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論功行賞

「これより論功行賞を行う! 名を呼ばれた者は即座に前に出よ! 先ず、後方支援にて……」


 隣の領軍との戦闘から2日が経ち、今日は戦闘における兵の論功行賞が領軍指揮官であるダウスター男爵によって行われていた。

 俺は帰陣の後、自身のテントで寝ていたが、起きた時には既に(いくさ)が終わっていた。

 そこで、運良く曹長殿を見つけたので、事の顛末を聞いて更に驚いた。

 ダウスター男爵様は俺の帰陣の後、すぐ全軍を進軍させて隣領土に侵攻した。

 敵陣はかなり浮き足立っており、まともな隊列も組めていないままだったそうだが、それでも一応は軍を整え迎え撃つ型をとったそうだ。

 ところが、いざ戦闘が始まると我先に降伏する兵士が続出、中には威勢よく突撃してきたと思ったらワザと斬られたフリをして倒れる者までいた。

 俺が聞いた通り、今回の戦いは敵国との戦争ではなく、あくまで決闘の延長でしかない。

 味方に斬り殺されて死ぬなんてみんな嫌なんだろう。

 ましてや、既に自軍の司令官は倒れている。

 息子の少尉がいくら敵討ちと奮起を促してもみんな毛ほどにも感じない。

 敵も味方も半ば馴れ合いのような戦いを繰り広げていたそうだ。

 そんな馬鹿馬鹿しい(いくさ)に苛立ちを隠せなかったのが筋骨隆々の我らがダウスター男爵様だ。


「こんな(いくさ)で有事の際に闘えるかっ! 貴様らはそれでも誇り高き帝国軍人かっ!」


 愛用の戦闘斧(バトルアックス)を叩きつけて、恐ろしい顔で怒鳴り散らしたそうだ。

 それで鼓舞するつもりだったようだが、結果は敵味方関係なく萎縮してしまっての戦意喪失状態。

 曹長殿は慣れてるからか問題なかったようで進軍を続けたそうだが、ほとんどの敵兵が武器を下ろしていたそうで、戦う事もなく敵の本陣までついてしまった。

 そこは既にもぬけの殻で、武器や兵站が残ったままの無人の陣だった。

 罠を警戒しながら慎重に捜索して、一際大きな天幕の中を見ると息子の少尉が一人で膝を抱えて震えていたそうだ。

 あまりにも哀れに思った曹長殿は降伏勧告して、少尉が受諾したので(いくさ)は終了となったそうだ。

 本当に呆気ない幕切れだったな。


「次っ! サイモン曹長!」


「はっ!」


 おっと、回想に図っている間に論功行賞は進んで、次は曹長殿の番みたいだな。


「サイモン曹長は勇猛果敢にも単身敵陣に突入し、敵軍の副官である少尉を降伏、捕虜とした。よって、1階級昇進し、上級曹長へと昇進させる。これからも責務に励むように!」


「はっ!」


 周囲からは称賛の喝采が鳴り響いた。

 曹長殿……いや、上級曹長殿は我が軍の中でも人気者のようだ。


「最後になるが、リクト二等兵! 前に出よ!」


「はっ!」


 上級曹長殿への喝采も止まぬ間に矢継ぎ早に俺の名が呼ばれた。

 何だろう? 時間が押しているのか?

 それに妙に男爵様がニヤニヤしているような気がする。

 もしかして、昇進は無しとか?


「随分、待たせたな。それでは貴官の論功行賞を始める。先ずは単身で斥候の任務につき、敵の斥候分隊と交戦、3名を排除して分隊長である軍曹を捕虜とした。更に敵からの情報収集に成功の後、敵本陣への奇襲作戦を敢行、敵軍指揮官ダニート・フォン・ライエル男爵と護衛3名を討ち取り、護衛2名を捕虜とした。これは我が軍の勝利を確約せしめた戦功と認める!」


 周りの兵達からは驚きの声が上がった。

 俺の戦功は男爵様と准尉殿、上級曹長殿とその周りにいた数名しか知らない。

 ここで初めて知った者も多くおり、中には詐称ではないかと疑う者までいた。

 しかし、今は男爵様の前なので、それ以上の異論の声は上がらなかった。


「しかし、あまりにも戦功が大きく、前代未聞である。よって、私だけの判断ではどう昇進させるかの決断できなかった」


 あらら。

 じゃあ、昇進はお預けって事かな? せめて、褒美に何か欲しかったな。


「そこで帝都軍令部に問い合わせ、今回の戦功に対してどう報いるべきか検討してもらった」


 そこまでやるってか!

 帝都軍令部って、帝国軍の中枢機関じゃないか!

 田舎領軍の二等兵の事なんか聞いても怒られるだけだろうに。

 待てよ……それで俺の昇進が無くなったとかじゃないよね?


「軍令部でも今回の戦功は高く評価された! それに伴い、軍令部から特進の打電があった!」


 おおおっ! やった!

 特進という事は二階級特進だ! 二等兵から一気に上等兵になれる。

 これで過酷な行軍訓練でも多少は楽が出来……。


「リクト二等兵を五階級特進し、軍曹とする! これで貴官も下士官の仲間入りだ! これからも一層、責務に励むように!」


「…………ぐ、軍曹でありますか?」


「ん? 返事はどうしたっ!」


「はっ! 失礼しました! これからも帝国のために粉骨砕身の気概にて責務を(まっと)う致します!」


 つい、男爵様の迫力に押されて答えてしまった。

 周りからもさっきよりも大きな称賛、感嘆、驚愕の声が次々と上がっていた。

 俺が一番ビックリしてるんだけどなぁ……。


拝読ありがとうございます。

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