表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

狭い水槽の中で

 心無い人の嗤い声が、水槽の中でいつまでも響いている。

 いや、心があるからあんなにも汚く嗤えるんだ。


 その嗤い声に、それを断罪したくて仕方がない人の怒号も混じって、更に響いていく。

 狭い水槽の中で跳ね返って、縦横無尽に暴れている。


 ケラケラと、嗤う人。

 沸々と、憤る人。


 僕はどっち側にも立てなくて、真ん中でただその声たちを聞いている。

 吐き気がするのに、悲しくなるのに、ただ聞いているだけしか出来ない。



「苦しい」



 口から汚い泡を吐き出す。息苦しくて堪らない。

 代わりに水を飲み込む。それでも苦しい。


 けれど、これを全部飲み干したら、いつか綺麗な空気が吸えるかもしれない。

 そう思えたから、頑張って飲むことにした。

 喉は鳴りっぱなしだった。


 そして、ようやく飲み干した。お腹は何かを孕んだように膨れた。少し、恥ずかしくなる。

 でも、これで綺麗な空気を吸うことができる。


 僕は両手を広げて、大きく息を吸った。

 そして、とても深く息を吐いた。



「……う」


 どうして。どうして腐ったような匂いがするんだ。汚い水を吐き出さないように、必死に口を手で塞ぐ。


 泣きそうな顔で、周りを見渡した。


 ぼやけた視界に映ったのは、死体だった。


 嗤っていた人も、怒っていた人も、関係ない人までも死んでた。僕が水を飲み干したせいで、息ができなくなって死んだんだ。



 腐りかけの眼球が、僕を睨んでいた。

 お前のせいだと、睨んでいた。


「違う。こんなことがしたかったんじゃない」



 後悔が、水槽の中で泳ぎ始めた。水はもうないのに、皮肉っぽく大袈裟に泳いでいる。



 僕は耐えかねて、全部水を吐き出した。

 死んだ人たちも、僕も、水槽の底に沈んだ。




 ただ、綺麗な空気が吸いたかっただけなのに。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] あと一歩という所で、これが具体的にどこの話なのかが分からなくなっているという点が影を落としている雰囲気をかもしだしていてよいと思いました。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ