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honey×coffee  作者: 黒宮涼
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Christmas party Ⅰ

after story

 小さなころ。私は時々家に来る金髪の男の子のことが気になって仕方がなかった。


 大人たちに囲まれても凛とした態度でいるその子のことを、すごいなと思った。私も見習おうと努力した。


 ある時、男の子といつも一緒にいる白髪のおじいさんが私に話しかけてきた。杖をついて大変そうだったので、私はおじいさんと椅子に座って話をした。何の話をしたのかはもう覚えていないけれど、たぶん、男の子と仲良くしてやってくれとか。そんな感じだった。たどたどしい日本語だったのは覚えている。


 あとで聞いた話だ。そのおじいさんは父の取引先の会社の社長さんだった。おじいさんは私のことを非常に気に入ったらしく、孫の嫁に来てほしいと言われたそうだ。


 父はそのころ、イギリスでの事業の成功を目指していた。なので迷うことなくその申し出を承諾したらしい。娘の意見も聞かずに、勝手にだ。


 そうして私とマルクは許嫁になった。


 私としては文句などなかった。男の子のことを知りたいと思っていたし、お近づきになれるなら何でもよかったのだ。けれど、当時は許嫁がなんなのか理解していなかったからそう思っていたのかもしれない。


 父に男の子を紹介されたとき、私は純粋に嬉しいと思った。男の子も最初こそ何が何やらわからないという顔をしていたけれど、すぐに打ち解けた。


 イギリス人のマルクに、言葉が通じないことはたびたびあった。けれどそういうときはジェスチャーや、絵を描いたりして必死に伝えた。


 マルクはいつも小難しい本を読んでいる私の誕生日に、絵本をプレゼントしてくれた。それは今でも私の宝物である。


 彼は私にとって初めての友だちであり、好きな人になった。


 それから何年か後。おじいさんが亡くなったと知らされた。私は酷くショックを受けた。マルクのところへ行くと、もうお別れだと言われた。社長がマルクの父親に代わったので、イギリスに帰ることになったのだ。


 マルクは笑顔を見せることなく行ってしまった。


 だから高校生になって留学生としてマルクが日本に来たときは、本当に驚いたのだ。


 私は再会を素直に喜んだのに、彼は違っていたから。あのころとは全然。違っていたから。



   ***



「京菜。フィアンセだからって無理してオレと一緒にいなくてもいいんだゾ」


 文化祭を回っていたら、マルクがそう言ってきた。


「オレは一人でも大丈夫なんだからナ」


 私は首を振った。


「そんなの関係ありません。私はあなたと一緒にいたくているんです」


 マルクが剣呑な目つきで私を見る。


「じいさんとお前の父親が勝手に決めたことナンだ。従う必要、ナイ」

「なら、私も勝手にマルクのこと好きでいます」

「ホンキか」

「本気です。それがいけないことだとは思いません」

「……勝手にしろ」

「はい。今はそれだけで十分です」


 隣にいさせてくれるだけで、私は十分だった。だから嬉しかった。


 嘘ではない。




   ***



 和道部の活動日だった。今日は君島くんと三河さんから重大な発表が二つもあった。


 一つは、二人が正式に交際を始めたこと。それについて私はさして驚かなかった。かねてより仲が良く見えていたので、二人はいつ付き合い始めるのだろうと思っていた。 


 そしてもう一つは、クリスマスパーティを開くこと。


「別に構いませんが。二十五日は私もマルクも家の用事がありまして……」


 困ったように私は言う。

 私の隣に座っていたマルクも無言で頷いた。 

 その日はマルクの父を交えてのパーティがあるのだ。


 君島くんは焦ったように「じゃあ、その前の日はどうですか」といった。

「それなら」と私。


 マルクは一瞬顔をしかめたが、何も言わなかった。


 正直、私は胸が踊るような気持ちでいた。

 クリスマスパーティを友だちとやるなんてこと、初めてだったのだ。


 そもそも私は、昔から友だちが少なかった。金持ちだからと敬遠されてきた。今でも教室に行くと居心地が悪い。だから私は毎朝学校へきて部室で一日を過ごす。


 高校へ入学してすぐに文芸部が廃部になっていることを聞いた私は、三河さんが来るまでは部室に一人きりだった。高校三年間。ずっとそのままだと思っていた。でも違った。三河さんが、君島くんが。みんながきて騒がしくなった。


 嬉しかった。

 みんなと一緒に過ごすこの時間が、今では宝物だ。


「でもその日って終業式でしょう。部室って使えるの?」


 三河さんが言う。


「蔵元先生に頼んでみましょう」と私は返した。


 きっとあの優しい先生なら、いいと言ってくれるはずだ。


「それにしてもー。まさか、クリスマスを前にして二人が付き合い始めるなんて思いませんでしたー。どこの誰ですかー。今は告白するつもりはないって言っていた人はー」


 突然、瀬戸先輩が先ほどの話を蒸し返す。

 むくれている様子だった。


「あれはっ。三河が先に言ってきたんでっ」


 君島くんが顔を真っ赤にして言った。


「ふーん。浩彦。瀬戸先輩にそんなこと言ってたんだー」


 胸の前で両腕を組んで、朽木くんが言う。その顔は面白いものを見つけた子どものようだ。


 瀬戸先輩と朽木くんがそれぞれ、君島くんの隣に座っている。彼は逃げ場がない。この席に座るんじゃなかった。とでも思っているだろう。


「二人とも。君島くんのことあんまりいじめないでね。見てて面白いけど」

「おい。三河。お前も面白がってんじゃないよ。お前も当事者だろ。ちょっとは恥ずかしがるとかないのか」


 怒るように君島くんが言う。


「んー。ない!」


 とびっきりの笑顔を見せながら三河さんは言った。


 こういう話をして、三河さんは恥ずかしがるという乙女な部分を見せることはなかった。


「三河をからかってもつまらん」と朽木くんが残念そうに言った。


 私はくすくすと笑った。


「部室の飾り付けはお任せください」


 どうせ終業式にもでるつもりはなく、教室に顔を出すことすらするつもりはないので、私はそう言った。


「任せてもいいんですか。最後の日ぐらい……」


 そこまで言って君島くんが口を閉じた。

 言ってはいけないことを言ってしまったかのように目を泳がせる。


「気にしないでください」


 私は笑顔でそう言った。

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