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honey×coffee  作者: 黒宮涼
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New year Ⅲ

 神社まで送ってくれた京菜ちゃんの運転手さんは、「お綺麗ですよ」とお世辞を言ってくれた。

 私は着慣れない着物の袖を指先でつまんで、何度も「変じゃない?」と椿ちゃんに確認するように尋ねた。そのたびに彼女は「変じゃないよ」と笑顔で返してくれる。


 赤地に、少しくすんだピンク色や白色の花柄が全体にちりばめられている着物だった。最初は少々子どもっぽいのではと思ったが、着てみたらそうでもなく、落ち着いた色合いのように思えた。長い髪の毛は頭の上でくるくるとお団子みたいに巻かれていた。そこに白いかんざしが加えられている。外は寒いからと、椿ちゃんがふわふわもこもこの上着を貸してくれた。


 椿ちゃんは青い色の着物を着ていた。京菜ちゃんは深緑色だった。二人とも私と同じような柄の着物で、私と同じような髪形にしていた。

 神社の出入り口付近まで伸びた行列の外。門の前で和道部男子陣が待っていた。

 朽木くんと君島くんが先に気づいて、マルクは一瞬遅れてこちらに気づいた。


「おおっ」と歓声のようなものが聞こえたような気がした。

 三人がこちらに駆けてきて、私たちの前で止まった。


「いい感じじゃん」と朽木くん。

「三人とも似合ってるよ」と君島くん。

「ワルクナインジャナイノ」とマルク。


 みんなが褒めるので私たちは照れるように笑った。


「馬子にもいしょ――」


 最後に朽木くんが余計なことを言った。

 すかさず椿ちゃんが朽木くんの後頭部にチョップをかました。


「いってぇな」

「おばか」


 そんな二人を見て、私は微笑んだ。

 首から下げていた一眼レフカメラを持って、みんなの写真を撮った。


 賽銭箱の前の行列は、四人ずつ並ばなければならないほどの人数だった。市内で最も大きい神社だから毎年のことで、三が日は仕方のないことではあった。

 マルクと京菜ちゃん。君島くんと椿ちゃん。この四人は自然と組みになって列に並んだ。あまりものの私と朽木くんは、あまり者同士二人でその後ろに並んだ。


「ちみっこい先輩。はぐれないでくださいよ」

「もー。何でみんなして私のこと、子ども扱いするんですかー。あと、ちみっこいっていうなー」


 私は朽木くんに反論して、隣にいる彼の背中を掌で何度も叩いた。


「大体。私、みんなより年上なんですからねー。忘れないでくださいよー」

「だったら、年上らしく振舞ってくださいよ」


 返す言葉が見つからなかった。思えば私は、一度も後輩たちに先輩らしいことをした覚えがない。


「いつかしますー」

「いつかっていつですか」

「そのうちですー」

「はいはい。気長に待ってますよ」


 朽木くんは頷くと、ほほ笑んだ。

 列は少しずつ進んでいた。待ちくたびれた朽木くんが椿ちゃんのうなじをつついて遊んでいた頃。私は一人考えにふけっていた。


 朽木くんはお調子者だし、すぐ意地悪言うし、するし。基本的に誰にでもこんな態度だけれど、本命の女の子にはどんな対応をするのだろう。もしかして優しくするのだろうか。それはそれで見てみたいものだ。

 もしこの場に朽木くんの好きな人がいたとしたら。あまり者は私一人で。ものすごく疎外感を覚えるんだろうな。


「先輩!」


 突然、朽木くんに呼ばれて顔を上げた時だった。

 首元に圧迫感を覚えて気が付いた。誰かがカメラストラップを引っ張っている。

 この人混みの中、偶然にそうなったわけでもなかった。視界に男の人の角ばった手が入ってきたのだ。私の斜め後ろから、それは唐突に伸びてきた。

 私はカメラ本体をとっさに掴んだ。


「だ、め」


 これだけは盗られたくない。絶対にダメ。そう思って力を振り絞った。

 力負けするのが先か、私の首が絞まるのが先か。

 そのとき、朽木くんが男の手を掴んだ。

 無言のまま、朽木くんが男を睨むように見つめた。男はそれに怯んで手を離すと、そそくさと列から出て、逃げていった。

 私の呼吸はあらかった。心臓の高鳴りはしばらく落ち着きそうになかった。足元から崩れ落ちそうになるのを必死で耐えた。それでも体は震えていた。

 カメラを強く握りしめながら、前方を見た。


「大丈夫ですか」と京菜ちゃんが心配してくれていた。みんなが、こちらを見ていた。


 椿ちゃんはさっきの男に腹を立てたみたいだった。何故捕まえなかったのかと、朽木くんを責めた。


 私は首を振りながら「大丈夫ですー。心配しないでー」ということしかできなかった。

 そのあとのことは、あまり覚えていない。

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