オレンジ色の想い
恋の回覧板②
夕暮れ時に伝える想い。
過去作品。
2009.03.19
「まだかよ。打ち上げ始まるぜ?先行くからな」
今日でさよならとなる教室を名残り惜しそうに見つめる彼女の横顔に、わざと乱暴な言い方をした。
毎日、くだらない事で言い合いをした彼女に元気を出してほしくて。
ただ、優しい言葉は照れ臭くて…つい、こんな言い方になってしまった。
本当は、励ましてやりたいのに……。
後から追い付いてきた彼女が俺の隣に並んで歩く。
ペタペタと廊下を進む音が何だかやけに響いているように思う。
チラリと横に視線を向けると彼女は俯き加減で暗い表情をしていた。
チッ。
心の中で恥ずかしがり屋な自分に舌打ちをする。
「気にするなよ。またいつだって会えるんだし」
いつもなら、『ブスがそんな顔してるとさらにブスだぜ』ぐらいの悪態をついて彼女を怒らせて、気を紛らわしたりするのだが、今日はやめておいた。
慣れないことは慣れていないわけで…言葉はやけに早口だった。
驚いたようにこちらを見ている彼女に何だか目を合わせられない。
だって、こんな事で緊張して早口になるなんて、格好悪いにもほどがあるだろう。
再び自分に舌打ちをしかけた時、彼女のクスッという声が耳に届いた。
耳を疑いながら視線を彼女に向けると、彼女は笑っていた。
「あははっ。そうだね。いつでも会えるもんね」
彼女のその笑顔が眩しくて、歩いていた足が止まっていた。
ちょうど階段で、彼女は数段、降りてから俺が隣にいないことに気付いて振り向いた。
俺の背後の窓から夕日が照らされて、彼女の顔や髪、制服がオレンジ色になっていた。
何事かと首を傾ける彼女に俺は今しかないと思った。
今なら二人っきりだ。
今まで心の内に隠して、日に日に育っていた想いを彼女に伝えるには今しかない。
勇気を振り絞って俺は口を開いた。
「俺…俺さ、おまえのことが…――」
そして、俺は大切な人のとびっきり素敵な笑顔をこの後、オレンジに染まったこの場所で見ることができたんだ。
この話は階段の踊り場から上を見上げるシーンが想い浮かんで作られた作品です。
放課後の学校。
夕日が窓から差し込むオレンジの世界。
階段の中段で振り返る後ろ姿。
逆光で顔は映らない姿。
どこか緊迫した空気。
ギュッと握り締める手。
1枚絵がそこにはあって、そこに物語を進めていました。
2018.10.26 天空鈴