉殿は損をしているように思うな。

 やがて、とある部屋の前まで来ると大尉殿は立ち止まる。


「オスカー・ファーレンハイト大尉であります。リクト・フォン・シュナイデン少尉を連れて参りました」


「入れ」


 中からの返事を聞いて、扉を開けて入る。

 室内には4人の男女が長机を挟んで座っていた。


「遅くなりまして、申し訳ありません」


 俺はまず最初に上官達を待たせていた事を詫びた。


「へぇ。陛下のお気に入りで入ってきた割には礼儀を弁えてるじゃないか」


 無精髭を生やした大柄な男は俺を見るなり、ニヤついた表情でそう言った。


「止めろ、ギュンター。それは陛下に対する不敬になるやもしれんぞ」


「おいおい、オスカー。同期の俺より後輩の肩を持つのか? いつから権力に媚びるようになったんだ? あぁ!」


「貴様っ!」


 ギュンターと呼ばれた大柄な男と大尉殿が睨み合う。

 おいおい、こんな事でいいのか?

 今からチームとして動く事になるんだぞ?


「やめなさいっ! 2人とも、出撃を前に気分が高揚するのはわかりますが、新兵ではないのですよ? 貴方達こそ弁えなさい!」


 俺の不安を払拭するかのようにソフィアさんが一喝する。

 すごい! さっきまでとは別人だぁ!


「チッ! わかったよ!」


「すまない、少尉。どうやら久しぶりの出撃を前に平静ではなかったようだ。この通り謝罪する」


 拗ねたようにそっぽを向くギュンター殿と頭を下げる大尉殿。

 同期とか言ってたけど、対照的な2人だな。


「少尉、気にすんなよ。あの2人はいつもあんな感じだからよ」


 今度はすごい軽装の褐色肌の女性が声をかけてきた。

 はっきり言って服や鎧より肌の露出面積の方が明らかに多い。

 だが、身体は鍛え込んでいるようで均整のとれた肢体、特に腹筋は見事だな。


「おいおい? 俺なんかに見惚れるんじゃないぜ。まぁ、ヤリたいってんなら一回お試ししてみるか? 死因が腹上死になってもいいならな」


 そう言って笑いながら俺の肩をバンバン叩く。

 結構、痛いんですけど……。


「……もう話してもいいか?」


 長机の端の席に座っていた人がボソッと口を開いた。

 その声に全員がハッとして席に着く。

 俺も空いてる席に座った。

 口を開いたのは多分、男の人なんだろうけど、よくわからない。

 なぜならその人はフルフェイスの兜をかぶり、全身鎧(フルプレートメイル)を着込んでいたからだ。


「……ウォーレイク元帥直属のアラン・タウゼン大佐だ。最初に言っておくぞ。俺の命令は絶対だ。背けば軍法会議を待たずしてその場で処刑する。いいな?」


 これはまた物騒な事を言う人だな。

 まぁ、俺はここでは一番下の階級だから逆らった時点で抗命罪(こうめいざい)確定だ。

 しかし、軍法会議無しで処刑ってのはなかなかハードだ。

 気をつけておこう。


いつも読んでいただきありがとうございます。


今回で遂に100話!

それにしては話の内容がキリが悪い!

こういう話の調整とかも今後は勉強しないといけないと思う今日この頃。

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