プロローグ
東京某所――
その女が出てきた途端、カメラのフラッシュで何もかも見えなくなった。その妖艶な女は、どのカメラにも忠実に対応し、自分が1番輝ける位置を見つけ、ポージングをする。
そんな様子を俺は、遠目から見つめる。あんなに美人な女にとって、俺のような一般人には目もくれないだろう。
電灯の下で、佇む俺はまるであの女とは正反対のようだ。同じ人間とは思えない。
「先日の不倫疑惑について一言お願いします!!」
マイクを持ったアナウンサーが女に問う。そうだ、カメラが求めているのは彼女の美貌ではない。彼女の情報なのだ。
それを求め、毎日のように張り込みをし、見つけた途端に質問を繰り返す。そのような日々をおくっている彼女にとって、これまでの人生において、これほど辛いものは無いだろう。
だが、今日は何かが違う。普段だと、カメラとアナウンサーを退けマネージャーが乗った車に乗り込むはずだが、今日はそれをしない。
マネージャーも一向に現れず、アナウンサーたちが寄って集って同じ質問を問う。女はずっと黙秘をしており、一般人たちもこの人集りに異変を感じたのか、野次馬も集まり始めた。
俺がその場を離れようとその時。女が声を発した。
「待って!!!」と。
俺は歩く足を止め、くるりと彼女に向いた。
「何の用ですか」
俺は女に問う。彼女は1歩1歩ゆっくりと俺に近づいていく。カメラも、アナウンサーも気にせずに。そして、サングラスを外して、俺に言った。
「私と組みなさい。世界を見せると、約束してあげる」
女は妖艶に笑って、俺に手を差し出した。
俺は、その手を取って
「もちろん」
と、答えた。
これが、全ての始まりだったのである――――。