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地獄への第一歩

急に軍隊物が書きたくなりました。

 ウルグ平野は街からも街道からも外れた場所にある。

 広大で起伏の少ない平原は年中変わらない温暖な気候もあってか平民が行楽に訪れる比較的人気の場所だ。

 今はちょうど花が平野な中に咲き乱れており、休日ともなれば家族連れで賑わい、それを標的に屋台や出店を出す商人もいる。

 今日も多くの人がウルグ平野にやってきているが、いつもの行楽のような和やかな雰囲気はなく、物々しい雰囲気が平野一帯に広がっていた。

 1000人程のいる人々ら武装し、約半数ずつに分かれて平野の両端で対峙している。

 そう、これから戦が始まるのだ。

 そして、この俺リクトの物語もここから始まるのだ。


 ヴァランタイン帝国の片田舎にあるダウスター男爵領。

 これといった名産品はなく、山と川しかないよく言えば緑豊かな土地だ。

 遊ぶところも観光地もないからウルグ平野みたいな場所で花を愛でるぐらいしかする事がないんだ。

 正真正銘の田舎で、その田舎の領軍が俺の現在の配属先だ。

 俺の名はリクト。

 ダウスター領の平民の次男坊だ。

 今年15歳で成人したけど、土地は兄貴が継ぐから俺には家を出るしか選択肢がなかった。

 おまけに家を出る選択肢しかないくせに、俺みたいに家を出た者が就ける仕事なんかほとんどない。

 職人に弟子入りするか、商家の下働きをするか、冒険者になって旅をするか、軍に入って国に仕えるか。

 残された未来なんかそれぐらいだろう。

 しかし、どれも簡単になれるわけでもない。

 職人だろうと商家だろうと人数に限りがある。

 冒険者は誰でもなれるが、こんな田舎には多くの依頼があるわけないので冒険者同士で依頼の取り合いになって、半数以上は暇を持て余している。

 軍にしてもこんな田舎じゃ兵士も余っている。

 だから毎年、高齢の人と入れ替わりの人員募集しかない。

 だから何の職につけない奴らも当然いて、大抵は大きな街に移住して夢破れて裏通りでひっそり日雇いの仕事をして暮らすかを盗賊のような犯罪者になってしまうか。

 平民には生きにくい世界だよ、本当。

 俺は運良く軍の入隊試験に合格して領軍に入れた。

 帝国の兵士はどこの領で志願しようと全て帝国軍に属すことになる。

 それを帝都の軍令部が統合して兵士の配属先を決めるんだが、基本的に志願した近くの領軍に配属される。

 軍令部からの指示で転属になるのは、ある程度出世してからだ。

 士官学校を出て卒業と同時に《准尉》になった者ならともかく、俺みたいな平民上がりで最下級の《二等兵》からの者には転属なんて先の先の事だ。

 しかし、それでもよく入れたもんだ。

 父親が俺の将来を考えて仕事の合間に剣の稽古をつけてくれたおかげで、多少なりとも剣が使えたからそれで採用が決まったんだと思う。

 父親に感謝だな。


「おい! そこの片刃(かたは)! こっちに来い!」


 昔のことを考えていると急に声をかけられる。

 それにしても片刃(かたは)って……。

 俺の武器が自前の片刃(かたは)の剣だからってそんな呼び方するか?

 それにこれは一応、《(かたな)》って言う、剣とは別物らしいんだけど……まぁ、いいさ。

 何にしても急いで声の主である領主の息子の前に駆けつけ、敬礼する。


「はっ! お呼びでしょうか! 准尉殿!」


「馬鹿者! ここでは隊長と呼べ! 貴様は最近配属されたばかりで今回が初陣と聞くが相違ないか?」


 隊長って……。

 領軍だからギリ許されてるけど、本来この人数の指揮は少尉以上の士官でないと指揮権はない。

 准士官である准尉では指揮権はないし、まして、この領主の息子も今年士官学校を出たばかりで今回が初陣のはずだ。

 まともな指揮ができるとは思えない。

 元々いる曹長に分隊指揮を任せればいいのに、出しゃばったな。


「返事はどうしたっ!」


「はっ! その通りであります! 隊長殿!」


 隊長という言葉に表情が和らいだが、すぐに精一杯の険しい表情に戻る。

 呼称一つで満足するってどんだけ承認欲求が強いんだよ。

 こんなんで大丈夫だろうか。

 今から戦争が始まるんだぜ。


 相手は隣領の領軍だ。

 隣領の一部で大規模な山火事が起きて、そこに住う平民達が被害にあった。

 当然、隣領主が解決すべき問題なのに火事が起きた山の一部がウチの領土の山と重なっており、火事の原因がウチにあるとして、賠償を求めてきた。

 それに激怒したウチの領主の息子が隣領主に直談判しに行ったが、門前払いを受け、さらにヒートアップ。

 領主同士のやり取りでも両者一歩も譲らず、戦に発展してしまった。

 帝国としても田舎領主同士の小競り合いなんかに興味はないんだろう。

 帝国に提出された領主同士の開戦の報告にも『許可する』とだけ返事があったそうだ。

 大貴族の何万という戦争ならいざ知らず、たかだか 500人程度の領軍同士の戦なんて仲裁する気も起きないらしい。


「おいっ! 片刃(かたは)!」


「はっ!」


「貴様に任務をくれてやる! 斥候として領軍の動きを探ってこい! もし、見つかったなら戦闘も許可する!」


 えっ! マジかっ!

 単独での斥候任務なんて熟練の士官にだって難しい任務なんだぞ?

 それを最下級の二等兵で初陣の俺にやらせるなんて、正気なのか?


「質問があります! おれ……自分、1人ででありますか?」


「当然だ。危険な任務である故にこれ以上人材はだせない。貴様の片刃(かたは)を存分に振るうがよい」


「……了解であります」


 今、俺の地獄行きが決まった。


拝読よろしくお願いします。

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